水車小屋奪還作戦 その1
翌朝はとても良い天気で、自分たちの境遇を考えると似つかわしくない天気だと思ったが、雨に降られて移動が困難になるよりは良かったねとのももちゃんの一言で、ごんさんは少し気分を落ちつけた。
村に一人残るめりるどんが、作業小屋へ行った時に怪我をしてはいけないので、3人はめりるどんに石鹸作りも塩作りも休む様お願いして家を出てきた。
「何もしないと一人で退屈だ~。」というめりるどんの一言に、みぃ君が出汁の粉作りを引き継ぎ、村周辺でのみ作業をして欲しいと言ったが、「もちろん、出汁の粉作りは手伝うけど、自分の食べる物も収穫しないと他に食べる物がないので、数日に1回の頻度で、畑に収穫しに行くね~。」と、このことだけは譲らなかった。
作業小屋付近へ行く時は、村の誰かに必ず声を掛けてから行く事を条件に、3人はめりるどんの作業小屋行きを良しとした。
「何はともあれ、私の事より水車の方、なんとか解決する様がんばって!」とめりるどんに発破をかけられ3人は送り出された。
移動中の舟では、グリュッグに着いてからの手はずを話し合った。
みぃ君は、今夜、グリュッグ到着後すぐに一度アンジャの雑貨の店へ行き、相談できそうなら相談をすることに。
ごんさんは、パソと一緒にパソの家まで行き、領主関係者がいなければそのままパソの家でドブレと打ち合わせをすることにした。
ももちゃんは自分たち3人の宿を取り、ルンバの食事をルンバへ運び、その後は宿で待機することとなった。
一旦、それぞれのやるべきことが終わったら宿で集まり、翌日以降の打ち合わせをすることにした。
こちらの用事がいつ終わるかは不明なので、ルンバには明日の朝、村へ帰ってもらうことにした。
そして、一番大事な事を続けて話し合った。
「細工は一人で出来るん?」とみぃ君が心配そうに聞いた。
「水車側の心棒とのジョイント部分を壊すだけだから、一人でできる。というか、一人の方が塀に囲まれている狭い水車の横で作業がしやすいし、人数が増えれば目撃者に見つかるリスクも上がるので、俺一人でやる方がいい。」と、ごんさんは自信が垣間見える口調で説明をした。
「分かった。」
「でもさぁ、実際にごんさんはどんな細工をしようとしてるの?」と遠慮のないももちゃんが、ごんさんに作戦の詳細を聞いた。
「水車の中心と心棒の連結は、水車の真ん中に心棒の大きさと形に合わせた穴を開けて心棒をはめ込んでるんだけど、最終的には楔で調節してるから、その楔を外せばガタが大きくなって、連結部が摩耗するからいつかは水車の円盤と心棒は外れる。だから、楔を抜くだけだ。」
「え?ごんさん、それって、いつ水車が止まるか分からないよね?」
「そうだな。」と、ももちゃんの突っ込みに答えるごんさん。
「それってさぁ、みぃ君がアンジャさんに相談して、何かの手段を取るにしても、連携できないよね?」
「そうやなぁ。できたら細工も早めに効果が出る方が、長引かんでええし、ももちゃんが言う様に、アンジャさんが何ぞ行動を取ってくれるにしても、時期を合わせやすい思うでぇ。」
ももちゃんとみぃ君の2人に、細工の効果が出る時期が分かる方が、いろいろとやりやすいと言われてしまうと、ごんさんもそうだなと思ってしまった。
「のこぎりで水車の円に切り目を入れて、心棒が外れる様にしてみたら?」とももちゃんが言ったが、「のこぎりで切ったら、切り目が人為的に細工されたものだとバレるんやないかな?」とみぃ君が疑問を呈した。
「それともトンカチで割る?音がして、バレちゃうんじゃない?」
「う~~~ん。」とみぃ君が唸った。
それまで二人のやり取りを聞いていたごんさんが、漸く考えが纏まった様で、「水車の円盤は2枚あるので、それを両方とも外して、川まで運んで川の中で割る。で、片方の円盤は心棒に取り付け、もう片方は地面に転がしておく。」
「何で水ん中で割るん?」とみぃ君が不思議そうに聞いた。
「音を極力出さない様にするなら、水中で割る方がいいと思う。で、水受けの板も数枚、川に流された風を装って持ち帰ったら、万が一円盤を直しても水受けの板も作らないと水車は回らないからな。こういう風に細工しておけば、水の流れに負けて水車が壊れた感じに受け止められるんじゃないかと思うぞ。」
