村との接触
==========<めりるどん視点>===========
朝になった。
ごんさんはすぐに罠を見に行ったが、何も獲れていなかった。
帰りの道中にフルーツを採りながらキャンプに戻って来てくれて、フルーツは結構な量手に入った。
初日にかなりの大物が獲れたので、私を含めて残りの3人は今日も何か獲物があるものと期待していたので、ごんさんがフルーツしか持っていないので少しがっかりした表情になってしまった。
しかし、罠はごんさん一人に任せてしまっており手伝う事すらしていないので、不満を表に出すのは大人として恥ずかしく、すぐにみんな取り繕った顔になった。
「まぁ、毎日お肉が獲れたらそれはそれですごいやんな」とみぃ君がわざとのんびりした口調でおどけて場の雰囲気を変えてくれた。
「だね~」と殊更のんきな口調でももちゃんが返す。
キャンプに残った組も、飲み水つくりとフルーツ採集をしながらごんさんの帰りを待っていたので、フルーツの中には新顔が2種類あった。
パッチテストをしながら、既に食べれることが分かっているフルーツと水で朝食を摂った。
「ねぇねぇ。昨日の漁村なんだけど、建物が全部木造だったね。で、服装は中世ヨーロッパの庶民の服装だったよね」と何か思惑があるのか、ももちゃんが唐突に話しはじめる。
確かに漁村の女性は足首までの長いスカートにエプロン、ボタンやファスナーなどのない頭から被るタイプの質素なブラウスを着用していた。襞やレース、刺繍なども見られなかった。
子供も裸足の子が多く、大人の男性と同じく頭から被るタイプの質素なブラウスを着ていた。大人の男性はみなダボっとしたズボンを履いていたが、子供たちの中にはズボンを履いていない子も多かった。
家屋の屋根は樹皮や藁ぶき、壁は木で作れられていたものが殆どだった。
村には全部で17軒の建物があった。その内2つが商売をしている様だった。万屋を兼ねた飲み屋と、鍛冶屋だった。
地球の中世の感覚では、こんな小さな村に鍛冶屋があるのは珍しいのだが、もしかしたらこの星では、どの集落にももれなく鍛冶屋がついてくるのかもしれない。
鍛冶屋があるという事は、荒くれ者の巣であればやっかいな集落になるのであまりありがたくないが、もし、この村が友好的であれば、鍋やナイフ等の金物が欲しい私たちにとってはとても助かるのだ。
漁村の真ん中には大きな広場があり、広場の中心にあたる所に井戸がある。
井戸はジャングル側の少し離れた所にも1つある。
井戸に海水が混じらないのかとも思ったが、近くに真水の流れる川があるので、飲み水は十分に確保できているのかもしれない。
ジャングルが本当に村の際まで来ており、浜辺と言えるのは村の幅より少し広いくらいのスペースしかない。
ビーチは湾曲しており、村はビーチに沿って三日月の様な形で広がっている。
昨日4人で川から海に出た際も、村以外の場所ではビーチはほとんどなく、水際まで木が生い茂っていた。
あの漁村は、あの地域にあるほんのわずかなビーチを存分に活用した感じで作られていた。
村には畑もなかった。「多分農業をしても塩害でまともに育たないのかもしれないね」と思った事を口にすると、ももちゃんは畑の有無よりも別の事が気になっている様子で、いつもの通り、唐突に話題を変えて来た。
「昨日、肉を持って行って交渉しようってみんなで話たけど、交換してもらう物を先に決めておくのは重要よね?」
こういったももちゃんの突然の話題変更にも慣れたもので、今更みんなは驚かない。もちろん、私も。
「ももちゃんの言う通りだね。だって、私たちが持って行く物が彼らにとって価値があるかどうかは今の時点では分からないしね。こっちが欲しいものを向こうが持ってるかどうかもわからないからねぇ」
