ファンタジー系VRMMOを始めたんだが、俺のパーティーに忍者しかいない件について
子供の頃から忍者が好きだった。漫画や小説で出会った、色々な忍者に胸をときめかせた。少年漫画のヒーローみたいな忍者も嫌いじゃあないが、どちらかというと、情報収集を行う諜報員としての姿に惹かれた。そんな俺だからゲームでキャラを選べる時も必ず忍者を選んだ。
正直、「忍者」という言葉が一人歩きして、到底こいつは忍者ではないだろうというキャラもいたけれど、細かいことは気にせず楽しんだ。
話題となったVRMMOゲーム「ミスティックブレイド」も、初めは特に何も思わずプレイをしていた。職業があるゲームではなかったが、商売をしても戦闘をしても農業をしても構わない、自由度の高さが売りというこのゲームは、剣と魔法の世界でありながら、スキルの多彩さとスキル構成の自由度から評価が高く、同じ「戦士タイプ」のスキル構成でも侍、剣士、騎士、重騎士、竜騎士、聖騎士など自分だけの特徴を出せるのが魅力だった。
ネットを探せば見本となるいくつかのタイプの構成は載っていたが、組み合わせ次第では、占い師から狂戦士、トランプで戦うイロモノキャラなんかもつくれることから、酔狂なオリジナルキャラや、どこかでみたあのキャラの再現なども楽しみの一つとされていた。
通常のゲームにある職業•忍者を不満に思っていた俺は、ここぞとばかりに忍者キャラのビルドに勤しんだ。戦闘力はほぼ度外視で、隠遁・隠密行動・話術系のスキルにスキルポイントを注ぎ込む。プレイヤーネームは「カイシュウ」。ソロプレイだったので、特に誰に誇ることもなく、自己満足でこれぞ忍者!っと喜んで、数少ない潜入・隠密系イベントをこなしていた。
似た様な楽しみ方をしている人はいないではなかったが、やはりパーティーを組んでモンスター討伐というプレイの方が主流で、一部のマニアの楽しみといった状態だった。
しかし、戦闘なしで、潜入して情報の奪取や盗みのイベントいうのは数が少なかったが、難度はそこそこ高く、俺は段々とこのプレイにハマっていった。
そんな中、運営よりクエストとして、冒険者ギルドのあるバルトマリス王国より敵国・アルゼニア帝国に攫われたお姫様を救い出す救出クエストが出された。
お姫様の囚われた城は守護モンスターが固く、最精鋭のパーティーが連合してあたっても倒せなかったこと、パーティーメンバーのレベルが現在の上限の60だったことから、必要なスキルが解放されていないか、なんらかの条件をクリアしなければ、今の時点では攻略不可能なイベントのと思われていた。
しかし、俺をはじめとする隠密系育成を行なっているプレイヤーは、実は抜け道があるのではないかと思って試行錯誤していた。単純に接近すると城の見張りに見つかるため「隠密」「気配遮断」を使う。
城に近づく事はできた。しかし、「飛行魔法」や、「壁歩き」、鉤縄などで城壁に触れると見張りに見つかり死亡する。「変装」「透明化」「動物化」でチャレンジするプレイヤーも居たがいずれも城壁の見張りには見破られた。
情報交換をした結果、ほとんどの隠密系スキルが城壁の見張りには通じないことがわかった。かといって戦闘になると守護モンスターが呼び出されるため、見張りの暗殺も厳しい。地中移動系スキルの持ち主が坑道で攻略しようとしたが、城壁に相当するラインを超えた時点でモンスターが動き出すという事だった。
正門が開くのは週に一回の補給隊が到着する時のみ、戦闘も、夜間の侵入も難しいなら、ここに鍵があるのではないかと踏んで隠密系プレイヤーがスキルを片っ端から試したが、どうやっても城には入れなかった。
補給部隊の休憩時に「気配遮断」で近づき、荷物の中に潜り込めば正門まで辿り着けるという情報が出回った時は盛り上がったが、入城前の門番のチェックで必ず見つかってしまう。
正門に到着して、荷物のチェックまで微妙に間があるので、このタイミングで何かをする必要があるのではないかと前述の「変装」「透明化」「動物化」や「壁抜け」「遁甲」などを使用したが、スキルを使用した時点で門番に見破られるのだった。総当たりでスキルを使用した結果、あらかたのプレイヤーがやはりスキル解放待ちだと踏んで諦めたが、俺は意地で攻略を続けていた。ダメ元で話術を使ったりもしてみたが、話しかけた時点でアウトだった。まあ、それはそうか。
大半のプレイヤーが諦めた中、俺は半分諦めながらも、レベル上げをして日課となった潜入にトライしていた。もう考えられることは大体やり尽くしたのでヤケクソ気味に潜入に向かう。いつもは攻城戦が始まるタイミングは避けるのだが、気にせず荷物に潜り込む。攻城戦が始まった場合、荷物に隠密していても戦闘状態の見張りが察知して失敗するのがパターンだったのだが、この日は違った。門番のチェックが入る数秒前のタイミングで、攻城戦が始まった。すると門番がチェックをせずに護衛モンスターの方に動く。初めてのパターンだった。気配遮断で後ろについて行き、モンスターに指示を出している間に門番の影に遁甲する。成功‼︎ 思わず身を乗り出す。
門番はスキル耐性が高く、今まではどんなスキルも見破られて終わりだったのだ。
これはいけるかもしれない。
そのまま、遁甲したまま門番のチェックをやり過ごすと、荷物の搬入で開門した。おお! 潜入できる!
