女子トイレに男の子がいたから百合の花まで咲きました。
通学路は花吹雪。満開だった桜も散り初めてちょっと春風が肌寒い4月の登校日。
「彩弓、おはよー」
「あ、莉菜、おはよー!」
中学からのずっと同じクラスの莉菜が制服のスカートを春風に巻き上げながら小走りに近づいて声をかけてきた。陸上部の彼女はいつも元気だ。スカートの下に見える小麦色の足は良く締まってしてつやつやに輝いている。
(うらやましいなー)
と自分の腿に目をやる。
「何、人の足見てるのー?えっちー!」
「あ、アスリートの足っぽくて綺麗だなーって」
「えー、だってアスリートだもん!彩弓だって真っ白ですべすべじゃんー」
「きゃっ、あーん、こんなところで撫でないでー」
「…何、朝っぱらからいちゃついてんの!?」
「きゃ、花岡くん!」
「あ、花岡くん!おはよー!朝の挨拶してたとこ」
「えー、なにそれ!?…俺も混ざっていい?」
「ダメー!」
「だめですー!」
「じゃ、先行くわ。お嬢さま方、御機嫌よう!」
花岡くんは莉菜と陸上部仲間だ。
普段はおちゃらけキャラだけどハイジャンプが得意で、飛んでるときは格好良い。
「なんか変なの見られたね」
「ね」
校門の傍の大きな桜の下を抜けて校舎に入る。
私のクラスのみんなは賑やかだ。
「みんな、おはよー!」
「おはよー、彩弓。なんか久々ー!」
「菜摘、おはよー。みんなに会えるのは嬉しいけど、貴重なJKの春休みが1日無くなるの辛ーい」
「それなー!」
「…JKの貴重な春休みじゃないんだ!」
莉菜が混ざってきて茶化す。
「そ、私、貴重なJK!」
「あはは。語彙力。」
「…諸君、お早う。春休みに登校させて済まないね。」
とイケメンの新井先生登場。
「おはようございまーす。ほんと酷いー!」
「学校じゃなくて先生のお家に呼んでー!」
と担任推しの女子たち、彩葉とか茜とか、が黄色い声を上げる。
「…じゃ、出席をとるよ。相澤!」
「はーい」
「青木!」
「はーい、先生!彩葉いまーす!」
彩葉の過剰なアピールも華麗にスルーされてホームルームが始まる。
「…ということで、新学期を良い気持ちで迎えるために、これから掃除をしてもらうよ。
クラスとクラスの前の廊下から階段の踊り場とその前のトイレがうちのクラスの担当だ」
「げ、マジ?トイレ?」
「すまん、先生方とのじゃんけんでうちがトイレ掃除になった」
「で、でも校庭や体育館の掃除よかマシだろ?」
「えー」
「微妙ー」
ブーイングに苦笑いしている先生がなんだか済まなそうにしてるのが可愛い。
こういうところに母性本能くすぐられちゃうんだろうなぁ。
「ねーねー、昨日の妖怪の話見たー?」
「なになに?」
「『トイレの花子さん』って今でもあるのねー」
「えー、昭和のネタじゃんー」
「えー、うちら3階じゃん、トイレ掃除やだなー」
「あれ、『はーなこさん、遊びましょ』だっけ?」
「やめてー、私そういうの弱いのー」
「あきらめて掃除いくよー」
「はーい」
ぞろぞろと渋々トイレ掃除に向かう私達。
5つあるトイレの個室、手前の1つだけドアが空いてる。でもみんな空いてるはず。
2つめも、3つめも4つめも閉まっていただけで空いていた。
一番奥…閉まっている。
「はーなこさん、遊びましょ!」
莉菜がふざけて一番奥の個室に声をかける
「えー、やめなよー」
ノックをしてみたけど返事がない。
「はーなこさん、あーそーぼー!」
「だからぁ、やめ…」
「…はーぁ゛ーい゛…」
「うわーっ!」
「きゃーっ!」
「いやーっ!」
思いがけず小声のくぐもった声の返事があってみんなも私もちょっとパニック。
「中の人、怖いから止めて!」