「ごんさん、私は鍋やナイフ、鉈をもらう方が、食糧をもらうよりいい気がするんだけど、どう?」
「わても、ももちゃんの意見に賛成やでぇ。ナイフは必需品や」とみぃ君の援護射撃が発動する。
「そうだなぁ。ナイフはあった方がありがたいなぁ。ただ、向こうがある程度の数ナイフを持ってたとしても俺らは不審者にしか見えないだろうから、交換してくれるかどうかは分からないけどな。俺としては鍋よりは、刃物の方が欲しいなぁ」
サバイバル経験者のごんさんの言う事はいつも説得力があり大抵の事には同意なのだが、今、ももちゃんの頭を占めているのはとある食材のことの様だ。
「鍋は、塩を作りたいから欲しいなぁ。海があるんだから塩は作れるんじゃないかなぁ」
塩味の効いた料理を頭に浮かべたのだろう、口の中に唾液が溜まったのを誤魔化しながら無理やり話すももちゃんを横目に、みぃ君が折衷案を申し出た。
「ほな、先に刃物で、その後は鍋っちゅうこって。どっちにしても交換してもらえるかどうかが一番大事やけどな」
「そうだねぇ。時間を掛けて信用してもらってから交換してもらうか、彼らにとって魅力のある品を持って行くとか、それしか考えつかないねぇ」
「めりるどん!さすが!そうだね。こっちの都合だけじゃなくって、向こうのニーズを掘り起こさないとだね」とももちゃんの目がランランと輝く。何か思いついたらしい。
「えっとね、お肉にしても、魅力ある品を作るにしても、時間を掛けて信用してもらうにしても、私たちの落ち着く場所を作らないと、毎晩寝不足になって体力を削られて、下手するとみんなの体力がじり貧になる可能性もあるよね?」とももちゃんがみんなを見回して訊ねる。
「うん。家っちゅうか、そこまで大層な物でのうてええから、ゆっくり安心して寝られる環境があるとええなぇ」
「でしょ?でしょ?」とももちゃんは我が意を得たりとみぃ君の言葉に被せる。
「まぁ、壁に囲まれて寝る方が断然疲れないと思うよ。しかもここ、川に近いわりに一段高くなってるから増水の心配もないし、一方が大きな岩だし、周りにも適当に丈夫そうな木がいくつか生えてるから、これを利用して簡単な小屋を作るのはどうかな?」というももちゃんの提案に4人の将来を左右する臨時の会議が始まった。
寝床に関しては、私のハンモックなら地面の虫を気にしなくていいという案が採用され、蔦で作り、小屋を建てたいと思っている所に生えてる木に括り付けることにした。
そしてその木を柱として、川辺にあった地面に倒れている竹のオバケみたいなものを組み合わせてざっくりした竹骨組みを作り柱に括り付け、ヤシの木に似た葉や、バナナの葉をその骨組みに刺して壁や屋根を作ることにした。
竹骨組みに葉を差し込んだらその上から押さえる感じで、蔦を柱に強く巻き付けて様子をみることにした。
「ハンモックで寝れたら、もう虫よけの煙はいらないねぇ。みんなぐっすり眠れるねぇ」
「いやいや、ももちゃん。ハンモックで寝ても虫対策は必須やで」
「そうだね。虫対策は怠っちゃ危ないよ」とごんさん。
ジャングルの中なので通気性が確保できる方が何かと良いというごんさんの意見もあり、岩を背にして残りの壁を比較的風を通しやすいヤシの木もどきの葉を使い、天井と入り口付近に戸代わりとしてバナナの葉を使うことにした。
二か所に窓の様に空間を設け、枝やヤシの木もどきの葉を使ってヒサシを作った。
土壁にしなかったのは、4人ともその日発見した村よりもっと大きな集落を目指したいと意見が一致したことから、この小屋は必要最低限の物資しか貯めない事や、この星に貨幣制度があればだが、旅費に必要な貨幣を貯める間だけの滞在になるので、家づくりに時間や体力をさきたくなかったのだ。
