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人間とは虚構を信じて生活する生き物だ。貨幣という虚構、階級という虚構、神という虚構。どれも現実に物体として存在するものではない。だが、それらの虚構の概念を共同の物語として信じることで人類は発展できたのだ。


例えば、人種や言語が違う見ず知らずの人でも信じる神が同じならば、同じ目的の大規模な活動を一緒に行える。

例えば、お金という指標があることによって物々交換から遥かに進化したレベルでの取引を行ったり、財の貯蓄が可能になったりする。


だから異邦人である僕がこの世界で高い地位を得て快適な生活をするためには、まず人々がどんな「虚構」を信じていて、そこにどの程度の穴が必要があるか把握する必要がある。


僕は元の世界では米国の大学でダブルメジャー(二重専攻)で法律と金融を専門的に学んでいた。(もちろん、法や経済の欠陥に付け入って儲けるためなんて人には絶対に言えないけど。)

でも、そんな個人的な研究も途中で終わってしまうのは残念だ。この世界で活用できることが有ればいいんだが...


そんなことを考えているうちに村の方角から豪華な馬車が出てくるのが見えた。これはチャンスだ。道に倒れて発見してもらおう。

地面に女神神殿と同じ紋章を描き、その中央で寝そべっていると、一日中歩いた疲れも湧いてきて、意識が遠のいた。



目を覚ますと、木と香水の匂い。そして柔らかいベッドの感触。

綺麗な栗色の髪の女の子が僕を覗き込んでいる。


「どこだ、ここは…」


ベタなセリフだな、自分でも嫌になっちゃうよ。でもそれ以外言いようがないだろ?この場合は。


「お目覚めになりましたか?お体のほうは大丈夫ですか?」


これまたベタなセリフ。でも彼女もそれ以外言いようがないんだろう、きっと。僕は彼女を知らないし、彼女も僕を知らない。


「ううっ…」


「ここは何処ですか?実は記憶が少々曖昧になっていて...」


「あなたは村はずれの遺跡で倒れていました。それを発見した領民がこの屋敷へ連れてきてくれたのですよ。私はブランヴィリエ家の末女、カトリーヌと申します。」


ふんわりとした髪によく合った清楚なドレスを着ている。目は薄い青で素朴さの中に高貴さを秘めた容貌だ。歳は16〜17歳ぐらいだろうか?しかし幼さに似合わず豊満な胸をしている。


「カトリーヌ、貴女のような女性がなぜ行き倒れの私の面倒を見てくださるのですか?」


「変わった服をお召しになられていますが、なにやら高貴なお方とお見受けしたので...僭越ながら、私がお世話をさせて頂いております。」


見栄のために高い金払ったディオールオムのセットアップが初めて役に立ったかもしれない。ブランド品はそのブランド故に価値を持つものだけど、流石に服自体の質の良さは違う世界の人間にも伝わるようだ。


僕の存在の異質さはこの世界で成り上がるチャンスかもしれない。幸い、先程の盗賊からこの地域の女神信仰について話を聞いていたところだ。


「僕は...女神によってこの地に遣わされました。あなたたちに正しき知恵を授けよと。」


もちろんデマカセだ。女神なんて知るか。

だが、カルト的手法は現代でさえ有効だ。


「願わくばこの村で生活させていただけませんでしょうか?」


「構いませんわ、むしろ私たちこそあなたさまのような方を助けることができて光栄でございます。あ、お名前を伺っても構いませんか?」


「僕ですか?僕の名前はツァラト・ムハンシャ・カイエスです。」



そして、僕の聖人としての奇妙な生活が始まった。

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