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「後は、サクヤですね」
サクヤだけ、後からイマルと一緒に来る事は聞かされていて、リーシャは玄関先に置いてある、花の咲いた植木鉢を見た。
花には、木の実で出来たブレスレットが飾られていた。
子供達が家に飾ってあるアクセサリーを持ち帰った後は、部屋がどうしても殺風景になってしまう為、サクヤだけ特別に、リーシャが育てた花に、サクヤの為に作ったブレスレットを飾り付けしたのだ。
「サクヤも、喜んでくれるでしょうか…?」
ここ数日、サクヤには会っていない。
私の体調を心配し、会いに来ないで良い。と、言われてしまった。
少し寂しかったのだが、サクヤの気持ちを汲み、祭りの準備を優先する事にした。
「喜んでくれると、嬉しいです」
サクヤが来るのを楽しみに、リーシャは植木鉢の花に触れた。
「ーーお姉ちゃん」
「!サクーー」
サクヤの声が聞こえ、振り返った先にいた人物に、リーシャは言葉が詰まった。
サクヤの付き添いであるイマルの他に、今、1番会いたくなかった、ノルゼスの姿があったからだ。
「サクーーヤ、イマル………ノルゼス」
徐々に、笑顔が消える。
どうしてーーどうして、また、ここに来たの…?
昨日、城に戻ろうと、村の事を馬鹿にされ、私はハッキリと拒絶したつもりだった。第1、この村で初めて会った当初に、私は聖女では無く、ただの村娘になり、城に帰る気は無いと、こんこんと説明したつもりだった。
それなのに、私の言葉は、何一つノルゼスには届いていなかつた。
(どうして、またここに……また、私に、城に戻れと言いに…?)
近くには、サクヤとイマルの姿がある。
(私の事は……どう言われても構わない)
だから、村の人達を、村の事を馬鹿にするような事は、もう口にしないでーーー!!!
リーシャは、ノルゼスに対し、厳重に警戒して迎え入れた。
「すみませんでした!リーシャ!!!」
ーーースライディング土下座なみに、勢い良く頭を地面につけ、大きな声で謝罪を口にするノルゼス。
「へ?え、ノ、ノルゼス?」
急に目の前で土下座され、戸惑う。
「本当に本当にすみませんリーシャ!私はーー私は、ちゃんと、貴女自身を見ていなかった!!」
少し離れた場所で、村の子供達と触れ合うリーシャを見ていて分かった。
聖女という肩書きに囚われ、リーシャ自身を見ていなかったのは、自分だと。
「あんなにーーあんなに楽しそうにしている貴女を見るのは、初めてでした」
無邪気に笑うリーシャは、旅や城で見ていた、貼り付いた笑顔とは、全く違っていた。
「え?え?」
急に態度が改まった事に困惑する。
「貴女にとって、この村にいる事が幸せなら、私が連れ戻すはずなどありません!!」
「え?え?」
急に物分りも良くなって、困惑する。
い、一体、昨日から一夜で何が起きたのでしょう……?
「ド田舎で何も無いボロい村だと言う認識は変わっておりませんがーー!いてっ!」
言い終わる前に、後ろからイマルが土下座し続けているノルゼスを蹴った。
「余計な事言わんでえーねん。思ってても言うな、ゆーてんねん」
「す、すまない」
即座に謝罪する。
「????」
昨日までノルゼスとイマルがこんな風に会話していたのを見た事が無いリーシャは、またしても、2人のやり取りに困惑した。
「コホン。気を取り直してーー本当にすみませんでした。リーシャ」
「え?あ…いえ。分かって下されば、私は別に…」
深々と頭を下げているノルゼスの態度や、その表情からは、本当に反省している様子が見えた。
「ただーーこれだけは言わせて下さい!私はーー私は本当に、貴女の幸せを願っていたのです!貴女を、悲しませるつもりは、本当に無かったーー!!!」
「……」
私は、ノルゼスの事を知らない。
一緒に冒険もしたし、城で共に過ごしたけれど、会話は必要な事だけ。
騎士として優秀である。と言う認識しか、持っていない。
ノルゼスは、本当に、ただ純粋に、私の幸せを願って、城へ戻る様に進言した。
(この人は……1度そう思ってしまったら、周りが見えなくなるタイプなのかもしれない……)
思い込みが激しい人。猪突猛進。
「……村の事や、村の人達を悪く言った事はーー本当に反省して下さいね」
「はい!勿論です!!」
今日初めて、ノルゼスの事を少し、分かった気がします。
「ついさっき、村の事ボロいって馬鹿にしてたけど…」
「サクヤはん。もうええねん。ボロいのは事実やから」
綺麗に纏まりそうなので、イマルはサクヤの言い分を首を振って止めた。