まずは簡易な住むところをつくり、大きな街へ向かうまでは陸地と川の罠を毎日仕掛け、何か村で交換できそうな品を作ろうと決まった。
竹骨組を作るためには、竹を割るための道具作りからとなる。
ごんさんとみぃ君が河原で石と石をこすり合わせてストーンナイフを作るところから始まった。
石は途中まで上手く研磨できても、不用意に削るとすぐにクラックが入ったりする。
石の形や目を見ながら削らないといけないので、何度も失敗しながらその中で使えそうなものを選ぶ。
ストーンナイフは竹もどきを縦に割る事はできたが、節に合わせて横に切るには強度が足りなかった。
また、縦に割る時に使えるといっても、ほんの数回使うと、砕けてしまい、使えなくなってしまう。
この機会に、竹を浄水器として使えるようにしたかったのだが、漁村で鉈やのこぎりを手に入れないと無理だという結論に至った。
その間、ももちゃんが壁や屋根になる葉と食糧となるフルーツを一緒に採集し、私はハンモックを蔦で編むという風に分業が始まった。
ただ、ハンモックも小屋も誰も作ったことがなかったので、試行錯誤の繰り返しになった。
特に、ハンモックは全体重をかけても落ちない造りでないとおちおち寝ていられない。
ごんさんに教わりながらいろんな結び目の作り方を試して、少し編んで、体重をかけてほどけるかどうか確認する作業の繰り返しだった。
一旦作り方が決まると、私よりは力のある男性に編んでもらった方が結び目が落ち着くと言う事で、みぃ君に作り方を教えてからは、みぃ君がひたすらハンモックを編んでいった。
竹もどきを、竹骨組みを作れるくらいの量を切り出すと、今度は実際に竹骨組みを組んでいく作業になる。これはDIYが趣味で珪藻土の壁塗りをしたことのある私と、ごんさんで作業にあたり、組み終わったところからももちゃんが葉を骨組みに差し込み、必要な個所は編みこんでいく。
自分の作業が終わった者から他の者の作業を手伝うのは当たり前で、ももちゃんもハンモック作りに加わり、材料の蔦が少なくなると今では蔦切り職人と化したみぃ君と、蔦切り職人としては新人のごんさんが二人でせっせと切り出してくれ、最後には全員でハンモック作りに戻った。
小屋作りは2日半かかった。その間、魚は毎日罠にかかっていた。
陸地での罠には魚の切り身を使うことで、毎日2頭以上の動物を得る事が出来た。
残りの魚は川魚なので多少泥臭さはあったものの、みんなでおいしく頂いた。
小屋が出来ていざ漁村へ行こうとなった時、ももちゃんと相談してトイレも作って欲しいと要望を出した。しかし、まずは漁村へ行かないと今後の予定が組めないと強く男性陣に云われ、しぶしぶ漁村へ行くことになった。
ごんさんの罠にかかっていた動物の中で、村人が着ていた皮と同じ模様の動物3匹とフルーツを少し持っていくことにした。
最初、何人で行くかで意見が食い違ったが、結局4人全員で行こうということになった。
4人とも中年だが、女性だけが行くと乱暴されたり無体な事をされたりする可能性があるかもしれず、男性だけで行ったら体力があるだけに脅威に思われるかもしれず、男女で行くにしても2人で行くより4人で行く方が、安全ではないかという意見に落ち着いたのだ。
「物々交換をしたいので、今回は最初から姿を見せた方がええんちゃうかな」と言うみぃ君の意見にごんさんも賛成し、川が海と交わるところから姿を隠すことなく漁村へ向かって歩いた。
最初に私たちに気づいたのは漁村の小さな男の子だった。男の子は母親にこちらを指さしながら注意を促し、母親が近所の人に知らせ、私たちが漁村の近く頃には、村の端に10数名の大人と沢山の子供が集まっていた。