莉菜が頑張って声をかける。
「…はーい…謝るから見逃して…」
「あーっ、その声!花岡くんね!」
「変態ー!」
「痴漢ー!」
「すけべー!」
ドアがゆっくり開いて花岡くんが出てきた。
「なんで男子がいるのよー!」
「…ごめん、男子トイレ空いてなくてもう一つは壊れてて、で、その、俺も腹壊れてて…」
「あー、だから今朝、ちょっとキョドってたのねー」
「緊急事態ってことで見逃してー!放課後何か奢るから、みんな内緒にしてー!」
「えへへー、仕方ないなー。でもここには5人いるよー」
「わかったから、みんな全部奢る!…ミ、ミスドでも良い?」
「おっけー」
「じゃ、みんなでガードして外に連れ出そー」
ミスドに釣られて5人で花岡くんを隠しながら外に出る。
「トイレの花子さんって、トイレの花岡くんだったんだねー」
「ひどっ、お願いだから内緒でー!」
そして放課後、花岡くんが後ろの教室の後ろの廊下側から手招きしてる。
「俺、部活10本だけ飛んでから来るから、悪いけどみんなに30分くらい待ってって言っといて」
「はーい」
クラスでおしゃべりしながら待ってて校庭を眺めてると、花岡くんっぽい子が助走を始めた。
(あれ、花岡くんかなー?)
「わぁ、高ーい!羽が生えてるみたい!」
汗が夕日にキラキラ光ってる。
「おまたせー。待った?」
「大丈夫。見てたよー。花岡くん飛んでるときだけは格好良いねー!」
「だけっって、それ、褒められてるのかけなされてるのわかんないな。ま、でも今日は体調悪くてあんまり…」
「だってトイレの花子さんだもんねー」
「やめてー」
「で、莉菜は?」
「そろそろ来るはず。女子の着替えは長い」
「当然!色々あるのよー」
「そっかー」
「ついでにもうちょっと待って、ちょっと行ってくる!すぐ戻る」
なにか慌ただしく走り去る花岡くん。
「何だろ?」
「さぁ?またトイレ?」
「あはは、花岡くん、かわいそう」
「ただいまー、新井先生連れてきた!」
「え、何?」
「お、花岡、グッジョブ!」
喜びを隠さない担任推しの茜。
「下校途中に生徒だけで6人も集まってると目立つし、校則的にヤバイかもって先生に相談して、課外活動の引率ってことにしてもらった」
「先生ありがとうございます!」
「ありがとうございますー」
「花岡くん、偉い!よくOK貰えたね」
「…事情、話した…」
ちょっと赤くなってそっぽを向く花岡くん。
(こういう可愛いとこ先生にも似てるなー)
「…ということで、先生もスポンサーになってくれることになりました。マジで先生、神!」
「うわーい!甘ーい!先生好きー!」
どさくさに紛れて彩葉が先生に抱きついてる。
「じゃ、行こー!」
「いこー!」
お店についた。
「私、フレンチクルーラー」
「私はシーズン限定のこれにするー」
「グラタンの美味しそうだけどダイエット中だし…うーん。」
色々とかしましくみんなそれぞれに注文してる。
「ところで、この集まりって一体何って感じ?」
「恥ずかしがるトイレの花…」
「うわぁー!」
「だから苛めちゃ可哀想だってばー」
「苛めてないよ、どっちかっていうと辱め?」
「あーん」
「泣かない泣かない」
「じゃ、よくわかんないけど、イケメン男子を囲んで怖い話をする会?」
「莉菜ー、ありがとー!」
涙を潤ますジェスチャーをする花岡くん。
「じゃ、ま、私は隅っこで本でも読んでるね」
って遠慮がちに先生が離れた。すかさず彩葉が動く。
「先生ー、どんなの読んでらっしゃるんですかー?」
隣に座ってくっつきながら覗き込もうとしている。
うちのクラスは、なんだかみんな可愛い。
「ねーねー、莉菜と花岡くんって仲いいよねー」
