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イマルは3日前、声を大にして告げた、告白を断った内容を思い返して、道端で頭を抱えた。
(何や歳上が好きって…!阿呆なんか俺はー!いや、でも、なんか理由付けて断らな、諦めそうに無い雰囲気やったし…!)
実際は、歳上、歳下など、年齢を気にした事は無い。が、咄嗟に出て来た断り方が、それしか思いつかなかった。
(……まぁでも、なんかリーシャはんも、平気そうな感じやったし)
今日会った感じでは、平然としているように見えた。
(出会ってすぐの恋愛感情なんて、そんな対したもんやあらへんやろーし、もしかしたらもう、振られた事で好きじゃ無くなったんかもしれへんな)
イマルはプラスに捉える事にし、気を取り直して、また歩き始めた。
その頃、リーシャはーーー
(優しかった!イマル!やっぱり好きです!!!)
山菜を拾いながら、自分を心配して駆け付けてくれたイマルに対して、萌え苦しんでいた。
「おー嬢ちゃん、ちゃんと摘めてるか?」
村のおじさんは、心配して様子を見に来ると、籠の中身を確認した。
「ふむ。これとこれは違うな。あっちが食べれる山菜。これは薬草だから、これも取っといてくれよ」
テキパキと一瞬で見分け、仕分けしていく。
「凄いです!全部覚えてらっしゃるんですか?」
「生活の知恵だよ!お嬢ちゃんも、段々覚えてくるさ!」
ガッハッハッと大声で笑う。
「そんな事より、お嬢ちゃん、イマルが好きなのかい?」
「はい。好きです」
隠す事無く、正直に話す。
「はっはっ!そーか!あいつは良い男だからな!お嬢ちゃん、男を見る目があるな!」
「…そうですね」
自分の事より、イマルを褒められた事が、何故かとても嬉しい。
「男の人は、どうすれば好きでは無い相手を好きになってくれますか?」
恋愛経験の全く無いリーシャでは考えても考えても答えが出ないので、同じ男性に話を聞くことにした。
「ん?そーだな。俺は、やっぱ尽くしてくれる子だなー!」
「いやいや、そりゃナイスバディな女だよ!」
「俺は頼り甲斐のある姉さん女房タイプがいいなー!」
山菜採りをしながら、それぞれがそれぞれの好みを答えて行く。
「成程。人によって、違うという事ですね」
珍しく飲み込みが早く、納得する。
「ま、恋愛で大切なのは駆け引きよ。頑張ってな、お嬢ちゃん」
「はい。頑張りますーーーあと、私の名前は、リーシャと申します」
ずっとお嬢ちゃん呼びだったので、リーシャは改めて、村の人達に、自己紹介をした。
***
「ただいま戻りました」
日も暮れ始めた頃、リーシャは家に戻った。
リーシャしか住んでいないので、勿論、返事は無いが、明かりを付けると、返事が返ってきた気分になった。
「…初めて、自分でお金を稼ぎました」
手には、山菜を売って得たお金があって、リーシャは、嬉しそうに手を握り締めた。
「村の人に、山菜で作ったご飯もお裾分けして頂いたし、ご飯にしましょう」
ガサゴソと、頂いた山菜ご飯をお椀に移し、机に置く。
「頂きます」
椅子に座り、両手を合わせて、挨拶をすると、パクっと、ご飯を口に入れた。
「美味しい…!天才です!」
パクパクと箸が凄い勢いで進む。
お城のご飯は、いつも豪勢で、量も種類も沢山あって、いつも、食べ切れずにいた事が申し訳無かった。
「不思議。お城にいた時よりも、沢山食べている気がします」
幸福な事に、空腹をあまり感じた事が無い生活をしていた。お腹が減る前に出される豪華な食事に、間食の甘いおやつ。
だから、今まで、空腹を感じた事が無かった。
出された食事を、ただ食べる。
でも、お腹が空いていないから、大勢の食事を並べられても、食べ切る事は出来なかった。
ーーー段々、食事を美味しいと思う事が、無くなっていった。
それなのに、ここに来てから、ご飯が美味しいと思うようになった。
「ご馳走様でした」
あっという間に平らげ、手を合わせ、挨拶をする。
(……イマルと一緒にご飯を食べた時ーー本当に、美味しいって思った)
1口食べて、今まで食べたどの食事より、ずっとずっと美味しいと思った。
(あんな風に……誰かと、たわいも無い話をしながら食事をしたのは……初めて)
広いテーブルで、執事に付き添われながら1人で食べる食事。
王様や貴族の皆様と食べる、格式ばった食事。
ーー何を食べても、味がしなかったーー
今、目の前にあるのは、あっという間に空になった茶碗。
「…うん。明日も、頑張れそうです」
そう言い終わると、リーシャは、窓から見える、綺麗な星空を見上げた。