推測だが、気配遮断と隠密で補給隊の荷物に潜り込む→門番のチェックの直前に攻城戦を仕掛ける→門番の気がそれた間に隠密系スキルで門番自身に隠れる→潜入成功というフラグだったのだろう。わかるかこんなもん! 奇跡のタイミングで潜入できたが、これ、個人だとクリア無理じゃないか……。
気を取り直して城内を探索する。幸い城内の敵は看破系スキルは持っていないようなので、見張りの影から姿を表し、「気配遮断」「透明化」「壁面移動」を駆使して城内を探索する。大体囚われの姫といえば最上階か地下室だろうとふんでいたら予想通り姫は地下室に閉じ込められていた。「解錠」で部屋に侵入し、喋らない様にゼスチャーすると足枷と手錠の鎖を外す。
声をひそめて話しかける。
「私はカイシュウ、バルトマリスの冒険者ギルドの依頼で助けに来ました」
目を瞬かせ、同じように声をひそめて答える姫。
「ありがとうございます。トリエラと申します。私、助かるのですか?」
姫さんは勿論AIのNPCだが、どうやらわがままお姫様や戦闘可能キャラではなく、所謂普通のお姫様キャラのようだ。クエスト難度が上がらないのはありがたいが、完全戦闘力のないNPCをつれて脱出ということになる。特にアイテムの授与などもない。好感度が下がらないように適当に相手をしつつ情報を収集する。見張りはおらず、朝夕に食事の差し入れ以外は外部との接触はなし。本人は戦闘系スキルも武器もなしだ。潜入と違って逃げる時は追いかけられても構わない。潜入時と同じで戦闘の混乱時に逃げるのがベストだろう。
食事の時間の合間に外の様子を伺い、戦闘が始まったのをきっかけに牢に戻る。「変装」で敵兵に扮し、「幻術」で白いドレスのトリエラを同じ格好に偽装。二人で屋上に向かった
侵入時に「看破」してきた見張りが心配だったが、外からの侵入でなければ反応しないようだった。戦闘を行なっているのと反対側、人の少ない城壁まで移動すると、姫を背負ってベルトで固定し、縄梯子を使って城から降りる。体力にステータスを割り振ってないのでかなりきつい。
半分ほど降りたところで城壁に見張りが集まってきた。まずい! 剣を振り上げるのが見える。縄梯子を切られる寸前、「空中歩法」のスキルに切り替えて、城壁を蹴って飛ぶ。あばよーっ! とっつぁ〜ん! とばかりに空中をヨタヨタと泳ぎながら出来るだけ城壁から離れる。「空中歩法」は便利だが移動は速くない。城壁から矢が飛んでくる。間に合うか⁉︎ 着地! 同時に範囲指定の「気配遮断」と「掘削」で地中に隠れる。これぞ! 土遁の術!
ふー、助かった。
しばらく掘削で塹壕を掘りながら移動し、城から離れたところで地上に戻って街まで帰る。ファンファーレが鳴り、視界のウィンドウにメッセージがでる。
クエスト達成だ!
街に帰ると国王陛下から迎えがやってきていた。姫を騎士団に預け、国王陛下との謁見をしてクエスト達成の褒賞をいただく。ミッション達成系の経験値とスキルポイントと金貨。それも初クエストクリアのボーナス付き。スキルツリーが一つ埋められるくらいのポイントだ。称号として「潜入者」、これは隠密系スキルの効果•成功率25%アップだそうな。おおっ! 嬉しい。
そして、新たなクエストが発注された。
思わぬ長丁場になったので、一旦ログアウトして休憩をとる。祝杯をあげながら端末をチェックすると、もうクリア者が出たこと、ソロプレイの隠密系プレイヤーであることなどが噂話として流れていた。掲示板を覗く。
【ミスブレ】ミスティックブレイドpart463
596.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:14
姫救出クエストクリアでたってマジ?
