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4話 よく分からない塊

幸せになる計画を立ててからどれくらい経ったのだろう、私は自力で座れるようになった。


施設にいた赤ちゃんたちは大体生後九ヶ月で座れてたからそれくらい経ったのだろう。常時バランス取るのは難しいが、体制が崩れそうになると必ず母親が側で支えてくれるお陰で転ぶ躊躇いが完全に無くなった結果、どんどん挑戦して一気に上達していけたのだ。それに練習すれば母親がもっと長く側にいてくれると思って疲れて眠くなっても踏ん張る事が出来た。やっぱり九ヶ月も経ったからか、赤ん坊の身体、ましてや盲目聾者(この身体)にも随分慣れたものだ


この身体は相変わらず目も見えないし耳も聞こえないけど犬並みの嗅覚で母親を特定出来るし、現在近くにいないのも分かる。同時におむつを変えてご飯を食べさせてくれる時は決まって暫く母親が離れる時間だ。ご飯を食べるとすぐに眠くなるからどれくらい離れてるのかまだ時間やタイミングは分からないけど必ず戻って来て、その後座る練習が始まるのだ


上達してもまだまだ身動きが取れないぴちぴちの赤ん坊だ。それでも座れるだけで新しい情報は手に入るのだ


起き上がれなかった時はいくら手を伸ばしても届かなかったベットの囲いも座れる今では指の先で頂点が届くようになったのだ。ずっと寝っ転がってただけで飽きたのも理由の内に入ると思う。やっと座れて手が届いたのだ、頂点に届いた時の達成感と誇らしさは計り知れない


(あれ?)


囲いを手でなぞってたらベッドの上にシーツが覆い被さってる事に気づいた。片端に少し隙間があり、空気がそこから行き来してるのも感じる。シーツも私のベッドに使ってるシーツより縫い目が太くてゴワゴワしていた。シーツより垢すりに向いているな...繊細な肌の赤ん坊には向いてない肌触りだ。うん


(でもなんで上に被さってるんだろう?)


明るいうちは寝やすい様に暗くさせるとか?盲目聾者の私には意味が無い事だけど。


(わぁっ!)


まだやっと座れた私には手を上げながら常時バランスを取るには難易度が高すぎたらしい。重力に従うがまま落ちて行くが、反射的にシーツを掴んでしまい、一緒に分厚くて重いシーツが顔の上に落ちてしまった


(お...重い...息が....)


顔全体に被さって、息が出来なくなって来た。ずっしりとしたこの重さ、赤ん坊の私には自力で外すことが出来ず詰んだと確信した


(早く誰かに知らせないと...)


聴こえないけど喉から精一杯力を入れた。でもシーツを通して出す声はちゃんと届くのだろうか。聞こえないから分からないし、懸命に踠くがシーツの位置は変わらず私の顔に被さったまま。それに叫んだのが良くなかったのか息が続かなかった


(苦しい...まさかこんなところで終わらないよね...?)


また、前世みたいに誰も助けが来なくて苦しんで終わるのだろうか。やっと母親の愛情を手に入れる事が出来たのに直ぐに離れてしまうのだろうか


お花の香りがしないから母親は近くには居ないし、さっきの叫び声も聞こえてなかった可能性だってある。ひたすらどうやって抜け出すか考えて手に力を入れると何かエネルギーが抜け出た感覚がした。その後、一瞬だけ違う暖かい風の塊が私の指先を触れてまた直ぐに離れた


ドタドタ振動が徐々に強くなって行くのを感じ、息ができる様になったのは直ぐ後のことだった


(た...助かった...)


身体が起き上がり同時にお花の香りがした

母親が来て助けてくれたんだ


赤ん坊は繊細だ。こんな些細なことで危うく二度目の人生も終わるところだったのを自覚すると恐怖が滲み出て涙が流れてきた。そしたらやっぱり母親が背中を摩って、あやしてくれた。母親の暖かさとお花の良い香りはいつも落ち着く。今回の振動はいつもと違うテンポだったから違う歌を歌ってるのかな?泣き止んで眠くなってきた頃もう一度ベッドに戻されて顔を優しく触れられる


(こんな私を助けてくれた)


この人のおかげで恐怖心が消えて嬉しさが込み上がる。この人がちゃんと私を助けてくれる。一緒に居てくれる。愛してくれる


もうこの人は母親じゃない

ママだ


温もりと丁度いい振動で眠気に負けそうになった時、一度手に触れた暖かい風の塊が今度は頬に感じ取れた。風が一ヶ所に固まるのもおかしな事だけどそれ以外の説明が思いつかない不思議な塊。唯一分かるのはその風の塊はママの温もりみたいに暖かくて落ち着くことだ


(だけどなんだろう...この塊?)


そのまま私はぐっすりと眠りに入った


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