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「……リーシャに会いに行っていたのか?」
ノルゼスは、リーシャの家の方を見ながら、イマルに尋ねた。
「まぁ…」
「リーシャは、元気だったか?!」
急にガバッと、勢い良く、イマルに詰め寄る。
「私はーーリーシャを傷付けてしまったかもしれないんだーー!私に、そんな気は無かったのにーー!!」
必死なその表情からは、嘘偽りには聞こえない。
彼の言葉をそのまま信じるなら、彼は本当に、元のいた場所ー城ーに帰る事が、リーシャにとって幸せだと思っていた事になる。
「そら、無理に戻りたくも無い場所に帰れって来られたら、嫌にもなるやろ」
「何故だ?!こんなド田舎の何も無い辺境の地にいるより!元いた場所の方が彼女にとって何倍も幸せなはずなんだ!!」
「事実にしても、それをその村の住人の俺に言うんは間違ってるけどな」
目の前で村の悪口を聞かされるこちらの身にもなって欲しい。
「す、すまない!」
「……まさかやけど、村の悪口、リーシャはんにも言ったんか?」
「あ、ああ。そしたら、怒ってしまって……その、リーシャが、な、泣きそうになってしまって……」
真っ青で悲痛な表情で、段々声が小さくなりながら答える。
イマルはノルゼスの言葉を聞き、大きくため息を吐いた。
「阿呆やの?そんなん、リーシャはん怒るに決まってるやんか」
「何故だ?!リーシャはこの村とは何の関係も無い人間だ!怒ったり、ましてや、悲しむ必要なんてーー!」
真剣に訴える様子から、ああ、こいつはほんまに何も分かっていないんだな。と、イマルは改めて思った。
「リーシャはん、この村の事好きになってもてんから、好きなものを貶されたら怒るんは当たり前やし、悲しくなるのも当然やろ」
リーシャの村での様子を見たら1発で分かりそうな物だが、どうやら、ノルゼスは空気が読めないらしい。彼の中で、元の場所に戻った方が絶対に幸せだと思う強い先入観も原因の一つかもしれない。
「そんな……こんな村の方が、良いというのか……?」
先程謝罪したにも関わらず、村の住人に向け失礼な発言を連発しているが、本人は気が動転していて、それ所では無い。
それだけ、ノルゼスにとって、リーシャが城に戻る事が、本当に幸せな事だと信じて疑っていなかった。
「……」
(阿呆やなぁ。とは思うけど、ほんまに、リーシャはんを思っての事なんは、伝わるわ)
顔面蒼白のノルゼスを見ながら、イマルはそう思った。
リーシャに怒られた事、そして、傷付けてしまった事を、深く後悔しているように見える。
「一緒に冒険しとったんやろ?それやったら、多少なりとも、リーシャはんの人となり分からんもんか?」
リーシャからは、全く話した事が無く、何を考えているか分からないと聞いたが、ノルゼスからは、リーシャに対する強い思いを感じる。話した事が無くても、何かしら、分かるものでは無いか?と思い、イマルは尋ねた。
「それはーー!勿論!リーシャは、いつでもお優しく、いつも凛々しく、いつでも強くおられーー」
「怒らせて泣かせたくせに」
「!それーは、そうだ」
イマルの言葉に、ノルゼスは黙り込んだ。
聖女だった頃のリーシャは、感情を表に出さず、国民の前では常に微笑み、敵の前では凛とし、決して弱さを見せずに生きてきた。
だから、ノルゼスにとって、リーシャが泣くという行為は、衝撃が走るものだった。
「村での様子、ちゃんと見てたんか?」
「村での様子…」
この調子では、きっと、リーシャが村でどの様に過ごしているのか、見てはいないのだろう。
どうやって連れ戻すか、何と話を切り出そうか、そればかり考えていたのだ。
「私は……リーシャの幸せを願っていたのに……リーシャの事を、ちゃんと見れて、いなかったのか…」
ギュッと、ノルゼスは拳を強く握り締めた。
心底落ち込んでいる様子のノルゼスを前に、イマルは何度目かのため息を吐いた。
「ノルゼスはん、明日お祭りやから、村の様子見ていってや」
「祭り…?そう言えば、村の住人が何やらゴソゴソしてるみたいだったが……」
本当にリーシャ以外は眼中に無いらしく、村での祭りの準備も一切気に止めていなかったらしい。
「そーや。折角この村に来たんやから、あれやったら見学してや」
それだけ言うと、イマルは立ち上がり、足を進めた。
「そんなとこでいつまでも、うずくまってたら怖いから、さっさと帰りー」
後ろを振り返らず、進む。
(……ほんまに、根っからの嫌な奴とかなら、ほっとくねんけどなぁ……)
と、物思いにふけりながらーーー。