606.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:25
あれ、今のレベルとスキルでクリアできるのか……
608.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:26
チートだろ
612.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:28
ちょうど街で騎士団が迎えに来るのみた
615.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:29
トリエラたんはあはあ
616.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:29
調教済みやぞ
618それも冒険者だ202X/04/13 00:04:30
スライム攻めされる姫様
623.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:31
ソロでクリアってどんだけ廃人なんだよ!
630.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:35
隠密系は戦ってる訳じゃないからなあ。多分隠密スキル全振りとかでしょ
632.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:36
レベル上げがあるんだから戦闘スキル0ってことはないはず
635.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:40
潜入系丸振りはぼちぼち見るよ。怪盗プレイしてる奴とかいる。緑のジャケットに黄色ネクタイつけてた
638.それも冒険者だ202X/04/13 00:04:43
白いシルクハットとタキシードもう何人見たことかwww
642それも冒険者だ202X/04/13 00:04:43
クリア詳細報告マダー?
おお、流石に話題になってるな。晩酌しながら覗いていく。攻略内容はともかく報酬は晒してもいいな。隠密系のスレに上げるかな。あー、でも次のクエストの仲間募らないといけないんだよな。動画で募集してみるか?でも変なやつ来ても困るしなあ。んー、どうしよ……。
クエストクリアの高揚感もあって酒をグビグビ飲みながらそんな事を考えていたら深夜のテンションで動画をアップしてそのまま寝てしまった。
目が醒めたら昼過ぎだった。ちょっと浮かれて飲みすぎたようだ。仕事が休みでよかった……。そうそう、昨日は行き詰まってた姫救出クエストをクリアしたんだよな。改めて達成感を噛み締める。なんにしろ一番抜けは嬉しい。クリア方法があるとわかれば諦めかけてた隠密系プレイヤーも攻略に動き出すだろう。
どうなってるかな? 端末で調べようと目を落とすと、ものすごい数のコメントとDMがきていた。
あーっ!そうだ。酔っ払った勢いで攻略時のスキル構成、レベル、報酬について話す動画上げたんだった。
確か王様の話だと今後、収集系プレイヤーや職人系、隠密系プレイヤーなどを重視するよって雰囲気だって話をするのと、受注クエストのメンバー募集をしようと思ったのだが、記憶が朧げだ。なんか、酔っ払って演説をした様な記憶は残っている。マジか。
嫌な予感がしながら動画を再生する。
「私は忍者! 初めての隠密系クエスト達成者!
忍者の中の忍者! カイシュウ!
諸君、忍者は好きか!」
──プツッ
なんだ、このテンションは……。
思わずスイッチを切ってしまった。ええー、俺こんなテンションだったの……。聴きたくないが、続きを聞かなければ始まらない。意を決して再生ボタンを押す。
「諸君私は忍者が好きだ。
忍びが好きだ。
くのいちが好きだ。
忍術が好きだ。
分身の術が好きだ
微塵隠れが好きだ。
変わり身が好きだ。
空蝉が好きだ。
火遁の術が好きだ
水遁の術が好きだ。
土遁の術が好きだ。
蝦蟇の術が好きだ。
手裏剣が好きだ。
十字手裏剣が好きだ。
棒手裏剣が好きだ。
クナイが好きだ。
撒菱が好きだ。
鉤縄が好きだ。
鎖鎌が好きだ。
忍者刀が好きだ。
手甲鉤が好きだ。
水蜘蛛が好きだ
街道で 森林で
河原で 川の中で
草原で 街中で
城中で 堀の中で
屋根裏で 屋根の上で
戦場で 陣中で
この地上のありとあらゆる場所で行われる
忍者と忍術合戦が大好きだ
