初恋 無茶な変化
―――あれはまさしく一目惚れだった。
転校生としてやってきた彼女は、瞬く間に学校中で話題になった。
百人に聞けば百人が美人だと答えるような整った顔立ち、腰のあたりまでまっすぐに伸びた黒髪。それらとは対照的に、多くの男性が庇護欲を掻き立てられるだろう小柄な体型。
おまけに親は世界長者番付に載るような資産家だ、なんて噂も出てきて転校してきて一週間もしないうちに校内で彼女のことを知らない人は居なくなった。
そんな彼女だから、告白をする人は数知れず。しかし残念なことに、告白した人の数だけの玉砕した人がいた。
どれだけイケメンでも、どれだけスポーツが上手くても、どれだけ勉強ができても、彼女のお眼鏡には適わないらしい。
幸運にも、俺は隣の席だったから毎日話しかけた。
「――さんは、何か委員会入るの?」
委員会なんて入るつもりなかったけど、彼女が入るといったから同じ委員会に入った。
「――さん、吹奏楽部とか興味ない?」
少しでも接点を増やしたかったから、部活の勧誘もした。
俺は彼女に好かれたくて、自分自身を作り変えた。
元々暗い性格ではなかったけど、明るいほうが一緒にいて楽しいかと思って、それまで以上に明るく振る舞った。
運動なんかしない細身の体型だったから、少しでも男らしくなりたくて、毎日筋トレを始めた。
彼女は勉強ができたから、追いつきたくて毎日勉強した。
「――君は、眼鏡よりコンタクトのほうが似合いそうだね」
彼女に言われたから、親に頼んでコンタクトレンズを買ってもらった。
「――、お前最近別人みたいだよな」
毎日無理して頑張ったこともあって、友達にそんなことを言われる位には自分を変えることができた。
その甲斐あってか一、二か月経ったころには、
「二人って、付き合ってるの?」
なんて質問を、知らない人からされることも珍しくなかった。
ここまでは俺の予定通りだった。
俺はイケメンじゃないし、運動もできないし、勉強だって人並程度だ。
そんな俺でも、ちょっと無理をすれば別人のようになれるし、時間をかければ学校中の憧れである彼女と仲良くなることだってできる。
この調子なら、彼女と付き合ってハッピーエンドになることだって可能だと思っていた。
実際、その見立てが大きく外れていたわけではない。
たった一つだけ、知らないことがあっただけ。
人の心があんなにも脆いもので、ある日突然壊れてしまうものだってことを。