「ま、陸上部だしねー、もしかして付き合ってたりするの?」
唐突に始まる恋バナ。
「ねぇよ!女子が3人以上集まると自動的に恋バナが始まるって本当なんだなー!」
「本当?花岡くんフリーなの?こんなに格好良いのに!」
「残念ながらねー、っていうかそれってもしかして俺に興味あるってこと?」
「そ、そんなことないって…キモっ…(くなんてない)」
ちょっと顔を赤らめる菜摘。
「えー、おれ遠野、セクシーで好きだなー。今度の記録会応援に来てよー!」
「ほんと?あ、え、そんなじゃないけど、応援…行っても良いよ。」
「あれー?なんか、菜摘、やっぱ花岡くんのこと好きなんじゃないのー?」
「ないって、だってトイレの花岡くんだよー!」
「わーーっ!だめー、俺、一体、何のために奢ってるんだよー。先生ー助けてー!」
「花岡は、練習してるときはともかく女子の前だと弱いな。先輩として情けない。」
「え?先輩って?先生ってもしかして陸上部だったんですか?」
「言ったこと無かったっけ?中距離走ってたんだよ。見よ、今でもしまったこの体!」
「ふーん、ふーん…え、凄!割と鍛えてるんですね。お腹ぺったんこ!」
花岡が先生のお腹を手で叩いたのを見て色めき立つ茜と彩葉。
「私も触るー。ぺちぺち、硬ーい!彩葉も触ってみなよー」
「…ぺちぺち…」
「お前たちっていうか、青木と葉山、花岡も、いい加減にしなさい」
「わーい、呼ばれたー。もう茜って呼んでいいよー!」
「…じゃ、私も彩葉って呼んでくれたらやめるー!」
「おい花岡、俺も助けろ!どうにかしてくれこいつたち」
「先生…先輩も同じくらいだったんですねー。女子に弱いの」
なんだか奇妙な連帯感を男二人が感じながらアイコンタクトしてる。やばい(笑)
「で、莉菜は、好きな人いるのー?」
「私?今は陸上が恋人かなー」
「障害多いと燃えるって!?」
「それはそうだけど、じゃなくて、400mハードル!」
「ぶつけると痛そう」
「そんなのより体中から酸素が無くなって足上がらなくなるの」
「全力疾走50mでも厳しいー」
「菜摘はそれが重いもんねー」
と菜摘の大きな胸を指差す。
「もう、走ると揺れて痛くて。絶賛ダイエット中だよー」
「また育ったよねー?そろそろGカップ?」
「うぉー、想像しちまったー。ぐーっ」
「えーと、君たち、ここに年頃の男子が二人もいるのをお忘れなく…」
「へぇー、先生も年頃の男子なんだー?」
「花岡くん、リアクション大きすぎー!中身、気になるのー?」
「な、中身って…ぐぉー」
なんか身悶えしてる花岡くんをいじってる莉菜を愛しそうに見ていたら
「そういえば彩弓、あんまり男子いじりに混ざってこないねー」
「え、なんかみんな男の人に慣れてるの凄いなーって…」
「怖くないって、ねー、花岡!」
「も、もちろん!トイレの花子さんは怖くても、トイレの花岡くんは怖くないよ…だー、自虐ネタしちまったー!」
また身悶えしている花岡くん。
「花岡は本当に見てて飽きないね。うちのクラスは男女仲良くて先生としては嬉しいよ」
「先生、私達も男女ですよー、仲良くし・ま・しょ!」
「茜ー、飛ばしすぎー!先生硬直してる!」
「ふーっ。さーて、話は尽きないみたいだけど、外も大分暗くなってきたので、先生としてはそろそろお開きを宣言しなきゃだめかな。そろそろ行くよ」
「はーい」
「はーい」
「はーい」
「ごちそうさまでしたー!」
「ありがとうございましたー!」
「はーい、じゃこの後は二人でですね!」
「はい茜、そこアウト!」
「じゃ、三人だとどうかな?」
「彩葉、あんた今何言ったか分かって言ってる?」
(じゃあ莉菜、私と二人で…)
