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異文化交流

==========<ももちゃん視点>===========

 4人が漁村にたどり着くと、大勢いる村民の中から年配の男性が2歩前に出てきた。

 この村の代表か年長者ということで4人に対応すべく、前に出てきたのだろう。


 4人の方もみぃ君がみんなの一歩前に出て、少し笑顔を浮かべ、物々交換の為に持ってきた物を村民に見える様に差し出した。穏やかそうな顔つきのみぃ君が笑顔を浮かべているのだ、うさん臭さは多少軽減されていると思う。いや、思いたい。

 持ってきた動物は中型なので結構な大きさで、みぃ君、ごんさんと私で1匹づつ抱え、フルーツはめりるどんが抱えていた。


「△◇&●%1--!×♪」

 老人が何かを言ったが、やはりここは地球ではないのだろう。誰も聞いたことのない言語だった。


 意思疎通ができないと見ると、地球では通訳でもあるももちゃんが、自分の抱えていた動物をごんさんに渡し、落ちていた小枝を拾い、地面に持参した3匹の動物とフルーツの絵を描き、少し離れた所にナイフと鍋の絵を描いた。

 何を隠そう、私の子供の頃の趣味は漫画を読んだり描いたりで、部活は美術部だったのだよ。おほほほ。

 そして右手の親指と人差し指を広げ、くるくるっとなるように繰り返し捻りながら「交換。交換」と日本語で同じ言葉を繰り返した。

 そして、念のため英語とスペイン語でも繰り返した。


「ニャック?ニャック?」と老人が言う。

 彼らが私の拙い絵とジェスチャーを正確に理解したのなら、彼らの言葉で「交換」と言ってる可能性が高い。

 

 うなずくジェスチャーをしながらにっこり笑って「ニャック」と彼らの言葉を繰り返えしてみる。


 老人は物々交換より4人がどこから来たのかの方が気になるらしく、何かを言いながらあっちこっちを指差す。


 通訳をしていた時、話者が必ずしも理路整然と話す人ばかりでないこと、自分の言いたい事を上手に表現できる人ばかりではないことを経験で知っているので、きちんと話す事ができない人の問いかけを理解する為には、何故その様な問いかけをしているのかを察する必要がある事を身をもって学んでいたので凡そ言いたい事の見当はついた気がする。

「〇〇さんは、××とおっしゃっておられますが、これは実際には日本とメキシコの法律が違うので、その違いについて確認されたくてこの様な質問になった様に思われます。私の理解で合っているかどうか、先に先方に確認してもいいですか?」と訳とも言えない感じで訳すことも経験している。

 ちなみにこういう通訳の仕方は同時通訳の時はできないが、逐次では時々なら使えるし、お客様もそういう言葉だけでなく習慣の違いからくる齟齬に気を配ってもらったと喜んでもらえる事も多い。


 本来、通訳は言われたことだけを言われた単語を使って言われた様に訳せと言われるが、政治関係や裁判でない限り、例えば商談とか工場見学、研修での通訳では、話者の意図も付け加えて訳す方が、理解が早いことがある。

 まぁ、『使われた単語を使って~』の部分は日本で通訳をする場合はという注釈が付くのだが・・・。スペインや中南米の国々で通訳する場合、ネイティブスピーカーが聞いてすんなり理解できるスマートな通訳が望まれるので、必ずしも話者が使った単語を使って訳す必要はないのだ。


 まぁ、日本と諸外国での通訳法の違いは別としても、実際、言葉通りに訳さない方がスマートな訳になる事があるのは事実だ。

 例えば、日本にいる日系人の通訳をする時、かなりの数の人が小学校しか出てない、或いは小学校さえ卒業していない人がおり、尋ねたいことはあるのに、どうやって尋ねたらいいのか分からず、遠まわしな言い方で本当に聞きたいことがボヤケた形で質問してくることも多かった。


 そんな場合、話者が言った通りに訳すと意味不明な文章になり、話者の表現力より通訳の技量の方が疑われる可能性が高くなる。実際は、話者のインテリジェンスの問題であるにもかかわらずだ。

 なので、そういう場合は字面を訳すのではなく、話者が何を言いたいかを意訳す事がある。

 そうすると、「私の言いたい事をよく分かってくれた」と言われたことも1度や2度ではない。


 仕事で何年もこの様な経験を積んだので、老人が言いたいことを理解するのは比較的簡単だった。


「ごんさん、私たちがどこから来たか知りたいみたいだけど、地図を描いても大丈夫?」と聞くと、ごんさんはしばらく「う~~ん」とうなった後に、「いいよ」と答えた。

 私がごんさんに聞きたかったのは、自分たちの住まいを教えて安全面で大丈夫かということだったのだ。ごんさんは村人の表情、佇まい、着てるもの、持ち物を見て、教えても良いと判断した様だった。


 例の小枝を使いこの漁村と海、川の位置関係を書き、それぞれの実物を指さしながら、確認する様に砂地の上の手書きの地図の該当箇所をさし示す。

 最後に自分たちの小屋から30分くらい川を下った辺りを指し示した。

 少ない脳みそなりに、私にも馬鹿正直に自分たちの拠点を教えるのではなく、少し離れたところを指し示し、安全を図った方が良い気がしたのだ。


 続いて地平線から太陽が昇る絵、木の真上に太陽がある絵、月と星の絵を描き(この星にも月はあった。色は赤くて2つ・・・)、小枝で朝から夜までの絵をたどり、老人の目の前で指を5本立てた。5日前からここに来たと伝えるつもりで、再度、地図の中の自分たちの小屋があると伝えたところを小枝で指示した。

