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補佐官からしてみれば

「というわけで、昨日もスミレが可愛くて。夢の中で愛を噛みしめていたら、朝一番にスミレの声で起こしてもらう心地よい朝だった」


 今日もまた、朝一番から、昨日帰宅してからのスミレの様子を報告しろとの言いつけを守り、補佐官に口頭で報告する。


 パンに食材を挟む案は素晴らしかったと、報告に熱がこもる。


 数日から数週間に及ぶ、魔物の領域への遠征では、食事が何よりの楽しみになる。

 しかし、保存が利くように固く焼いたパンや干し肉干し野菜をかじり水で流し込む作業のような食事が普通になる。荷物が増えるから。

 1週間を越える遠征の場合は、小麦粉を持ち込み、練った粉と野草を入れた塩味のスープや、討伐した魔物を解体して食肉に加工して焼いたりスープに入れたりするのが普通になる。そうやってちゃんとしたものを食べないと気持ちが持たないから。


 大衆食堂の息子として、食事の大切さを教え込まれて育った身としては、毎食しっかり食べたいし団員にもちゃんと食べさせたいところだし、遠征で干し肉をかじるだけの食事をなんとかしたいと常々思っていたので、昨日のスミレのことと初めて食べた料理の味を思い出して、報告に更に熱がこもる。


 補佐官が暑苦しそうな表情になるが、ぜひとも採用してもらいたい。パンに複数の食材を挟む料理を。


 ……名前がなんというのか、スミレに後で聞いておかないと。




「……で、食後は並んで皿洗いして、風呂に入って寝たと」


「そうだぞ。スミレはいつも微笑んで、お休みと言ってくれる。兄は、とても気分良く眠りに就けるんだ」


「……で、朝は起こしてもらう、と」


「そうだぞ。スミレはいつも、兄と目が合うと微笑んでくれるんだ。だから、兄はいつも気分よく仕事に向かうことができるんだ」


 スミレのことを語ると、とても誇らしく、気分が良くなる。

 声も大きくなっているかもしれないが、仕方ないだろう。

 それだけ、スミレは可愛くて、兄として誇らしいのだから。


「……嫁かっ!」


 先代の頃からずっと騎士団を支えてきた妻帯者の補佐官が、目を見開いて叫んだ。


「いや、自慢の妹だ」


「団長、いや、ノイシュ。妹は、目が合うと微笑みかけてはくれないし、食事を用意してくれないし、隣り合って皿を洗うこともないし、夜遅く家に帰るとおかえりよりも先に遅いと文句を言う。朝起こすときは布団を剥ぎ取って蹴飛ばしてくるし、収入がある兄には小遣いをせびってくるし、風呂を沸かしてはくれない」


「……えっ? ……えっ?」


「それは、そこまでするのは、親か嫁くらいのものだ。スミレは、お前のことを男女として愛し、お前の妻になろうと努力を重ねている。間違えるなこの鈍感」


「…………えぇっ!?」


「そこで驚いているのが理解に苦しむが……。ノイシュっ!」


「は、はいっ!」


 一気にあれこれ言われて混乱している時に、親子ほど年が離れた補佐官から名前を呼ばれて、つい、姿勢を正してしまう。


「想像してみろ。スミレが、他の男に微笑みかけている様子を」


 言われるがまま想像して、後悔した。

 息がつまり、胸が苦しくなる。


「想像してみろ。スミレが、他の男に抱きしめられている様子を」


 ついうっかり想像して、後悔した。

 顔も知らない仮想の相手に、殺意すら沸いてくる。


「想像してみろ。スミレが、他の男との子と、手を繋いで歩いている様子を」


 反射的に想像して、後悔した。

 スミレがいない生活。

 スミレがおれのことを見てくれない生活。

 それはもう、絶望でしかない。


「理解したか? なら、何をするべきかは分かっているな?」


「イエス、サーッ! 今すぐに、スミレに、おれの想いを伝えます!」


「仕事しろバカものっ!!」


 蹴飛ばされた。おれ、騎士団で一番偉いのに。


「なら、今日から定時で帰宅する!」


「そういうことを言うのなら、書類の間違いを減らせ。それと、想いを伝えると言うのなら、手ぶらで帰宅するなよ。なにか、喜びそうなものを買って帰れ」


「分かった。ありがとう」


「だから、書類の間違いを減らせと言っている!」


 さっそく必要な書類を1枚書き上げると、また蹴飛ばされた。


 おれ、騎士団で一番偉いのに。




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