私の声は雑踏に消える。
「はいはい、お開きー。今日はよくわかんないけど楽しかったよ。くれぐれも内緒でお願い、本当、お願いします!」
「じゃまた今度は始業式でだね、みんなお休み。花岡は遠野と同じ駅だよな。エスコートしてやってくれ。」
「エスコート…て、緊張するじゃねぇか。じゃ遠野、駅までよろしくな」
「さっすが先生、気が利くー」
「あの二人、両思いなんだから、ぐだぐだしてないで付き合っちゃえば良いのにねー」
「ねー」
「じゃ、私たちは…」
「ね、ねぇ!」
振り返って、つい大きな声になった私。
「何?びっくり」
「あのね、トイレの花子さん、花岡くんだったのは笑えるんだけど…あの…怖くて…」
「あ、彩弓、なに?花岡?それとも妖怪?」
「賑やかな後に妖怪の話を思い出して夜道が怖くて心細くなって…今日、家、誰もいないの」
「わかったわかった。彩弓も可愛いよね。お家まで付いて行ってあげる」
「あのね、もし良かったらなんだけど、彩葉も茜も莉菜も、私が晩ごはん作るから家来ない?」
「え、いいの?彩弓の手料理超魅力的。普段のお弁当もあれ自分で作ってるんだよね?」
「え、いいの?突発パジャマパーティーしちゃう?」
「してして、嬉しい。茜も大丈夫?」
「うん大丈夫、ちょっと親に連絡するー」
「あ、私も。ちょっと待って」
「みんなオッケーだって、彩弓。私たちは飲み物とお菓子買うから、途中でコンビニ寄ってね」
「うん。みんなありがとー。なんかヘタレでごめんー」
「良いって良いって。菜摘たちがうまくいくのを祈りながら私達もがんばろー!」
「おー!」
うちの近くのコンビニ着。
「このシャルドネっぽいジュースお洒落ー。ちょっと高いけど買っちゃうー」
「パイの実…太るかなー、えーい、明日考えよー」
「ポッキーいるよねー」
色々買ってマンションに到着。誰もいないリビングは広くて暗くて寂しい。
部屋に入ってライトを点ける。でも今日は賑やかだ。
「お嬢さま方、お帰りなさいませ!」
なんだか嬉しくなってそんなこと言ってみた。
「なにそれ、ウケる!」
「じゃあ、片瀬家へようこそ!なんてね、来てくれてありがとう。さっそくご飯用意するね。しばらくくつろいでてー」
「ご飯炊いてられなかったので、こんなのどうかなー?トマトとモツァレラのカプレーゼと、レタスとプチトマトとオリーブとクレソンのサラダ温泉卵とクルトン乗せと、クラムチャウダーのスープパスタと、白身魚のグリルローズマリー風味」
「凄ーい!レストランみたい」
「なんでこんなの作れちゃうのー!」
「魔術みたいー!」
「ちょ、そこ、家庭科!」
「シャルドネ風の買ってくれてたから、こんなのにしてみました。召し上がれ」
「じゃ、サラダ分けるねー」
「彩弓凄いなー、もういつでもお嫁さんになれそー」
「美味しそうー、あーん、ダイエットー!」
「大丈夫、大丈夫、ローカロリーでヘルシーだよ!」
「ありがとー。じゃ、遠慮なく、頂きまーす!」
「頂きまーす」
「頂きまーす」
「あ、菜摘にラインしておくー。仲間外れみたいな感じになるとやだもんねー」
「あ、わたしも」
「私も…」
「私、ちょっと片付けてるので、待ってー」
「…ね」
「…うん」
「…よかった」
「うん、花岡に家の前で告られたって!」
「新井先生、超グッジョブじゃんー!」
「キューピッドだよねー」
「見てないようで観察眼鋭いってことだよねー、やばーい!」
「…わたしも観察されてたりするのかなー」
「さすが私の推しだけのことはある!っていうか、もっと私も見てもらいたーい!」
「私、先生にだったら、何だってみせられるのにー!」
「ちょ、そこ、また分かっていってる?」
