表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/51

23 妹の襲撃

 動揺もしたけれど、サマンサとの時間は本当に楽しくて、時間は、あっという間に過ぎてしまった。


 名残惜しいし、まだ話し足りないけれど、今度はどちらかの家で、もっとゆっくり話そうと約束して別れた。


 リアム様はまだ仕事中のようで、護衛騎士の人と一緒に待ってくれていたトーイに、話が終わった旨を伝えた。


 すると、トーイがリアム様を呼びに行ってくれるというので、その間に下着を見に行きたくて、店の名前だけ伝えると、トーイはその名前を聞いただけで察してくれた。


「では、どうしましょうか。リアム様には、ゆっくり向かうようにしていただきましょうか?」

「そうですね。待っておられると思うと、ゆっくり選べないので」

「承知しました」


 トーイは頭を下げると、護衛騎士は私に付けたまま歩いていく。

 その姿を見送ったあと、ここからそう遠くない女性用の下着専門店に向かった。

 

 店に入り、自分好みの下着を物色しつつ、店内にいる他のお客さんを見てみると、夫婦なのだろうか、男性と一緒に下着を選んでいる若い人達が何組かいた。


 高位貴族ともなると、個室に良さそうなものを持ってきてもらうみたいだけれど、そうでない場合は、こうやって2人で選ぶのが今は人気らしかった。


 仲が良いのは羨ましいけれど、私は自分一人で選びたいタイプだわ。

 というよりか、私には選んでくれる人もいないので、そういう人が出来ていれば違ってくるのかしら?


 そんな事を思っていると、先程の、サマンサとの会話を思い出した。


 サマンサのおかげで、自分の気持ちには気付けたけれど、それでは駄目だということも自覚した。


 リアム様は私が彼を好きにならないと思ったから、私を選んでくれたんだもの。

 この気持ちは、これ以上大きくさせてはいけないし、忘れていかなければいけない。


 下着を選びながら、自分に言い聞かせていると、とんとんと誰かに肩を叩かれた。


 無意識に振り返り、相手が誰だか確認した瞬間、驚きで一瞬、声が出なかった。


「お姉様、お久しぶりね!」

「コ、ココル……。どうしてここにいるの?」

「じゃーん、驚いた!? お姉さまを驚かせようとして待っていたの! マオニール公爵領の繁華街で下着専門店はこの店しかないから!」

「どういうこと? どうして、ココルがそんなことを知ってるの?」

「彼が教えてくれたのよ」

「……彼? ロバートのこと?」


 尋ねると、ココルは胸を張り、笑顔でそれを否定する。


「違うわ! 実はね、私、恋人ができたの」

「恋人!?」


 初耳だったので、驚いて尋ねると、ココルはうっとりとした表情で言う。


「ええ。昨日くらいに、この街に家族でやって来たのよ。その時に、とても良い人がいたの。だから付き合ってあげようとかと思ってるのよ」

「付き合ってあげようって……。恋人ができたわけではないのね?」


 眉を寄せて聞き返すと、ココルは頬をふくらませる。

 

「私が狙っているんだから、恋人になるに決まっているじゃない。それにしてもお姉様だけずるいわ。こんな良いお店に来れるなんて。私も贅沢したい! だから、恋人が出来たお祝いにお金をくれない? あ、お祝いをもらえないなら、お姉さまのお家に住まわせてよ!」

「馬鹿なことを言わないで!」


 元々、常識知らずな子だとは思っていたけれど、今回については酷すぎる。


「ココル、あなた、自分が何を言ってるのかわかってるの? 私がいなくなってから、あなたはお父様達にどんなことを吹き込まれたのよ!?」


 彼女のイタズラには困ってはいたけれど、ここまで訳のわからないことを言う子ではなかった。


 そう思って聞くと、ココルは首を傾げる。


「うーん。そうね。別に、お父様に何か言われたとか、そんなことではないわね。ただ、ずーっとお姉様のことが羨ましいって思い続けていたくらい」


 ココルはそこで言葉を区切り、私の耳元に口を持ってきて続ける。


「お姉様のことを知っている人はみんな、お姉様よりも私のほうが可愛いって言うの。今回の彼だって、そう思うと思うわ。そうよ、それに、マオニール公爵閣下だって、パーティーの時にはあんなことを言っていたけれど、もう機嫌は直っているんじゃない? だから、私を見たら私を選ぶはずよ」

「リアム様は、その時の機嫌で人のことをどうこう言うような人じゃないわ。あの時の言葉がリアム様の本心よ」

「お姉様、だから言っているでしょう。お姉様と私のことを知っている男性は、皆、私のほうが良いって言うんだって」

「どうせ、あなたのことを好きだと言う男性にしか聞いていないのでしょう?」

「そんなことはないわよ! というか、お姉様、本当にマオニール公爵閣下に愛されてるの? パーティーの時はそんな風には見えなかったけど? だって、あの時に初めて会ったんでしょう?」


 ココルのくせに痛い所を突いてきた。


 私がお飾りの妻だなんてことは知らないのでしょうけれど、きっと、私なんかがリアム様に愛されるわけがないと思っているからだ。


 そして、それは間違っていない。


「あなたに、どうこう言われたくないわ」

「家族なんだから、何か言ってもいいはずよ!」

「私にとって、あなたはもう家族じゃない!」


 ここがお店の中だということを忘れて叫んでしまった。


 そのせいで、店内が一斉に静まり返り、視線が私達に集まるのを感じた。


「騒がしくしてしまい、申し訳ございません。ココル、ご迷惑だから外へ出ましょう」


 店の人や店内にいる他のお客様に頭を下げたあと、ココルを促すと、彼女は首を横に振る。


「何をムキになってるのよ。もしかして、図星だった? あ、そういえば、全員ではなかったわ。ロバートはお姉様の事を未だに忘れられないみたいよ? お姉様、ロバートとよりを戻してさしあげたら? 私と彼は何もないわ。だって、本当に悪戯のために協力し合っただけなんだから」

「あんなのは悪戯なんかじゃないわ」


 ココルが一向に店から出る気配がないので、彼女が動き出すのを待たずに、店の出入り口に向かって歩き出す。


「お姉様、そんなに私にマオニール公爵閣下をとられるのが怖いの? まあ、私のほうが可愛いし、男性に人気もあるから、気持ちはわからなくはないけど」

「そんなんじゃないわ。 それに、リアム様は……、リアムはあなたなんか好きになるようなバカじゃないもの」


 リアム様がココルにバカにされている様な気がして、立ち止まってココルの方に振り返り、大きな声を出さないよう、怒りを押し殺して静かに言葉を返した。

 すると、ココルがなぜか、私の後ろを見て、ぽかんと口を大きく開けた。


「……?」


 意味がわからなくて、振り返ろうとした時だった。


「アイリス、よく出来ました」


 それと同時、後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれた声は、相手が誰だか聞かなくてもわかった


「リ……、リアム様」


 いつから、話を聞いてたの!?

 しかも、手がお腹に回されているし、それに、本当に近いです!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