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第八話 剥がされた化けの皮

「おや、早い到着ですね。集合時間まではまだあと十五分程ありますが」

 わたしよりもよっぽど早くに着いていたであろう横山君は、こちらに気付くと第一声としてそんなことを言う。

「時間を守るのは良い事ですが、毎回毎回こんなに早く着いていては時間を無駄にしてしまいますよ」

「横山君にだけは言われたくないなぁ」

 言っていることは正しいのだが、わたしより先に来ている横山君に言われてもなぁ、と思いついつい苦笑いが出てしまう。

 ・・・冷静になってみると、全く持って意味がわからない状況である。いや冷静になる前から理解はできなかったが。

 結局、横山君から突然の誘いを受けた後、混乱した頭で日曜なら空いていると伝えたところ「では日曜の十時に早坂さんの家の最寄り駅に来てください」と言われてそのまま横山君は帰ってしまった。

 だからわたしは今日はどこで何をするのか一切知らない。取りあえずスマホや財布など必要最低限の物だけを持ってきた。

 何より横山君の意図が読めない。

 この間遊んだときには、残念ながらあまり楽しんでいる感じではなかった。

 それに二人きりというのも引っかかる。

 これでは何だかデートみたいだ。

 別に嫌な訳では無いが、そういった経験は無いから気恥ずかしくてどんな風にしていれば良いのかわからない。

「別に私は十分や二十分遅刻されたくらいでは何とも思いませんし、もっとゆっくり来ても大丈夫ですよ」

「流石に二十分も遅刻されたら何とか思ったほうが良いんじゃ・・・?」

 そんなわたしの複雑な胸中をよそに、横山君は平常運転だ。

 というか出会って一週間経っていないくらいの短い時間ではあるが、未だに今目の前にいる様な横山君しか見たことはない。

「それで、今日はどこに行くの?」

 今のままでは今後の展開が読めず、わたしの心労が大きく耐えきれないので目的地だけでも聞いておく。

 ・・・そう、今のわたしがやっている「自分」を演じるという行為は、相手の性格や気分、今までの行動にこれから予想される行動など、さまざまな事象を考慮したうえで最適だと考えられる自身の行動を実行するということだ。

 つまりは、持っている情報が少ない状況とは相性が悪い。

 どうやっても掴みきれない横山君の性格、一切の情報を遮断するポーカーフェイスにより感情や気分を察することは困難を極め、加えてまだ出会ってから日が浅いことで、今までの行動はもちろん今後の行動の予測もつかない。

 結果的にほとんど皆無の情報から最適な行動を導かなければならず、その際の心理的ストレスは計り知れない。

 したがって、少しでも多くの情報を早急に集めたい。

 だからこその質問だったが・・・

「・・・さて、どうしましょうか。特に決めてはいないのですよ」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 教室で突然遊びの誘いを受けた時とは比べ物にならないほどの大きな衝撃を受け、わたしの口からは間抜けな声が漏れ出てしまう。

 わたしの質問に対しての返答も、少ない情報をかき集めて何とか幾つかの予想を立てていた。

 勉強を教えてほしいみたいな話をしたからファミレスなり図書館なりで勉強を教えてくれるのかなとか、実は大人数で遊ぶのが苦手なだけで、少人数でまたカラオケに行きたいのかなとか。

 全然的外れであろうことも含めて、考えられることはすべて考え尽くしたつもりだったが、そのいずれにも掠ることのない「決めていない」という回答。

「早坂さんに何か希望があればその通りにしますよ」

 普段の「自分」であれば、ここで返すのは平凡で、無難な回答。

 予想として立てていたような、一緒に勉強をしようとか、この間は歌っていなかったしもう一回カラオケに行こうとか。

 しかし、今のわたしは予想外すぎる展開に思考は停止し、「自分」を演じるような理性は深い眠りについてしまっていた。

 そのため、今まで見せていたわたしでは到底考えられないような回答が飛び出す。

「じゃあわたし、思いっきり遊びたい!」

「思いっきり遊ぶ場所・・・。では遊園地なんてどうでしょうか」

「遊園地いいね!もうすでに楽しいよ!」

「・・・では早速行きましょうか」

 そう言って、振り返ってホームへと向かう横山君の後に続き、改札を通る。

 横山君が振り返る直前、いつもの仏頂面ではなく、口元が少しだけ緩んだ優しい顔をしていた気がするけど、まあいいか。

 そんなことよりもホームへと向かう足取りが、いつもとは別人のように軽い。

 気分もふわふわと浮ついていて空でも飛んでいるかのよう。

 人と遊ぶのが楽しみだなんて、いつぶりだろう。

 さっきまで何を悩んでいたんだっけ。

 いや、どうでもいいか。

 それすらも忘れてしまうほどに、今のわたしには前しか見えていないのだから。

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