「あ、菜摘。明日改めてデートだからもう寝るってー」
「いいなぁ…」
「いいなぁ…」
「ねー…」
「ということで恋バナのネタも入ったし、パジャマパーティーするよね?」
「するー!」
「じゃ、お風呂用意したから入ってね。私の部屋着とTシャツ用意したから適当に選んでねー」
「下着も洗っちゃうからドラムの中に入れておいてー」
「はーい。今度はお母さんみたい。彩弓やっぱ凄いー」
「でも妖怪とか一人は怖いのよね?」
「それとこれとは別だよー。今うちが明るいのみんなのおかげだもん」
「凄いのとか弱いのが混ざってる彩弓、可愛いー!ぎゅっ」
「…あっ…莉菜…」
「え、何その声、彩弓のえっち!ちゅーっ!」
「…あ…だめだって…」
「莉菜やっばーい、なんか女子校みたーい」
「私は健全に先生が好きなんだもんねー」
「それって、健全?」
「やめて、私の理久くんなんだからね!」
「おっっと、いきなりの名前呼び!それ本人の前で言ってみよー」
「やだぁー、まだだめー」
♪お風呂が湧きました♪お風呂が湧きました
「お風呂湧いたよー。お先にどうぞー」
「莉菜、部活で汗かいてるんだから先に入りなよー」
「いいのー?じゃ、お言葉に甘えるー」
って言いながら莉菜が私の側に来て耳元で囁く
(今朝私のこと見てたでしょ、もっと見たくない?)
「ねー、時間押してるから彩弓も一緒に入らない?」
「えー、なんかちょっと恥ずかしいー」
「ちょっと温泉旅行気分になれるかなー思って」
「自分ちだからなー…あ、でも白骨温泉のお土産でもらった白骨の湯の入浴剤がある!」
「白骨…って、凄い名前。怖がりの彩弓なのに、そういうのは怖くないの?」
「『はっこつ』は怖いけど『しらほね』だとなんか語感可愛くて怖くない…気がする、するよね?」
「ちょっと意識して怖くなった?」
「あ、やっぱ、莉菜、一緒に入って…くれると、嬉しいなー…って。にごり湯は美肌の湯だよー」
「いいよいいよ、入ろー」
「ねぇ」
「ねぇ」
「あの、二人って」
「もしかして」
「そういうこと!?」
「きゃー!」
「莉菜、背中流してあげるー」
「一緒に浸かろー」
「にごり湯だからこの方が恥ずかしくなくて…」
「いまさら、変に照れるから止めて」
「莉菜、手足は焼けてるのに体は真っ白なんだねー、知らなかったー」
「陸上焼け、顔はまめに日焼け止め塗ってるんだけどねー、仕方ない」
「彩弓は全身真っ白で美味しそう。同性ながら、ちょっとどきどきする」
「触ってみていい?」
「触ってみて良い?」
「あ、ハモった!」
「…ん、莉菜すべすべのつるつる」
「あ…、彩弓柔らかくてふわふわ」
「きゃ」
入浴剤で滑った私を莉菜が抱きとめてくれた。目が合う。
褐色のほほに切れ長の瞳に長いまつげ、一瞬見とれていた。
あ、顔が近づいてくる。
「…彩弓、綺麗…」
莉菜の胸が私の胸の上に触れる、あ、やばい。そっと目を閉じた、とたん唇が唇で塞がれた。
「…彩弓」
「…莉菜」
莉菜に抱き寄せられて二人の胸が潰れ、するっとずれて胸が交差する。
やばいにごり湯のせいかぬるぬるすべすべして気持ち良い。
莉菜のなめらかな太腿が私の足の間に滑り込んで、私の一番敏感なところに触れる。
「あ、ん…」
「お肌はふわふわだけど、ここはぬるぬるね…」
と私の声に反応して莉菜が手を伸ばして触ってくる。
仕返しに私も莉菜に手を伸ばす。指が熱い。
「莉菜だってぬるぬるしてるし…それに凄く熱いよ…」
莉菜から吐息が漏れる。
「ね、彩弓、私、恋愛なんて私に関係ないって思ってたの…」
「うん…」
「でも、私、彩弓のことが好きだったみたい…」
