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6話 家の事情

歩けるようになった


施設の赤ちゃんたちは生後一年半くらいで歩けるようになったからそのくらい経ったのだろう。ママの英才教育のおかげでもしかしたら私はもっと早く歩けるようになったのかもしれない。でも盲目聾者(こんな身体)だから正確な時間は分からない。と言うことで結局のこと、ママが天才だから私は歩けるようになったのだと結論に至ったのだ


(だって私のママは完璧なんだから!)


今日もママと一緒に歩く練習。自分で立ち上がってバランスをとりながらママの元へ行くのはやっぱり難しい。けどママの元まで辿り着くと頭を撫でてくれるのが気持ち良くて、安心できて、ハイハイの時と同じく全力で頑張れるのだ


今日もぎゅーっと抱きしめてくれるママが大好きで、いつものお花のいい香りが落ち着く


(ママ!大好きだよ!!)


歩けるようになってから体力が増えたのか、練習後も一日中起きれるようになった。そのせいなのか、最近は寝かせる訳でも一緒におんぶして行く訳でもなく、一人家で留守番をすることになった


ママが暫く何処か離れる、きっと強い香水の香りの場所に行ってるのだろう。今日も大人しく待ってたらママが帰って来た時、頭を撫でたり抱きしめてくれるから我慢できる。暫くの間は家でのお留守番で心寂しい所もあるけど、行動範囲が広がった今、ママが出掛ける時は家の中を探索して時間を潰す


右手は壁に付けて、何か障害物にぶつかって転ばない様に左手は前へ出す。そしてゆっくりと着実に前へ進む。壁に沿って歩くと家の構造がなんとなく分かる


私の住んでる家は小さな小屋だ。大きな部屋に小部屋が一つ。大きな部屋には暖炉やテーブル、それに私の歩く練習をするスペースもあって、一日の殆どをこの部屋で過ごす。小部屋には机みたいなものとベッドが置いてあり、きっとママがここで寝てるのだろう。外に出るともう一つ建物があって、何をしにママが毎日行ってるのかは分からないけどきっとお花の香りと関係があると推測してる


(あっ、ぴおちゃんが手を引っ張ってるからこの先は危ないってことだね)


ずっと側に居てくれる風とその他の塊

塊と言うのもアレだから流石に名前を付けようと思い、『ぴおちゃん』と名付けた


風の塊はぴおちゃん

冷たい塊はぴおちゃん

暖かい塊はぴおちゃん


全部ぴおちゃんなのだ


そのぴおちゃんズはママが居ない間に私の面倒を見てくれてるのか、危ない場所へ向かったら必ず私の腕に触れて違う方向へと引っ張って誘導する。熱い暖炉の先へ行こうとしたら風のぴおちゃんが私の顔を押してる感覚がして気付いたのが始まりだ


(よし、今日もぴおちゃんズに見守られながら家の探索を続けるぞ!)


昨日は壁際を沿ってずっと歩いたから今度は少しだけ中心部分を探索してみようと、大部屋の私が理解出来る限り一番奥へと行ってみる


そこには木箱が並んであり、全部蓋をしてあるので赤ん坊の私には開けられる程の力は無い。並んでる木箱を一つずつ触れていくと、一番端に大きな木箱が置いてあった。その木箱は他とは違い、シーツが掛けられてて、隣には藁の籠が置いてあった


(このシーツの肌触り、私のベッドのシーツだ)


私の寝る場所は一番端っこで他にも大きな木箱が手の届く限り積み重ねていた。これはベビーベッドじゃなくて大きな木箱だったんだ。そして私が寝てる木箱の周りには他の木箱も置いてあって、木箱の山...いや物置の一か所を使って私の寝床を作ったのかと考えられる


この大きな木箱(ベッド)に最初は重いシーツを被せてて、シーツ窒息事件以来は藁の籠を上に乗せてた。まるで他の木箱と混じるように...


(ママはもしかして... 私を隠してるの?でも一体何に...?)


ドアの方向から振動と風の揺らぎを感じた

ママはもう帰ってきたの?ドアの方向へ歩いて行くとお花の香りではなく、お酒の匂いが漂ってきた。お酒の匂いにテンポのない足踏みがどんどん強くなってお酒臭さが鼻にくる


(酒臭っ)


この人は絶対にママじゃない、だったら誰だ?初めてママ以外の人間に会ったと考え込むと急に頬から痛みが感じて、気付けば私は転んでた


(痛い...)


殴られたと理解が追いついた時には、お腹から頬と同じ、いや更に強い痛みが出た

蹴られたのだ


(痛い...うっ...)


蹴られた場所が悪かったのか今日食べた物を全部吐き出してしまった

今度は背中から同じ痛みが出た


(痛い...誰なの?何なの?ママ...ママはどこなの?)


そして髪が引っ張られる


痛くて、怖くて、あの前世の事件...いやもっと前、中学の頃...私に目を付けたカースト上位のクラスメイトに虐められてた時を思い出す。何度も殴られたり蹴られても誰も助けてくれなかった。先生も見て見ぬふりをされたあの日々...


(あの時みたいに誰も...助けてくれない...の?)


一瞬手から(エネルギー)が抜けると風のぴおちゃんが何処かへ行ったのを感じる。シーツ窒息事件以来の手から(エネルギー)が抜ける感覚、それで風のぴおちゃんが何処かへ行った...いや、ママを連れて来たのだ


今は他のぴおちゃんたちがいる...私は手から更に強く力を込めて、(エネルギー)が出たら冷たいぴおちゃんが手を触れて、髪から冷たい風が吹いていく


髪を引っ張られなくなったのはそのすぐ後の事だった


(何...?ぴおちゃんたちがやったの...?)


痛みが来なくなり、違う振動が強くなると安心する温もりとお花の良い香りが私を包み込む


(ママ...ママだ!)


今までに感じたことのないほどの荒い振動がママの身体から来る。何時まで続いてたのかは分からない。けど随分と時間が経った後にお酒臭い匂いが遠ざかっていく。また風の揺らぎを感じるとお酒臭さが完全に無くなり、ママからエネルギーを感じて身体の痛みが無くなっていった。ママの癒しの魔法だ


(ママ、助けてくれてありがとう...ママ?)


ママは震えてた。痛みが完全に無くなった時にママを精一杯抱きしめてた


ママも怖かったんだね、でも助けてくれてありがとうママ。ママが少しでも安心出来るために私も懸命にママを撫でて顔を触ると片方の頬が腫れてるのに気づいたら。留守番する前には晴れてなかったのに...


もしかしてあいつママも殴ったの?

あのお酒臭い人は一体誰なの?


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