49 誕生日の夜③
「えっと、その、それは、どういう意味でしょうか?」
まさか、一緒の部屋で眠るということではないわよね!?
驚いてアワアワしながら聞くと、リアムが私の両肩をつかんで言った。
「勝手なことを言ってるのはわかってる。お飾りの妻を望んだのは僕だから。もちろん、君が嫌なら、契約の変更なんてせずに、今のままでいい」
「あの、その、嫌とかどうこう言う前に、そんなことを仰る理由をお聞かせいただいても良いですか?」
例えば、夜に1人で眠れないだとか、そういう理由があるのなら、子供みたいな理由であれ、恩を返すチャンスだから、喜んで一緒の部屋で眠ろうと思った。
だけど、リアムがそんなタイプには思えない。
「君にとって嫌な気持ちになる話かもしれないけど……」
リアムはなぜか緊張した表情で私を見つめたあと、大きく息を吸ってから言葉を続ける。
「アイリス、僕は、君を好きになってしまった」
「私もリアムが好きですよ?」
「いや、違う、その、アイリス……。お約束みたいな返しはやめてくれないか」
「お約束? それは、どういうことでしょう?」
「え? 何でだよ。好きじゃ伝わらないのか? じゃあ、その、君に恋に落ちてしまったって言ったら伝わる?」
「はい?」
リアムの言葉に、私は目を瞬かせる。
「だから、君を愛してるんだよ!」
……リアムが私を?
愛してる……?
「……アイリス?」
「えっ!? ええっ!? あの、もしかして誕生日だからその、奮発してくださっているとか!?」
「何をだよ!?」
「私が喜ぶと思って、嘘を奮発?」
「嘘を奮発ってなんだよ!? 君が嘘を嫌ってるのを知ってるのに、そんな嘘をつくわけないだろ!?」
珍しく軽い口喧嘩みたいになったあと、お互いに冷静になる。
「大きな声を出してごめん」
「いいえ。こちらこそ、申し訳ございません。えっと……、では、本当に、リアムは私のことを?」
恐る恐る聞いてみると、リアムは少し悲しげな顔をしてから抱きしめてくれる。
「上手く伝えられなくて済まない。君は、元家族とあのバカな元婚約者のせいで、人の言葉を信用することに怖くなってるんだよね」
ポンポンと優しく背中を撫でられたから、ふっと力が抜けて、リアムに身体を預ける。
「僕の気持ちが迷惑なら迷惑って言ってくれていい。今みたいに触れていることも嫌なら嫌って言ってくれれば二度としない。気持ちを返してくれだなんて言わないし、これからも君が好きなように生きてくれたらいい。ただ、出来れば、これからも君を守らせてもらえたら嬉しい」
ああ、神様。
今まで、家族の面倒を辛くても頑張ってみてきた分の、ご褒美をくれてるんですか?
もしかして、神様からの誕生日プレゼントだったりします!?
「……あの、ですね」
しばらくリアムの腕の中におさまって気持ちを落ち着けたあと、彼の肩に頬を預けて続ける。
「私も、リアムが好きです。恋愛感情として、好きです」
「アイリス」
リアムが私の腕をつかんで、自分の身体からはなそうとするから、顔を見られたくないので、必死に彼の背中に腕を回してしがみつく。
「あの、恥ずかしいので、ちょっと待ってください!」
「いや、その、抱きつかれるのは嬉しいけど、今はアイリスの顔が見たいんだけど」
「見たら駄目です。たぶん、顔が赤いですから!」
「そんなことを言われたら余計に見たくなるんだけど? 赤くても可愛いから大丈夫だよ」
しばらくの間、私を引き剥がそうとするリアムと彼にしがみついている私との、くだらない攻防戦が続いたけれど、体力勝負ではリアムに勝てるわけもなく、結局は引き剥がされた。
「アイリス、違う意味で赤くなってるんじゃない?」
「笑わないで下さいよ!」
しがみつくために力んでいたせいか、余計に顔が赤くなっているらしい。
私がそっぽを向くと、左頬に手が当てられて、リアムの方に顔を向けさせられる。
「アイリス、僕の所へ来てくれてありがとう」
「こちらこそ、あの時、私を追いかけてきてくれて、見つけてくれてありがとうございます」
額と額を合わせて笑い合ったあと、私達は初めて、唇を重ねた。