静かに町人や百姓に扮して情報収集をするのが好きだ。
忍び装束で闇に紛れて潜入するのが好きだ。
見張りの目を掻い潜り、城中に潜入して標的を屋根裏から除くのなど心が躍る
忍び同士の戦いが好きだ。
森の中、枝から枝に移りながら背後を取る戦いが好きだ。
手裏剣を命中させれば動物が変わり身となっているのも好きだ。
追い詰められた閉所で小麦粉を使って粉塵爆発を行う時など胸ががすくような気持ちだ
変態忍術も好きだ。
不死身だったり、火を自由に扱ったり、虫を使ったり、糸や影を使ったり、木の葉を操ったり、理屈が何もないところから繰り出される魅惑の忍術には感動すら覚える。
全裸で防御力があがる忍者も、チャクラを練る忍者も、どう考えても忍んでいないド派手な忍者も、経験値泥棒な忍者も好きだ
木刀で殺し合う忍者も、爆発四散する忍者も、忍び装束からおっぱいがこぼれ落ちそうなくのいちも最高だ……」
頭を抱えて動画を停止する。俺ただの忍者フェチじゃねーか! これ何人見たんだろう。おそるおそる再生数を確認する。
一晩で再生数五万回⁉︎ 嘘だろ⁉︎
『悲報 ミスブレの忍者演説をしてしまう』『初クリア詳細聞こうとしたら忍者のプレゼンが始まったでござる』などまとめに複数リンクが貼られている。気がつけば、「ミスブレ」のニンジャマスターとして有名人になっていた。深夜のテンション、気をつけような……。
DMも山程来ていた。ほとんどは勧誘とフレ申請だったが、数人、本当に忍者が好きで忍者ロールをしているプレイヤーが、動画を見て仲間になりたいと応募してきていた。あの動画見て応募してくるって正気か⁉︎ いや、一応「次のクエストは複数でないと受けられない帝国潜入クエストなので、戦闘食も必要でござる。しかし、私は忍者以外の仲間はいらないので戦える忍者募集! 忍者ならなんでもいいでござる!」とか言ってたわ。そらコアな忍者好きしか来ないはずだ。
正気は疑われるが、こちらから言い出した以上、無視するわけにもいかない。既存のクランに入りたくないのは本当だし、イベントを進めるためにはパーティーが必須だ。そうは言っても忍者だけではクリアできない気もするが、会ってみるだけ会ってみよう。
レベルをそこそこ上げていて、文面があからさまにおかしくない数人に、その日の夜に街の近くの遺跡での待ち合わせを打診すると、ほとんどがソロだったらしくすぐに集まれることになった。
おっかなびっくり、待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所に5人が集合していた。
「オー! アナタが噂のニンジャマスターですか? 初クリアおめでとうゴザイマス。あえてうれしいデス」
礼儀正しい大柄なリザードマンが両手を振りながら近づいてくる。
こいつも忍者?訝しんでいると、後ろに立っていた面々も近づいてきた。
忍者らしい黒装束の男、青い忍者装束に鉢金をつけた男、長髪に仮面と和服の男、赤黒い忍者装束に麺頬に文字を書いている男。まあ、リザードマンよりはそれらしい格好だ。
全員が手が届く距離まで集まった。
「私はヒエロニモス。皆貴方に会えるの楽シミに、してマシた」
リザードマンが改めて挨拶をする。どうも喋り方からして日本人じゃないっぽい。
並び順に挨拶が続く。
「俺は、才蔵。あんたの演説よかったぜ! そうそう粉塵爆発は男のロマンだよなあ」
「拙者、貴君の演説に感銘受け申した。是非忍者だけでパーティーを組んでみたいでござる」
「忍者として心底リスペクト。いざ共に戦わん」
「ドーモ はじめまして、カイシュウ=サン」
うん、たしかに、自由度の高いミスブレで忍者プレイをしているというプレイヤーをメインに声をかけた。ある程度DMで熱意もっていることも確認した。うん。濃いなあ。
話してみると悪い奴らではないし、話も通じる。というか、木の葉隠れを使いたいがステージ的に向いているところがほとんどないとか、瞳術スキルがないのが残念とか、分身は幻術で再現できるが影分身は無理とか、召喚獣のデザインができるなら召喚士になって尾のいっぱいついたやつ召喚しただので盛り上がった。
攻略について根掘り葉掘り聞いてくるやつもいないし、忍者談義ができて楽しかった。どちらかというと隠密系よりは戦闘よりのスキル構成にしているメンバーが多く、パーティーメンバーとしても噛み合いそうだ。
という事、6人で臨時パーティーを組み、戦闘に出かける。実際戦ってるのをみてみないとな! 忍者バトル。みてえ!
