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6  公爵閣下からのプロポーズ?

 私とロバートの間に入ってくれたマオニール公爵閣下は、整った眉を寄せてロバートに向かって言う。


「さっきから聞いていれば、婚約者である女性に対して失礼なんじゃないか?」

「マ、マオニール公爵閣下!?」


 ロバートが悲鳴に近い声を上げて、後ろに一歩さがる。


 お父様達も閣下の存在に気がついて、焦った顔をした。


「僕の主催のパーティーで、よくもまあ、好き勝手してくれたものだね」

「そ、そんなつもりではありません!」

「じゃあ、どういうつもり?」

「楽しんでもらいたかっただけでございます!」


 お父様の言葉に、閣下は苦笑する。


「あなたの望みどおりに楽しんでいた人間もいるのかもしれないけれど、僕はあなたにそんなことをやってほしいなんて頼んでもいない。それに僕は全く面白くなかったし、逆に気分を害したんだけど、どう責任をとってくれる?」


 閣下は、お父様に向かって冷たい笑みを浮かべて尋ねた。


 すると、お父様は大きな声を上げて聞き返す。


「せ、責任!? 責任を取れと仰るのですか!?」

「そりゃあそうだろう。僕の主催のパーティーなのに、訳のわからないことをされたんだ。それを許したら、今後、真似しようとする奴も出てくるかもしれない。そんな人間が現れないように罰なり何なりは必要だと思うんだが?」 

「せ、責任と言われましても……」


 お父様はお母様に助けを求めたけれど、お母様は泣きそうな顔で何度も首を横に振るだけだった。


「リアム様、一体、どういうことなんです?」


 いつからいたのかしら。


 声が聞こえて振り返ると、マオニール公爵閣下の後ろに、黒いスーツに身を包んだ、長身痩躯の男性が立っていた。


 年齢は私と変わらないだろうか。

 黒の長い髪の毛を赤色の細いリボンで一つにまとめていて、メガネの向こうの目は細く、神経質そうだけれど、整った顔立ちだ。


「さっきのひどかった話をしてるんだよ。君はどう思った?」

「ああ。先程の件ですか。冗談でも、あんなものは笑えませんし、聞いただけでも不快です。常識などないのでしょうね」


 閣下から問いかけられた男性は答えたあとに眉をひそめ、お父様達のほうを睨んだ。


「ほら、僕の付き人も気に入らなかったみたいだ。君達にとっては悪戯だかなんだか知らないが、僕にとって、さっきの件は本気でアイリス嬢との婚約を破棄して、アイリス嬢の妹とそこにいる彼が婚約するみたいに聞こえたんだ。本気にした人は他にもいるだろうね」

「ですから、それはアイリスを驚かせる悪戯で!」


 焦った表情のロバートに閣下は笑いかける。


「あんなもの悪戯なんかじゃすまされないだろう。家族や婚約者によくあんなひどい嘘がつけたもんだよ。で、話を戻すけど、どう、責任をとってくれる? これからパーティーを開くたびに、あなた達の話がされて、陰で僕は笑いものにされるだろうね」

「そ、そんな事は絶対にありません!」


 お父さまは焦った表情で叫んだあと、私に顔を向けて睨んでくる。


「くそっ! お前を甘やかしたのがいけなかったんだな! 明日からは何が何でも我が家の規則に従ってもらうからな!」

「我が家の規則って?」


 閣下が不思議そうに私の顔を覗き込んで聞いてこられた。


 一瞬、あまりにもバカバカしいから、答えないほうが良いかとも思った。

 でも、もう我が家の恥については、閣下に色々と話をしたことも考えて、素直に答えることにした。

 

「朝昼晩に一回ずつイタズラをする事です」


 苛立つ感情をおさえきれず、お父様の方を見て吐き捨てる様に答えた。

 すると、お父様は顔を真っ赤にして怒り出した。


「アイリス! なんて態度なんだ! マオニール公爵閣下に今すぐ謝るんだ!」

「……申し訳ございませんでした」


 閣下からの問いかけに対しての答えだったので、冷静に答えるべきだった。


 だから、反省して頭を下げた。

 閣下は、そんな私に向かって、首を横に振って言う。


「許さない」

「あ、あの! 本当に」


 閣下の言葉を聞いて、慌ててもう一度、頭を下げようとした時だった。


「ほら見ろ。アイリス! お前が悪いんだ!」


 お父様が勝ち誇ったような顔をして私を指差した。

 閣下も胸の前で腕を組み、それに頷く。

 

「そうだな。君の態度は無礼だった。だから罰として、今の婚約者との婚約を破棄し、僕の妻になってくれ」


 閣下は頭を下げようとしていた私に、微笑んで言った。

 予想外の発言に、私の家族やロバートだけでなく、聞き耳を立てていたらしい他の貴族達までが動きを止めた。


 私でさえ、返事が出来ずに固まってしまった。 


 婚約破棄できるようにしやすくしていただけたのは助かるけど、すごく強引なのでは!?


「え、今、なんと?」


 沈黙を破ったのは、閣下の付き人の男性だった。


「トーイ、僕の花嫁は彼女に決めたよ」

「はい!? あ、いえ、その、奥様が決まる事は良い事だとは思いますが、その、そちらの女性とは、初めてお会いされたのでは……?」

「トーイ、グダグダ言うな。文句を言う前に動いてくれ」


 閣下は、優しい笑みを消し、付き人の男性、トーイ様を軽く睨んだ。


「……かしこまりました。アイリス・ノマド男爵令嬢でしたね。身分差が気になりはしますが」

「彼女がいいんだ。それに、僕は公爵なんだから、周りがなんと言おうが関係ない」

「そうですね。あなたは公爵閣下ですからね」


 トーイ様は大きく息を吐いてから頷くと、私の方に身体を向けて、深々と頭を下げた。


「お初にお目にかかります。マオニール公爵閣下の付き人をしております、トーイ・フランシスと申します。トーイとお呼び下さい」

「アイリス・ノマドと申します。お目にかかれて光栄ですわ」


 カーテシーをしてから、彼について私が知っている情報を頭に浮かべる。


 彼はフランシス伯爵家の長男で、性格に難があると噂されている人だった。


 マオニール公爵閣下の前だからか、そんな風には見えないけど。


 その時だった。


「待って下さい! アイリスは俺の婚約者です! 渡すわけにはいきません!」


 ロバートが自分の胸に手を当てて主張してきたのだった。



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