例え世界が終焉を迎えても、夏祭りには絶対に行く
「なろうラジオ大賞4」投稿作品です。
夏休みに入っても私は学校へ通う。
朝、決まった時間。
母は勉強熱心だと褒めてくれるが違う。勉強なら家でもできる。
私は不純な動機で突き動かされている。
いつもの通学路とは違い、少し遠回りした河川敷を通っている。
朝でも日差しはきついけど、河川敷のそよ風は心地よい。
来た。背後から駆ける音が近づく。
「篠原、お早う。今日も学校か?」
「うん、お早う。朝練、頑張って」
成瀬と挨拶を交わすだけに生きている。
風のように彼は駆けて行った。
顔が熱い。誰に見られる訳でもないのに俯いてしまう。
そよ風がありがたい。
前から駆ける音が近づく。そして目の前で止まった。
成瀬が引き返してきた?
「篠原、あのさ」
成瀬は手を後ろ頭に回して、少し斜め下を見ていた。
額から首筋から、汗が流れている。
「ん・・・何?」
やばい、顔が熱い。いやこれは暑さのせいだから。
「今度のさ、日曜日・・・、えと」
「日曜日?」
成瀬の言葉を待っている。心臓の音がうるさい。
「その、暇なら、夏祭り・・・、一緒に行かね? 俺と!」
!!!
「・・・うん、行く」
心臓が呼吸が思考がどうにかなりそうな中で、言葉を絞り出した。
伝わっただろうか、聞こえただろうか。
「わかった。ありがと。直接言いたかったから。部活終わったらまた連絡する」
また風のように彼は駆けて行った。熱を残して。
図書室で本を広げているが、1ページも進んでいない。
頭の中は朝のシーンが繰り返し再生されている。
一緒に行かね? うん、行く。
一緒に行かね? うん、行く。
結局、昼前には家に帰ることにした。
リビングの母は、ニュースを見ながら愚痴っている。
他国の戦争とか、増税がどうとか、値上げラッシュで家計が大変とか、
『世界が終焉に向かっている』というのが、近頃の母の口癖だ。
「お母さん、やっぱ浴衣いる」
「は? 昨日要らないって言ったばっかじゃん・・・
あ! わかった。すぐ買いに行こう!でもちょっと待って。パパに連絡するから!」
なんでお父さんに?
『パパ、急いで帰ってきて。車要るから。あ?抜けてこい!てか車だけ帰ってこい!』
テレビが、どこかに飛翔体が落ちたと伝えている。
電話を終えた母がこちらを向いた。
「飛翔体?世界が終焉に向かっていようが関係ない!娘の晴れ舞台だ」
「う、うん」
母に何故かバレていて、少々大げさになってるみたいだけれども、
成瀬が誘ってくれた夏祭りに、私は人生最大の勇気を出す!
お読み頂きありがとうございました。評価、ご感想を頂けましたら幸いです。
図書室での友達との会話シーン、家での親子のシーン、父親の娘、妻に対する行動なども考えていたのですが、入りませんでした。