第四話 二の舞は演じない
「あーお腹すいた。何食べようかなー」
始業式が午前中で終わり、みんなで遊ぶことになったわたしたちは学校から十五分ほど歩いたところにある最寄り駅近くのファミレスに五人で来ていた。
低価格でお腹いっぱい食べられるこのイタリアンファミレスは、ちょうどお昼時の混雑している時間帯で同じ学校の生徒もちらほら見かける。
「なあ直斗、ピザ二つ頼んで半分ずつ食おうぜ」
「健吾に任せるよ」
向かい合って座る男子たち二人は早速注文するメニューが決まったようで、楽しそうに談笑している。
・・・談笑とは言ってもほとんどは鈴村君がしゃべっているだけで、横山君はピクリとも表情を変えずに短い返事を返しているだけだが。とは言え、雰囲気は完全に楽しく談笑している男子高校生二人だ。
「何頼むか悩むなー。二人はもう決めた?」
メニューと睨めっこしながら悩んでいるえーちゃんが、対面に座っているわたしと文音ちゃんに会話を振ってくる。
「ウチはこのサラダと、ドリアにしよかなって」
文音ちゃんはこのファミレスの人気メニューであるドリアを選ぶ。
「あやりんはドリアかー、安くて美味しいもんね。うーん・・・、よし!決めた!エナはこのパスタにする!大盛りで!」
えーちゃんが選んだのはカルボナーラのパスタ。それの大盛り。
「しーちゃんは何にする?」
二人が頼むものは決まり、当然だがわたしが選ぶ番になる。
・・・大丈夫。二度も同じ失敗はしない。
「うーん、わたしもえーちゃんと同じパスタが食べたいかな。あ、大盛はわたしにはちょっと多いから普通のサイズで」
自然に、これが本心であると思い込んで話す。
これでいい。
こうすれば、無難な選択ができる。
こうしていれば、普通でいられる。
「オッケー、みんな決まったみたいだし、店員さん呼ぶね」
何事もなくわたしの番は終わり、みんなで注文をする。
そこからは終始和気あいあいとした空気で包まれていた。
横山君とだけは壁を感じたけれど、滑り出しは順調なんじゃないだろうか。
三十分も経たずに昼食を終え、ファミレスを出るとそのままの流れで近くのカラオケへと向かう。
この辺りで集団で遊ぶ場所と言ったらそこのカラオケくらいだし、予想された流れだ。
カラオケに着き、受付を済ませて部屋へと案内される。文音ちゃん、わたし、えーちゃん、横山君、鈴村君の順番で席に着くと、早速えーちゃんが曲を入れる。
えーちゃんが入れた曲は有名なアイドルの誰でも知っている曲。明るい曲調で、えーちゃんにとても似合っている。しかもとてつもなく歌が上手い。最初から最後まで圧倒され続け、いつの間にか曲が終わっていた。
「・・・ふぅ、ねえねえ、エナの歌どうだった?結構自信あるんだけどどうかな?」
「えーちゃんすごいよ!めちゃめちゃ上手じゃん!」
わたしは嘘偽りのない本心で感じたことを伝える。
「知らなかったな。青木って歌上手かったんだな」
鈴村君も目を丸くして感想をこぼす。
「一応軽音部でボーカルやってるからね」
みんなから称賛され、胸を叩いて自慢げに笑うえーちゃん。
「なんかこないにうまい歌を聞いた後に歌うのすごいハ-ドル高いなぁ」
「大丈夫だよ!はい、次誰が歌う?」
「あ、じゃあわたしが歌うね」
わたしが入れたのはえーちゃんが歌った曲と同じアイドルの曲。えーちゃんほど上手くはないけど、自分の中では結構自信のある曲だ。
実際、みんながタンバリンなんかで一緒に盛り上げてくれたこともあり、それなりに場は温まった。
それからはみんなで順番に歌った。横山君は歌ってくれなかったが。
結局四時間ぐらいカラオケで歌っていて、店を出ると曇り空の隙間から真っ赤な夕焼けが顔を覗かせていた。
わたしが歌ったのは、最初のアイドルの曲以外にも、有名で誰でも知っているような曲だけ。
だって知らない曲を入れて場が凍るなんてことはあってはいけないから。
歌っていない時の雑談でも、ボロを出さないようにしないと。
当たり障りのない会話を心掛けて。
えーちゃんに鈴村君に横山君。
三人とも今日初めて会ったばかりだけど、良い人そうだし仲良くしたい。
そのために考えて行動しないと。
思うがままに動いたら、きっとわたしから離れて行ってしまう。
そんな失敗だけは、もう二度としたくないから。