「…知ってた。でももし私の片思いだったらどうしようって…女の子同士だし…」
「え、え、じゃあ…」
「私も莉菜が好き。大好き!」
「ありがとう、私も!」
ちょっと長い情熱的なキスをされてぼーっとしてたら外から声がした。
「お二人さーん、大丈夫ー?」
「あ、大丈夫、ちょっと滑って焦ってただけー。そろそろ出るよー」
どぎまぎしてごまかす(変に思われてないよね?)入れ替わりに彩葉と茜が入ってきた。
「良いお湯だったよ。二人もごゆっくりー」
「にごり湯、滑りやすいから気をつけてねー、バスタオルはここねー」
「はーい」
「はーい」
「ねー、あの二人なんかあったのかなー」
「ねー、ちょっとお湯のせいじゃない頬の赤さだよねー」
なんてひそひそ話されてるのもドライヤーの音にかき消されていて私には聞こえていなかった。心臓がまだばくばくして、ドライヤーを動かす手もうわの空みたいになってる。とたん後ろからバスタオル越しに抱きかかえられて、耳元で囁かれた。
「…彩弓、さっきの…彩弓のこと好きなの、本当だから…」
「…うん、私も。これからのこと考えなきゃね…」
「とりあえずみんなにはバレないようにいままで通りね…」
「うん…」
「暑いーっ!やっぱ湯の花?入ってると温まるねー。部活の疲れ取れて気持ち良いー。彩弓ありがとー!」
「いいえー、一緒にお風呂とかって、なんか合宿みたいだねー」
バスタオルを巻いただけの二人が出てきた。
「…合宿みたいですー」
「お肌すべすべー!」
「あー、女子校じゃないんだからパンツ履いてー」
「女子校ってパンツ履かないの?」
「ものの例えよ!女子校行ったこと無いから知らない!」
「髪の毛ー痛むよー、乾かそうよー。もう先生がいないと女子力低下し過ぎ!」
「どうせなら先生と入りたかったなー」
「ぴぴー!それイエローカード!」
「…レッドじゃない?」
「…でも先生独身だから…オレンジくらい?」
「オレンジカードってあるの?」
「よくわかんないー」
「でも、こういうのってきっと女子校のノリだよねー」
「だよねー」
「わぁ、ここが彩弓の部屋なのねー」
「もっとピンク色な感じを想像してたー」
「ぬいぐるみ以外はシンプルねー」
「はーい、恥ずかしいから論評は無しでお願いします!ベッドの下にもおふとん敷いたから好きに使ってー」
「さて、彩葉と茜の新井先生愛を語ってもらおうと思ってたけど、今夜は!」
「菜摘と花岡くんね!」
「やっとかぁって感じ!いやん、めでたい!」
「さっき私達の恋バナグループ作っておいたよ!」
「さっそく菜摘から惚気っていうか明日どうしよーって感じの来てるー」
「初々しい、一番楽しい時かぁ、良いなー」
「はぁ、神々しい…尊いわぁ」
「私ものろけたい」
「それだめ、理久は私の」
「あれ?こないだイケメンは女子の共有財産です…って言ってなかったっけ?」
「そうだっけ?ま、色々素敵な先生だよねー」
「それは間違いない。たった半日でカップル成立させちゃうんだもんなー」
「菜摘にアドバイスなんて出来ないよねー。だってもう恋愛の先輩なんだもんねー」
「どんな服がいいかなーって来てたら『清楚系!でも胸強調!』って返しておいた!」
「男の子なんてそんなものよねー」
「あれ、茜、ちょっと意味深」
「やっぱりがっつかない『男性』が良いわー」
「も、もしかして、茜…って先輩なの?…恋愛の」
「まぁねー、でも内緒ー」
経験不足を想像で補って乙女?たちの恋バナは続く。
「眠くなっちゃったー。寝るー。明日の菜摘たちのデートがうまくいきますように…」
「私もー。たまには先生が彩葉を女としてみてくれますように…」
「なにそれー急に大人ぶってるー…」
「ん…」
