43 親友に打ち明ける
「誕生日おめでとう、アイリス」
誕生日パーティーが始まる時間より、かなり早い時間にやって来たサマンサは、エントランスホールで出迎えた私の顔を見るなり、笑顔で駆け寄ってきた。
家族のことで話しておきたいこともあったから、早めに来てもらうようにお願いしていた。
「いらっしゃい、サマンサ。祝ってくれてありがとう。それから、遠いのに、ここまで来てくれてありがとう」
「何を言ってるの。友達の誕生日じゃないの! あ、大変。忘れていたわ。本日はお招きいただき、ありがとうございます。マオニール公爵夫人」
カーテシーをするサマンサに笑ってから、私は手を横に振る。
「サマンサ、公の場じゃないんだから、堅苦しくしないでよ」
「でも、公の場で会う事もあるかもしれないしね。その時のためにちゃんとしておかなくちゃ」
サマンサはそう言って笑ったあと、真剣な表情で私に尋ねてくる。
「家族を招待したって聞いたけど? 本当に大丈夫なの? 私、何かされたら怒っちゃいそうなんだけど、その時は許してくれる?」
サマンサが心配そうな顔をするので、苦笑して頷く。
「サマンサには何もさせないようにするつもりだけど、もし、両親達が何かするようなら、私達に教えてくれない?」
「大丈夫よ。私は自分でやり返すから」
サマンサは笑顔ではっきりと言った。
「あのね、サマンサ……、私なりに考えていることがあるんだけど、聞いても、友達でいてくれる?」
「何なの? 殺人とかしようとしているのだったら止めるけれど」
サマンサを今晩、泊まってもらう客室へ案内しながら、私は首を横に振る。
「さすがにそんな物騒な事はしないわよ。ただ、今まで傷付けられた分を返すというか、気持ちをわかってもらおうと思って」
「よくわからないけれど、あなたの旦那様のマオニール公爵閣下には、そのことを伝えてるの?」
「具体的には伝えていないの。自分自身でケリをつけたくて。あと、メイド達も協力してくれるしね? もちろん、危ないことはしないわ。あと、お父さま達が引っかかってくれるか心配だけれど……」
「引っかかってくれるって……、アイリス、一体、あなた、何をしようとしてるの?」
サマンサのために用意した客室に着き、扉を開けて、侍従にサマンサの荷物を部屋に運び入れてもらう。
侍従が部屋を出て行ったのを確認してから、私はサマンサの先程の質問に答えることにした。
サマンサは私が立てた計画を聞き終えると、不安そうな顔で言う。
「その話をマオニール公爵閣下に伝えておいてもいいんじゃないの?」
「それはそうなんだけど、リアムはわりと過保護だから、私の代わりにやろうとするんじゃないかと思って」
「……」
サマンサが客室にあるソファーに座り、向かい側に座った私をじっと見つめてくる。
「ど、どうしたの? やっぱり駄目かしら?」
「ううん。そうじゃなくて、あなたはマオニール公爵閣下に愛されているのだから、もっと頼ってもいいんじゃないの?」
「あ、愛されてるなんてっ!」
「だってそうでしょう? あなたの話を聞いてると、そうとしか思えないんだけど……」
サマンサは私がお飾りの妻だということを知らないから、そんなことを言うんだわ。
そう思って、首を横に振る。
「実は、最初に言われているの。彼は妻になった人を大事にする事は出来ても、向けられる愛情にはこたえられないって。だから、甘えることなんてできない。それに、私は今でも充分幸せなの。ただ、一つ問題なのが、私の家族なだけ」
家族から逃げ出しただけで、縁を切れたわけじゃなかった。
そこが私の浅はかさだった。
「まあ、いいわ。アイリス、私はあなたの味方よ。あなたには幸せになる権利があるし、あなたの家族には、あなたがこれからしようとしていることをされても当然だと思う」
「ありがとう、サマンサ」
会話をしている内に、メイドがやって来て、私の家族が屋敷に着いた事を教えてくれた。