12
「行けるもんなら行ってみぃ」
「っ!酷い…!」
呆れながら冷たく言い放つイマルに、カリンは目に涙を浮かべた。
「あの」
そんな2人の間に、リーシャは小さく手を上げ、入った。
「私なら大丈夫ですので、イマルさえよろしければ、カリンを優先してあげて下さい」
「何でや?えーで?こんな事言うて、1人で村の外になんて絶対出ぇへんから」
幼馴染だけあって、カリンの性格を熟知しているのか、イマルはハッキリと言い切った。
隣ではその言葉に対して、再度文句をギャーギャー言うカリン。
「私なら、別の日でも大丈夫ですので」
「別の日なんか無いの!イマル以外の!ゲンさんとかと一緒に行けばいーでしょ?!何でイマルを巻き込むのよ!」
「ちょっと黙っときぃ!」
カリンが口を挟むと何時までも収集がつかないので、とりあえず、黙らせる。
「ほんまにえーんか?」
「はい」
ニコッと笑顔で答えると、リーシャは2人に頭を下げ、元来た道を、そのまま引き返した。
「やった!勝った!」
「カーリーン!!!ええ加減にせぇよ!!」
敵認定したリーシャが去った事を手放しで喜ぶカリンに、イマルの特大の雷が落ちた。
***
「ぐすぐす」
魔物を解体しているイマルの横で、座り込み、目を押さえながら泣くカリン。
「嘘泣き止めや」
「嘘泣きじゃないもん!どうしてそんなに冷たくするの?!」
「阿呆か。冷たくもなるわ。毎回毎回……だから友達おらへんねんで」
「いるわよ!馬鹿にしないで!」
大きな声を出すカリンに、イマルは自分の耳を塞いだ。
「ま、まさかだけど、あの女の事好きなの?!」
魔物の解体作業は、慣れなければ中々にグロテスクなので、カリンはイマルの方を見ずに、背中越しで尋ねた。
「何なんもお……別に好きや無い」
解体作業を邪魔されているのが鬱陶しいのか、イマルは適当に返事をした。
「そ、そう」
イマルの返事に安堵するカリン。
「てか、なら余計よ!これ以上優しくしたら、あの女!絶対イマルの事好きになっちゃうよ?!そうなったら、大変でしょ?!」
(ーーもう既に告白されてんねんーー)
と、心の中で返事をする。
「だから!これ以上調子乗らせない為にも!絶対離れた方がいいの!」
「あのなぁ、それこそカリンには関係あらへんやろ。俺の交友関係にいちいち口出しすんの止めてくれるか」
解体作業が終わり、食べれる部分を荷物に入れると、半分をカリンに手渡し、そのまま、村に戻る為に足を進めた。
「てか、同じ村に住む数少ない同年代やねんから、少しは仲良うしたらどーや?」
「嫌よ、あんな余所者。皆だって、本当は余所者が来た事を嫌がってるに違いないわ」
「そんなん言うてるんカリンだけやろ」
「イマルは人の心が分かって無いの!カリンには分かるの!」
断固として話を聞き入れないカリンに、イマルはもう何を言っても無駄だと、会話を止めた。
「じゃーありがとイマル!パパにもちゃんと言っとくね!」
村まで戻って来、上機嫌になったカリンは、笑顔でイマルにお礼を告げた。
「また店にも顔出してよ!オマケするから!」
「はいはい。親父さんによろしくー」
手を振り、イマルから離れるカリン。
「ーーはぁ。なんか疲れてもーたわ」
カリンが去ったのを確認して、イマルは大きくため息を吐くと、取ってきた魔物の肉を見た。
トントン。
リーシャの家の前まで来ると、そのまま、玄関の扉をノックした。
「リーシャはーん?おりまへんのー?」
声をかけるも、返答は無い。
念の為、野菜を育てている庭も見てみたが、リーシャの姿は無かった。
「留守か…」
迷惑をかけたお詫びにと、肉を渡そうと思って来てみたのだが、誰もいない。
「……余らしても仕方無いし、肉屋にでも持って行くか」
イマルは、リーシャの家を後にし、肉屋のマルシェの元に向かった。
「あ、イマル!お帰りなさい」
「……ただいまって、何しとるの?」
肉屋に着くと、そこには何故か、エプロンを着たリーシャの姿が有り、何故か、全身、血塗れだった。
「おや、イマルじゃないかい」
奥からは、大きな包丁を持ったマルシェが出て来て、イマルを迎えた。
「おばちゃん、何なん?この状況?」
ケロっとしている様子から見て、本人の血では無い事は分かるが、全身血塗れの意味は分からない。
「ああ。何かお手伝いする事は無いかって聞かれたから、肉の解体を頼んだんだけどね、これまた壊滅的に才能が無くて、この有り様だよ」
マルシェはケタケタと豪快に笑った。