 星と月の絵は、地球で一般的に星と月として使われている絵を描いたが、この絵が何を指すのかわからないといけないので、身振り手振りも総動員して何とか月と星だということを分かってもらうなど、意思疎通を図るだけで大仕事だった。

 みぃ君などは、自分が対話をする係にならなくて良かったと密かに胸を撫で下ろしていたと後で教えてくれた。


 捨て身の努力のかいあり、老人もこちらの言いたいことが分かったようだった。

 4人の顔を今一度真剣な表情で見まわし、今度はもう一度物々交換の絵を見て、近くにいた女性に何か話しかけた。


 女性は急いで村に戻り、老人は4人に向かって下から自分の肩に向けて大きく手を振って、村の中へ向かって歩き始めた。ついて来いという意味なのだろう、歩きながらも頻繁に4人の方を見る。

 

 ごんさんを先頭にしてほぼ縦一列になって老人について村の中に入っていた。


 老人は4人を周りの家より比較的大きな家に連れて行った。多分この老人の家なのだろう。

 家の中は質素でテーブルや椅子と簡単な棚があるだけだった。別の部屋への入り口があるが、戸はなく、簾が掛かっていた。

 全部でいくつの部屋があるのかは分からないが、今連れて来られたのは、玄関に直結しているこの家の居間にあたる部屋だと想像がついた。


 老人に椅子を進められそれぞれの椅子に座る。後からゾロゾロとついて来た村民は、全員この部屋に入ることはできず、あぶれた人たちは玄関から中を覗く様にして老人の家にへばりついていた。


 しばらくすると先ほどの女性が入り口の人だかりをかき分け、ナイフと鉈といっていい大きさの刃物と蓋のない鍋を持って老人の横に立った。

 老人は女性の持ってきたものを受け取り、机の上に並べた。

 それを見て、みぃ君は自分たちの持ってきたものも机に並べた。


 老人はじっくりと動物3匹を見て、それぞれをひっくり返しじっくり吟味し、動物3匹とフルーツを自分の前に置き、徐に鍋を4人の前に置いた。

 

 ごんさんは、鍋を手に取り、老人がやったように鍋の裏を見たりして吟味する。

 一度鍋を机の真ん中に置き、ナイフを選びやはりじっくり吟味する。

 鍋を老人の前に置き、ナイフを自分の方へ引き寄せる。


 老人は少し考えて頷いた。取引成功だ。

 念願のナイフが手に入った瞬間だった。


 取引が終わると、言葉が通じない事もあり、どちらからも何のリアクションもなく、無言の間が横たわった。

 そこですかさず通訳の私の出番だ。小枝を持ち、書く真似をし、家の外を指差す。


 老人の家は板床で絵を描く事ができない。

 この様な貧しい暮らしをしている村に、筆記用具があるかどうか疑わしい。いや、文字を書ける人がいるのかすら疑わしいので、今一度家の前に移動して筆談をしたいというジェスチャーのつもりだった。

 

 老人も理解してくれた様で、一緒に家の外に出る。

 土の上に、再び鍋の絵と、鉈とナイフの絵を描き、それぞれの絵の下に今回持ってきた動物の絵を2匹、そして少し離れたところにフルーツの描いた。

 

 まず、鍋の絵を棒で指し、2匹の動物の絵を指し、「ニャック」と言いなら先ほどした親指と人差し指を入れ替える様に振る交換のジェスチャーをした。

 老人は横に顔を振った。


 今度は動物2匹の絵とフルーツの絵を指したが、結果は同じだった。

 そこで鍋の下にもう一つ動物の絵を付け加えた。

「ニャック?」

 老人は頭を縦に振った。

 これで、鍋は動物3匹で交換できることがわかった。


 次に鉈と2匹の動物の絵で同じ様に交渉を開始した。

 結局、鉈は動物5匹になった。


 フルーツにはあまり価値がないのか、値段の交渉は始終動物の数でのやり取りとなった。


 物々交換のレートが分かったところで、自分の体でポケットを裏返し、中に何も入っていないことを見せた。「ニャック」といいつつ首を横に振った。

 そして、素早く日の出の絵と月と星の絵を描き、そして朝から夜の絵を指し示し、また朝の絵を指す。


 今は交換する物を持っておらず、別の日に持ってくると伝えたかったのだが、老人はちゃんと理解してくれたようで、頷いてくれた。

 二人はにっこり笑って、ももちゃんは軽く頷いた。

 そして意味は伝わらないかもしれないがバイバイと手を振って、3匹の動物と交換したナイフ1本を持って自分たちの小屋に向かって歩き出した。


 川まで戻って来た時、突然めりるどんが、「はぁ~。すごいわぁ、ももちゃん。ちゃんと会話?が成立してたねぇ。さすが通訳さんだ。絵も上手なんだねぇ。びっくりしたよ」とはしゃいだ声を上げる。


「えへへへへ。昔ね、油絵やってたことがあったので、簡単なデッサンなら得意なの」とにやりと笑う。


「それにしてもナイフが手に入って良かった。しかも、交換レートが分かったのはめっさ良かった」と安堵の表情を浮かべたみぃ君の横で、ごんさんも大きく頷いていた。


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