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まずは僕の話をしよう。
僕はサイコパスだ。勘違いしないで欲しいが、サイコパスといってもアニメとか映画に出てくる無差別殺人をするような変態じゃない。ジェ○ソンみたいな化け物じゃないし、吉良○影みたいに殺人が趣味でもない。単に自分の利益以外に極度に興味が薄い、普通の人間だ。
いや、訂正しよう。僕は君よりもちょっとだけズル賢い。あと顔もいい。
共感性の薄さってのは社会で有利になることを知ってる人は多いんじゃないかな。英雄や成功者ってのは大抵そんな特性を備えているし、サイコパスだけどバカな奴は普通に犯罪がバレて普通に捕まるか、社会に馴染めずに惨めな人生を送る。
要はバランスなんだ。
僕はそんな自分の特性を早いうちに理解できたから、常人が選ばないリスクに満ちた手段を敢えて選択できるし、先天的な「利己マキャヴェリズム」と後天的的に学んだ「模倣による共感能力」を使い分けて社会的成功への道を歩みながら楽しい暮らしをしていたんだ。
僕の人生は華々しいものになるはずだった。
そう、昨日までは。
目を覚ますと、乾いた土と草木の匂い。そして硬い石の感触。
僕は地面に寝ているのか…?
鈍い頭痛。そして節々の痛み。確か僕はライバル会社のCEOと会って(言い忘れていたが、僕は学生起業家だ)、それから……それ以降の記憶を辿れない。とりあえずは現状を把握しよう。
汚い身なりの男二人が僕を覗き込んでいる。
「コイツ、生きてんのか...?変な格好だが持ち物は高く売れそうだ。」
「あぁ、さっさとコイツの身ぐるみを剥いで逃げようぜ。」
剥がれてたまるか。こいつらは盗賊のようだが、時代錯誤的な「いかにも盗賊らしい」格好をしている。
唯一分かることは僕はかなりのピンチってことだ。
僕は倒れたまま両手でゆっくりと砂を握り、そして素早く飛び上がって男たちの両目に砂をぶつけた。
「うわっ何をしやがるっ!」
そのまま喉を殴り、腰のナイフを抜き取って盗賊の腹に刺し、そして刃を捻って内臓を破壊する。
一人撃破だ。
相棒を失った盗賊の片割れは何が起こったのか理解できず呆然としている。だが容赦はしない。
殴り倒して手足をもう一人の服で縛り、顔に刃を突きつける。
「うあああああ!痛い痛い痛い痛い!!!」
「もし良かったら質問に答えてくれないかな?あくまで任意だけど。」
「話す話す話す!!そのナイフをどけてくれ!!」
「良かった。じゃあ聞くけど、ここは何処で、今の時代はいつなんだい?」
「ここはジルド王国のブランヴィリエ村の外れの女神遺跡だ!時代ってのはよくわかんねぇけど、もうすぐ収穫の季節だ!」
ヨーロッパのような語感の地名を盗賊は述べた。
この男たちの装いに現代らしい雰囲気はない。
その後僕はいくつかの質問を重ね、この世界の地理や制度についての知識を少し把握した。
どうやら僕の世界の歴史における中世暗黒時代レベルの文明度だろうか。
しかしそれは僕の知っている歴史的事実としての「中世ヨーロッパ」とは違う。
非現実的だが、僕は違う世界へと転移したのだ。
「いろいろ答えてくれてありがとう。とりあえず当面の目標はできた」
「か、解放してくれるのか?」
「申し訳ないけど...それは出来ないな。君のせいで他国の密使にでも間違えられたら困るじゃないか。」
なにか言いかける哀れな男を黙らせた後、二人の死体から少ない食料と使えそうな道具を奪った。
彼らは貧困に苦しんでいるようだ。ロクな食べ物もない。
でもそんなことは僕には関係ない。とりあえず腹ごしらえをしよう。
盗賊の死体から丁寧に血を抜き、肉を削いで、衛生的な面に気をつけるため強火でよく焼いて口に入れる。
マズい。
肉は固くパサついていて臭みも強く、正直言ってひどい味だ。せめて胡椒でも欲しいけど、きっとこの文明レベルじゃ香辛料なんて貴金属並の価値だろうな。でも、生き残るためなら贅沢は言えない。
そんなことを考えているうちに腹は膨れて、仮眠を取ると体力も回復してきた。
人を食べるなんて悪趣味だけど、他の動物を狩るのは難しいし、このまま何も食えずに飢えるよりマシだ。戦争で食人行為があったなんて聞いたことはあるけど、まさか自分が体験することになるとは思わなかった。ハ○ニバルレ○ター博士のような優雅なカニバルディナーとは程遠いな。
夜も明け、太陽が登ってきた。死体は野生の獣に喰われたように偽装し、近くの清流で体の汚れを落として支度は完了だ。
元の世界でやり残した事は沢山あるけど、後悔なんてするヒマがあったら今はこの状況を楽しもうじゃないか。
さぁブランヴィリエ村へと出発だ!