14 顔合わせは必要か
「そう言ってもらえると助かるよ。お飾りの妻なんだからそこまでしたくないと言われても、こちらとしては文句は言えないからね」
「前々から、リアム様のご両親にご挨拶させていただきたいと思っておりましたので、お声をかけていただけて良かったです」
リアム様のご両親は、私がお飾りの妻だと知っていらっしゃる。
だから、先代の公爵閣下は特に、私にわざわざ会わなくても良いと思っておられるかもしれないと思っていたので、挨拶できることに関しては嬉しかった。
「僕の両親に君を紹介もしないまま籍を入れてしまっただろう? 両親にはかなり驚かれたし怒られもしたんだ。いつなら会いに行けそうかな?」
「私はいつでも大丈夫です。リアム様が日時を決めてくださいませんか?」
「ありがとう。本当に助かるよ。特に母が君に会いたいってうるさくってさ。会いに来る前に連絡をくれたら良いと言ったんだけど、嫌な姑だと思われたくないから、押しかけるのも嫌だって言うんだ」
リアム様は困ったように小さく息を吐いた。
「ご挨拶ができていないことのほうがおかしいですよね。本来でしたら、こちらからもっと早くにお話をすべきことでした。申し訳ございません」
頭を下げると、リアム様は首を横に振る。
「君に伝えていない僕が悪いんだから、謝らないでほしい」
「いいえ。私がもっと早くにお伝えすべきでした。大奥様には、お部屋のコーディネートまでしていただきましたし、そちらについてのお礼も、お顔を見てお伝えしたいです」
「わかった。気になることは早めに済ませてしまいたいし、顔合わせは君が良ければ明日の午後からでもいいかな?」
「リアム様がお忙しいようでしたら、私1人でご挨拶に伺いますが?」
「そういうのは良くないだろ。初めて顔を合わすんだから」
リアム様がいてくれるほうが心強いのは確かなので、それ以上は強く言わないことにした。
そして、顔合わせという話が出たことで気になったことがあった。
「もう、いまさらといった感じではあるのですが、両家の顔合わせはどういたしますか?」
リアム様に尋ねると、彼は眉根を寄せて聞いてくる。
「そのことなんだけど、それって必要かな? 結婚前にやるのが普通だと思ったんだけど」
「そうなのですが、結婚後にする方もいらっしゃるようです。両親同士の顔合わせはほとんどの方がやっておられますし、やらないにも何か理由があったりしますよね」
私達の場合は理由があるといえば、理由はある。
あんな両親をリアム様のご両親に会わせたくない。
普通の人なら、自分の息子をあんな両親の娘に渡したくないと思われてしまうのじゃないかと思ってしまう。
「そうだね。しなかったらしなかったで、君の両親は何を言い出すかわからないしな。それに対して無視してもいいんだけど、君が僕の妻になった理由が罰だということを忘れて、娘を奪われた、だなんて言い出しかねないし、困ったものだな」
「申し訳ございません」
自分の親のことなので、慌てて頭を下げると、リアム様は首を横に振る。
「謝らなくていいって。君は悪くないし、顔合わせに関しては、君だけの問題じゃないだろ。僕も一緒に考えないといけない問題だ。それに、例の公爵令嬢の件もあるし」
「そういえば、相手からは何か言ってこられたのですか?」
「何も。ただ、どこかの夜会などで会う機会があれば、君に何か言おうとするかもしれない」
「承知しました。その時には、私達の嘘がばれないようにしつつも、リアム様のご迷惑にならないような対応をしようと思います」
それくらいは出来るようにしなければ意味がない。
強い気持ちを持って言った。
「ありがとう。話を元にもどすけど、君の両親は顔合わせをしたがりそうなんだね?」
「はい。先代の公爵閣下に会ったと、両親は周りには自慢したがるかと思いますので、顔合わせを望むはずです」
「そうか。手切れ金を渡すのが早すぎたかな。君に言うのもなんだけど、君のご両親は常識がなさそうだから、手切れ金を渡したからって、それで終わるようなタイプだとは思ってなかったけど」
「誠に申し訳ございません!」
お詫びの言葉を発してから、深々と頭を下げる。
今の私には謝ることくらいしか出来なかった。
「謝らなくていいって言ってるよね。僕のことは気にしなくていい。本気で鬱陶しくなったら容赦なく潰すよ」
リアム様はにっこりと笑みを浮かべて、恐ろしい言葉を口にした。
つ、潰す……?
「リ、リアム様、潰すというのは、どういう事でしょうか?」
「そのままの意味だけど」
「そのままの意味……?」
聞き返すと、リアム様は笑みを絶やさぬまま頷いた。