ちなみに俺自身は最低限のバトル経験値のために、急所に決まれば即死またはダメージ10倍の「暗殺」をとっている以外は戦闘スキルはないに等しい。急所があって、戦闘力は高いがHPは低い相手に隠密からの急所攻撃というのが俺のスタンスだ。「暗殺」が通らない相手はそもそも戦わない。
戦闘エリアに移動する。
ホボゴブリンとオークにハイオーク。腕試しには丁度いい。
「私はヒエロニモス。平和を守る正義の戦士ダ!」
まずリザードマンが鎖鎌を振り回しながら突っ込んだ。ヒエロニモスは「近接戦闘」「身体強化」「鎖鎌」「徒手格闘技」「タフネス」「ガード」あたりを取得したバリバリの前衛だ。「鎖鎌」だけは浮いているが、変わった武器に憧れていたそうだ。目だけを出した黒い鉢巻を巻いてホボゴブリンの首を薙ぎながら、アクロバットに蹴りを放つ。
なんでリザードマンかというと亀人間という種族がなかったからだそうだ。まあ、無いわな。代わりに防具の一つである「亀の甲羅」シリーズを探しているらしい。でもあれ、7つの球を集めるシリーズのファンに大人気だからな。なかなか入手困難なのだ。
次に、才蔵がヒエロニモスの相手に来た増援に向かうと大爆発をおこした。才蔵は「剣術」「隠密」「跳躍」「立体移動」「空中姿勢制御」「火魔法」「調合」という割とスタンダードな忍者タイプ。隠密で接近して近接戦闘で戦い、範囲攻撃として火魔法を使う。微塵隠れをしたかったそうだが、粉塵爆発はミスブレでは再現されないらしい。火魔法に火薬を併用すると爆発は大きくなるのでそれを攻撃として使っているそうだ。
残ったハイオークに向かい青い忍び装束の忍者が蹴りを放つ。こいつはザ•シノビ。スキル構成が「近接戦闘」「徒手格闘」「身体強化」「空間魔法」「魔力操作」「火魔法」という格闘する魔法使いという異色のスキル構成、特に空間魔法のスキルを鍛えている。蹴りを受けて体勢を崩したハイオークを両手で逆さに持ち上げて頭から落とす。ブレーンバスターだ。さらに追撃の火魔法を放つ。
「喰らえ! 焦熱地獄!」
まともに食らったハイオークが、無茶苦茶に暴れながらシノビに迫る。斧を振り上げた瞬間シノビはしゃがみ込んで魔法を発動した。シノビとハイオークの位置が入れ替わる。空間魔法での座標交換だ。ダメージを与えられるわけでないので不人気な空間魔法だが、こういう面白忍術としては優秀だ。ザ•シノビはこれがやりたくて空間魔法をもっとも鍛えたらしい。そのまま体勢を交換してしゃがみ込んだハイオークに手刀を打ち込む。ちなみに、空間魔法の移動先座標を水中に砂漠に設定する事で、一部分だけマップを交換することもできるそうだ。転所自在って訳だ。火山の火口と位置交換できるかと聞いたら、火口自体が侵入禁止エリアなので不可能らしい。残念。
地面に転がってうめいているハイオークを、何かが寸断する。輪切りとなって絶命するハイオーク。
「終焉よ。死滅った。」
ロン毛に仮面の優男、左羅は「操糸術」「氷魔法」「精密操作」「治癒魔法」「探知」「魔力操作」というスキル構成のこのメンバー唯一のヒーラーだ。まあしかし、「鎖鎌」といい「操糸術」といいマイナー武器の取得者が多いところがマニアである。
最後に残った雑魚を赤黒い忍者装束に麺頬の男、クニキダが「イヤーッ!!!」と叫び声をあげながら、手裏剣でトドメを刺す。「投擲」「近接戦闘」「空手」「身体強化」「瞬動」「見切り」「回避」の中距離回避型のスキル構成だ。
こうしてみると、バリバリ前衛のヒエロニモスと高起動タイプの才蔵、中距離魔法型のザ•シノビ、クニキダ、ヒーラーの左羅、撹乱と情報収集の俺でいいパーティーになるかもしれない。まあ、前衛なのにヒエロニモスは中距離武器の鎖鎌だし、中距離魔法のザ•シノビは実際は近接魔法格闘という意味のわからなさではあるが。流石にヒーラーは少ないし、一流どころと比べると戦闘能力のない俺を筆頭に非効率な部分はあるが、効率を求めるならみんなこんなスキル構成にはしていないだろう。
俺は決心して、受注した「アルゼニア帝国への潜入•拠点制圧クエスト」をこの忍者オンリーパーティーで受けないかと提案した。
ミスブレスレや、まとめサイトに、『悲報 ニンジャマスター忍者軍団を集めてしまう』だの『アイエエエ! なんで! くのいちがいない!』だの、【俺の知ってる】ミスティックブレイドpart 532【忍者と違う】だの、【この中に一人】忍者集団に入れちゃダメだろ【裏切り者がいる】だの、スレッドができるのは少し先の話だった。