プロローグ
勢いよく血を噴き出し首から解離したゴブリンの頭部が宙を舞い、無造作に地面へと転げ落ちる。それにより指示が送られてくるはずの信号元を失ったヤツの肉体がゆっくりと音を立て倒れ、首先から溢れ出る赤黒い液体が石草を侵食していく。
両肩に備えられている二門の砲身から灰色の煙を上げる人工的な鋼鉄の身体を持つソイツが、俺に背を向け仁王立ちで前にいる。
まばゆい光と共に姿を現したソイツは、一瞬にして複数いるゴブリンの一体を消し飛ばしたのだ。
突如として自分たちの目の前に発生した異常・光景に残りのゴブリンたちが、動揺した様子を見せ始める。
一歩後退りするゴブリンたち。暫しソイツの様子を伺うと一体のゴブリンが「キシャー‼︎」と叫び声を上げ、再び襲いかかって来た。
高く飛び上がったゴブリン。ヤツのその手に持つ小ぶりな斧がソイツへ向け、勢いよく振り下ろされる。
ガッキーン‼︎
ゴブリンの持つ斧とソイツの身体が接触したのであろう金属音が辺りに響く。
自身の振り下ろした斧がヒットしたことにゴブリンは、その顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべる。がしかしヤツが見せたその表情は一瞬にして、何かに驚愕するような表情へと変貌していく。
鋼鉄の身体を持つソイツは自身の両腕を前でクロスし、ゴブリンからの攻撃を真正面に防御したのだ。
驚きはそれだけでは無かった。
ゴブリンとソイツの間から零れ落ちた何かがパラパラと地面に散乱する。空で輝く光に当てられ反射を見せるそれら。
目を凝らしてよく見ると、それは石で出来た何かの破片だった。俺はそれが”斧の破片“であることを理解した。そうゴブリンが使っていた斧がソイツの身体に負けたのだ。
自身が持つ斧が壊れたことを理解したゴブリン。一度距離を取ろうとヤツは、ソイツから離れるために蹴りを入れる。刹那、その動きを見逃さなかったソイツがクロスしていた両腕の一つを伸ばし、離れようとするゴブリンの足を掴み。
片足を掴まれ宙ぶらりんになるゴブリン。
標的を手にソイツは、空いたもう一方の腕を引きその手に拳を形成すると宙ぶらりんになっているゴブリン目掛け、思いっきりその拳を放った。
ドゴーン‼︎
クリティカルヒットする拳。それによって発生した爆風と共に後方の木々へ吹っ飛ぶゴブリン。
吹き飛ばされた方に残り数匹のゴブリンの視線が向く。そのせいか俺以外の誰も気づいていなかった。ソイツが握る手に残っている掴まれていたゴブリンの片足。残った片足の存在から放たれたパンチの威力が分かる。
後方の木々を見ていたゴブリンたちの視線が再びソイツに向けられる。そんな中、一体のゴブリンは悔しそうに睨みつけるも力の差を理解したのか?ヤケクソにソイツ目掛けて持っている斧を投げた。
投げられた斧を瞬時に認識したのか?それとも相手が投げてくることを予測していたのか?どちらにせよソイツは自身に迫る斧に照準を合わせ肩に砲で撃ち落とし、そのまま放った弾丸を投げてきたヤツに貫通させた。
弾丸によって心臓諸共半身を吹き飛ばされたゴブリンがパタっとまた一体、地に伏せた。
仲間が三匹やられさすがに理解したのか?一秒でも早くこの場を去ろうと残りのゴブリンたちは武器を捨て、我先にと一目散に逃げていく。
自分を襲ってきたゴブリンたちが逃げて行くその様子に俺は、ホッと安堵の息をこぼす。けれど目の前に立つソイツは、そんなこと思っていないらしい。
肩にある砲身を逃げて行くゴブリンたちに合わせ、連続して発砲音を鳴り響かせる。それにより一つまた一つと弾丸を受けたヤツらが、血を噴き上げ血に伏せる。
自身の砲撃だけでは飽き足らずその場に転がっているゴブリンたちが残した斧を的確に投擲し、最初のゴブリン同様その首や胴体を真っ二つに解離させていく。
ここまでするのか?
目の前で起こる惨状・一方的な蹂躙にそう感じるも僕は、ふとソイツが現れる直前の出来事を思い出す。
あのゴブリンたちに壁際まで追い込まれた絶望的状況下。
もう駄目だ。と心の中で思ったそんな中、ベルトに装着してたデッキケースが光り出した。
ケースから取り出した一枚の光輝くカードを前に出し、咄嗟に俺が叫んだ言葉。
「頼む。こいつら全員、やっつけてくれー!」