「…莉菜、起きてる?」
「うん」
「みんな寝ちゃったね」
「うん」
「もっとくっついて良い?」
「うん。私もそっち向いて良い?」
「手…」
「うん」
おふとん側の手で指を絡めて恋人つなぎになり、どちらからともなくTシャツの裾からお互いの腰に手をまわして引き寄せあう。
鼓動が早まり、そっと唇が重なる。さっきよりふわふわしてて甘い香りがする。また、胸同士が潰れて、Tシャツの衣擦れの音がする。
Tシャツ越しに莉菜の硬くなった乳首を自分の胸に感じて、
心臓の音も衣擦れもベッドの下で眠っている彩葉たちに聞こえるんじゃないかって思えるくらい大きくなっていく。
「莉菜…ずっと一緒にいたいの」
「彩弓、わたしも」
「ちょっとこわい…」
「きっと大丈夫だよ、だってわたし、障害もハードルも得意だもの!」
「莉菜って強いね、愛してる…」
(ひそひそ、愛の語らい始まっちゃったよー)
(このふたりも、ノーマルじゃないけど、羨ましいなー)
(あれもこれも元はと言えば「トイレの花岡くん」のおかげだねー)
(わたしたちもがんばろー)
(うん、とりあえず頑張って寝ようー)
(恋バナいっぱいだったね。満足。おやすみー)
(おやすみー)
他の二人が寝静まった頃。
「ねぇ、もっと…彩弓のこと…愛していい?」
「うん…」
一段とキスは激しくなって互いの舌を絡ませあう。唾液だらけの唇を時折り離してはまた唇を重ねる。莉菜のすべすべの足が彩弓のふわふわの足に深く絡みつく。
「ショーツ汚れちゃう…」
「…彩弓が好き…大好き」
「…いいよ…私も莉菜とこんなになれるなんて思って無かった…」
莉菜が彩弓の白くてふわふわのおしりに手を伸ばし優しくショーツを下ろし、彩弓の左足の足首でショーツが丸まって残る。暗い部屋のなか彩弓が真っ赤になっている。愛しさが募る。
「…好き」
また深いキスをしながら莉菜もショーツを脱いで彩弓の足に自分の足を深く絡ませる。そして右手を彩弓のTシャツの中に滑らせて彩弓の左胸に乗せる。
「…心臓バクバクしてる」
彩弓も莉菜の背中からTシャツの中に手を入れて引き寄せる。
「…莉菜も…びしょびしょね」
彩弓の右手が背中から降りて莉菜の張りのあるスベスベのおしりと太腿の間を愛しそうになぞる。彩弓の指が少し曲がり、莉菜は力が抜けて彩弓に押しかかる。莉菜の左足に押されて彩弓の右足が開いて柔らかく熱く濡れた下の唇同士が重なった。
「ん…」
「ん…」
すべすべとぬるぬるとびしょびしょととくにゅくにゅと色々な形容詞が二人を巡り互いにもじもじするかのように押しつけあう。
「…あ、あ、やばい…」
「…あ、だめ、あ、くる…」
「(んーー!)」
「(んーー!)」
大声を出さないようにふたりは一層激しく唇を押し付け合って動きが止まり、抱き合ったまましばらく沈黙の時間が流れた。
「…彩弓…大好き(ぎゅっ)」
「…莉菜…大好き(ちゅっ)」
またキスをしているうちに、この2人も幸せな眠りにつきました。
みんなまだ寝ている明け方にちょっと目が覚めた彩弓は半裸な自分の姿に慌て、莉菜にブランケットをかけてトイレに駆け込む。
「シャワー付きトイレありがとう」
と小さくつぶやいた。明かりも点けずに電子レンジでフェースタオルで蒸して、こっそりと莉菜のもとに戻り、まだ眠っている莉菜の唇を唇で塞ぎながら莉菜の艶やかな足の間を拭う。
「莉菜…大好き…」
莉菜のぷっくりとした下の唇にもそっとキスをしてショーツを履かせた。
「…私、おかしくなっちゃったかも」
「…ん…へいき…まだねる…」
他の2人にバレてたことにも気づかないまま、また幸せな二度寝をする2人。
今日もまた良い一日になりますように。