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村娘生活初日2





***



 数ヶ月後ーーー。



 首都カナンより遠く離れた、辺境の村ヘーゼル。

 何処にでもあるような、小さな村。

 木で作られた木造の小さな家が、間隔を大きく開けて、ポツポツ立つ。

 村の中心となる広場のような場所では、村の子供達が元気に走り回っていた。




 その中の、木造の小さな、何処にでもある家。年季が入っていて、外装は所々が剥がれていたり、お世辞にも綺麗とは言えず、ボロい。



「リーシャはーん。調子どないですかー?」

 1人の元気な若者が、ノックをした後、扉を開け、中に入ってきた。



 リーシャと呼ばれ、振り向いたのは、城で、聖女と呼ばれていた少女の姿ーー。



「イマル!」

 パァっと、青年を満面の笑みで出迎えるリーシャ。

「引っ越し作業捗ってるか?」


 青い短髪に、赤い瞳。耳には、沢山のピアスを身に付けた細身の体型。17歳の若いイマルと呼ばれた彼は、特徴的な話し方で、リーシャに話しかけた。



「これ、あったほーが便利なもんな。村で余ってたん、皆が使いー言うて持たせてくれはったから」

「ありがとうございます」

 イマルは、持って来た袋を机に置いた。


 辺境の村ヘーゼルに今日から暮らす為、やって来たリーシャは、ほぼ何も持たずに、身一つで引っ越して来た。

 引越しに伴い必ず必要な家の確保すらしておらず、村人のご好意で、空き家だった家を貸して頂いた。


「……あんはん、何してんの?」


 長い髪を1つに纏め、箒を手に、明らかに掃除をしていたスタイルのリーシャに向かい、尋ねる。


「え?掃除をしていました!ここでこれから過ごす事になりますから!」


 案の定、リーシャからは掃除をしていたと返答される。が、イマルはそれに大きな溜め息を吐いた。



「拭き掃除から始めたか?ゴミはどないしたん?」


「拭き掃除?えっと、後でしようかと……ゴミ?ゴミは、こうやって掃いていて」



 リーシャが来るまで空き家だった家は、元から置いてあったタンスや食器棚も含め、埃だらけで、蜘蛛の巣も張っている。



「掃いただけでどーすんねん!ゴミ集めて、ちゃんと捨てな!ただ掃いてるだけやったら意味ありまへんで!」


 リーシャの言う掃除は、ただ箒で、無造作に床を掃いているだけの、ただゴミの場所を移動し、埃を広げただけのもの。



「なんで窓も開けへんの!換気せな!埃塗れやないか!」

 イマルは叫びながら、慌てて窓を全開した。


「あと掃除は上からや!拭き掃除した後、また埃が下に落ちて掃除し直さなあきまへんで!」

「おぉー…素晴らしい知識です!まさか、イマルは掃除の天才なのですか?」

「嘘やろ…」


 目をキラキラさせながら、本気で感動しているリーシャの姿に、イマルは肩を落として落胆した。





 布で鼻と口を覆い、2人一緒に掃除を始める。


「そんなびっちゃびちゃな雑巾で拭いていってどないすんの?!ちゃんと絞らな!」


「ああ!ゴミ、手で拾わんでええ!ここにちりとりあるから使いなはれ!ーー使い方が分からへん?!嘘でっしゃろ?!」


「洗濯?井戸あるからそこで水であろーて……井戸の組み方?!洗い方?!干し方?!全部分かりませんの?!」





 怒涛のイマルの指導により、何とか掃除を終わらせると、もう日が暮れていた。


「本当にありがとうございます」

「ほんまやで……俺おらんかったら、どーしてたんや!」

 力を使い果たし、ぐったりと椅子に座り項垂れるイマル。



「てか、そんな何も出来ひん箱入りのお嬢様が、何でこんな辛気臭いド田舎に引っ越して来たんや」


「辛気臭いなんて……とても素敵な所です」


「どこがや。都会に比べて何もありまへんやろ」


「そんな事ありません。空気もとても美味しくて、水も綺麗で、夜は星が良く見えてーー何より、イマルのような、新参者の私が困っていたら、手を差し伸べてくれる優しい人が沢山いる村です」



 ニッコリと笑顔で告げるリーシャの言葉に嘘偽りは無く、イマルは照れた様に顔を背け、頭をかいた。




「まぁ、ええならいーんやけど…」

「これから、よろしくお願いしますね」

 スっと差し出されたリーシャの手を、イマルは握り返した。





「……ほっそい手やなぁ……今まで、箸以外に重い物なんて持った事なさそうやな。なぁーんて」

「凄い!どうして分かったんですか?」

「ーー嘘やろ?」


 冗談で言った言葉が、まさかの事実で、イマルはピキっと固まった。







 私の名前は、リーシャ=ルド=マルリレーナ。


 前職 聖女。


 幼い頃、聖女としての力を見初められてから今まで、蝶よ花よと、とても大切に育てられ、身の回りの事は一切せず、全て周りの方が、お世話をしてくれていました。



 それはとても有難く、人から見れば、とても羨ましい生活に思えるのかもしれません。


 私も、今までお世話になった方々には、とても感謝しています。




 でもーーー



 国を救い、聖女としての役割を果たし終えた今、私は、私自身で生活を送る、普通の生活がしたいと、心より思いました!




 だから、私はーーー聖女から村娘に転職して、自分の事は自分で出来て、常に傍に付きっ切りでお世話をする人達のいない生活をして、普通に恋愛をして、好きな人と結婚するのを夢見る、普通の女の子に、今日からなります!!!






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