騎士団長
楠結衣さん主催、騎士団長ヒーロー企画参加作品です。
以前、こう言われたことがある。
『もしお前が俺の後を継ぎ騎士団長になるというのなら、お前は剣だけ振っていろ』
引退した先代の騎士団長の言葉だ。
おれは頭が悪い。人の機微に疎く、察することもできない。
出自が平民なので、学もない。
ただ、父が、趣味と自衛と体力作りのためにおれに教えた剣には適性があったらしく、今ではめっぽう腕は立つらしい。
休みの日でも欠かさず振っている剣では、騎士団の中で負けたことが無いといえる程度には。
その代わりに、敵はいないが味方は少ない。
騎士団といっても、王都のような人の多い煌びやかなところを守るのではなく、隣国や魔物が出る領域に近い僻地に配備されている第十八騎士団の団長だ。
権力など、あってないようなもの。
それでいて、仕事の量は多岐に渡る。
組織だった行動をするための団体訓練、個人の剣技を磨く訓練、権力者との折衝、守るべき町の警ら活動や民衆とのコミュニケーション、装備の手入れに修理の依頼、食材や備品の管理に手配、それらの各書類作成と保管。
味方が少ないというのは、その仕事を補佐してくれる人が少ないという意味だ。
数字や書類に強い専門の部下を雇えないか考えているが、民を守り外敵を排除することが最大の任務である騎士団に、剣を振れず自分の身を守れない者を在籍させるのはいかがなものかという周囲からの反発もあり、剣ではなくペンを手に悪戦苦闘する毎日だ。
書類の確認をしてくれる補佐官はいるものの、自身の仕事と訓練の合間に手掛けてくれているだけで、その者とおれとでは字が違うためにすぐに分かるのだという。だから手伝えないのだと。
予算の管理だけはしてくれるものの、年間通して得られる収入と支出はほぼ決まっているため、予想外の出費には対応が渋い。
今日も今日とて、補佐官に確認してもらった書類の間違いを指摘され、直しをくらい残業してため息を吐く。
宿直の者以外は、団員寮や自宅へと帰り明かりも減った第十八騎士団の執務室で、置物と化している補佐官を待たせ、たまに赤い短髪の頭をかきむしりながら、直しをくらった書類を始末する。
できあがった書類を補佐官に渡し、間違いないことを確認してもらったら、ようやく帰宅。
第十八騎士団は僻地に配備されており、予算が少ない。
その予算は、魔物の領域への遠征のために多くを割いており、武器防具やテントなどの荷物の手入れと回復薬の仕入れに力を注いでいる。
要するに、食べ盛りの団員たちに毎日の夕食を支給するほどの潤沢な予算は無いということ。
今日もまた、やかましく主張する腹をさすり、多くの店が閉まった町並みをしょぼくれながら帰宅した。