勝手にサービス
深夜。とある牛丼屋。
「はい、牛丼の並でお待ちのお客様、お待たせしましたぁー」
「んー、はぁ……」
「え、ど、どうかされましたか? 何か……」
カウンター席に座るその客の男に大きくため息をつかれ、店員の男は出したばかりの牛丼をカウンターの内側から覗き込むように見下ろした。何か不備があったのかと思ったのだ。しかし、髪の毛など不純物はない。出す前に確認したから当然だ。量だって適正である。視線を牛丼から男へ移すと、その男は言った。
「いつもの店員さんならサービスしてくれるのになぁ……」
「えっ」
「サービスをねぇ……してくれるんだけどねぇ……」
「へぇー、そうなんですね」
「うん……」
「……じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
「はぁぁぁぁぁぁ……はぁぁぁぁぁぁぁぁーあ」
「えっ、な、なんですか」
「んー……」
「あの……」
「……してくれないんですね」
「え、サービスですか? まぁ、はい……え、あの、なにか?」
「いや別に……」
「いや、今『ケチだな』って顔しませんでしたか?」
「いやいやいやそんなわけないですよ」
「そうですか……まあ、いいんですけど、それじゃあごゆっくり、いや、何すかその顔。やっぱりしてるでしょ『ケチだなこいつ』って顔」
「いや、これは『言いがかりつけてくる店員だなぁ』って顔」
「えぇ……まあ、それはちょっとすみませんでしたけど……と、その顔はなんですか」
「これが『ケチな店員だな』の顔」
「してるじゃないですか……最初の顔もそれと同じって、今度は何ですか……そのブサイクな犬みたいな顔は」
「『サービスして欲しいなぁ』の顔」
「しませんよ! 甘え顔だったんですか!? そもそもサービスってその店員、何してたんですか。つゆ多めぐらいならしてもいいですけども、肉増量ですか、トッピング無料ですか。ほんとはねぇ、駄目なんですよ。親切のつもりでも他のお客さんに知られたら不公平感が出るし、こうしてサービスを当たり前に要求してきたり、そもそも店の、何すかその顔は……」
「うるせぇし、ねみー! の顔」
「でしょうね! 欠伸してたし! もう帰ってくださいよ!」
「おいおいさすがにそれはおかしいだろう。クレームをつけたわけでもないしさぁ」
「まあ、そうですけど……すみません」
「じゃあ」
「じゃあじゃないですよ。駄目ですよ。まあ、幸い他のお客さんはいないですし、玉ねぎ増量くらいならいいですよ」
「んー、彼はそんなもんじゃなかったけどな」
「え、じゃあ、何を」
「無料」
「む、無料!? 牛丼、全額!?」
「うん。トッピングも好きなだけ」
「トッピングまで!? そんな勝手に、もはや横領みたいなもんじゃないですか……」
「まあ、それは知らないけどしてくれたよ? あとお土産もくれた」
「お土産もサービスで!? ……というか全部、嘘でしょ! いくら言われてもサービスはしませんからね!」
「してくれたってば。こっちがサービスしたらさ……」
「えぇ? あなたもどこか店で、でもそれはグルというか両方の店に損害をって何してるんですか! 駄目ですよ! ちょ、なに、やめてくださいよ! あ、あ」
男はカウンターを乗り越え、店員の傍によると、肩にそっと触れ、胸からお腹へと撫でるように手を下へ下へ、自身もしゃがみ、そして――
※以下サービスシーン自主規制。