「でも、水中でトンカチなんかを振り下ろしても、水の抵抗で衝撃が緩和されて、割れないんじゃないの?」
「それはそうだけど、川底に大きなとがった石があれば、その上に円盤を乗せて体重を掛ければ割れるんじゃないかなぁ~。どっちにしても工具は一揃い持って行くけどな。」と、ごんさんはももちゃんの疑問に答えた。
「いいねいいね。で、ごんさん、それだけの作業、一人でできるの?」とももちゃんが相変わらずしつこいくらい質問をする。彼女は納得がいかないと心配でたまらないらしく、細かなところまで質問をする傾向にある。
「いや。水車が塀に囲まれてるから、みぃ君に手伝ってもらわないと難しい。円盤を塀の下から通して、川まで運ばないといけないからなぁ。それと、川側から上陸して作業する方が、目撃されることも少ないと思うから、ルンバにもう1日残ってもらって、舟で川をさかのぼってもらわないと難しいかなぁ~。」
ルンバに聞いてみたら、2~3日グリュッグの町に残ってくれるとのこと。
突然のお願いなのに、これだけ時間を融通してもらえて助かったぁ~と思ったのは、ごんさんだけじゃなくって、みぃ君とももちゃんもだった。
「ねぇねぇ、万が一、水車の修理となるとごんさんが中心になるんだよね?」とももちゃん。
「そうだな。多分俺が修理することになると思うぞ。もちろん、みぃ君やドブレにも手伝ってもらうけどな。」
「じゃあさぁ、ごんさんは細工が成功したら、こっちが疑われない様に一旦ルンバと一緒に村へ帰ってもらったらどうかな?」
「ん?どういこと?」と、ごんさんは思案顔でももちゃんに聞いた。
「えっとね、水車が故障して直すとなった時、ごんさんがグリュッグに居たら、すぐに修理に取り掛かれるけど、いなかったら修理はごんさんがこっちに来るまで待たないといけないじゃん?」
「そうだな。」
「修理が出来るってことは、水車を壊すことも簡単って思われる可能性もあるんじゃないかな?だから、ごんさんが今回グリュッグに来ている事が相手に伝わらなければ、領主の息子もこっちを疑うことが難しいんじゃない?」
「それもそうやな。疑われない様にするってことも大事やな。」と、みぃ君もももちゃんの意見に賛成の様だ。
「そこまでしなくても大丈夫だと思うけど、不安要素は少ない方がいいな。」と、ごんさんも最終的にももちゃんの考えに賛成した。
「水車小屋の細工については、大体の方向性が決まったけど、問題はドブレに疑惑が向かない様にすることだな。これは、今夜ドブレと話して、どのタイミングでやる方がいいか相談してくる。」とごんさんが2人の目を見ながら言った。
結局、3人はこの作戦をパソとルンバにも伝え、ごんさんはルンバと一緒に舟で寝させてもらうことにした。
「んじゃ、今度はみぃ君のアンジャさんへの相談の方法、つまりアプローチの仕方について話そう。」とももちゃんが仕切った。
「ん~。思うたんやけど、水車小屋が別の領地のもんが作ったってことで接収されるなら、石鹸も別の領地のもんが作ったり売った物やから、どんな扱いされるか分からん。怖わぁて石鹸はグリュッガー領内では売れんようになるって相談するのはどないや?」
「みぃ君!すんばらしい!それ!それ!それでいいと思うよ~。」とももちゃんは満面の笑みを浮かべた。
「俺もそれでいいと思う。いい案だ。」
2人の賛同の様子を得て、みぃ君の表情も自信のある表情になった。
グリュッグの港に着くと、ごんさんはパソと一緒にドブレに会うために彼らの家へ向かった。
「様子を見て来るので、一旦ここで待ってて下さい。」とパソがごんさんに言って、家に入った。ごんさんは、彼らの家の1ブロック手前で待つことになった。
パソが家に入って5分くらいすると、戸口からひょいと顔を出し、ごんさんに向かって大きく頷いた。
その様子を見て、ごんさんは彼らの家の中へ入った。
「旦那様!」とドブレが大きな声をあげてごんさんへ駆け寄った。
「申し訳けございません。領主の息子を止めることが出来ず・・・。」と沈痛な表情で誤ってくるが、それをごんさんが途中で遮った。
「お前が悪いわけじゃない。気にするな。それよりも、パソを寄越してくれてありがとう。」
ドブレは沈痛な表情のまま、何度も頭を上下に振った。
とにかく座って話そうということになり、ドブレの家の居間にある椅子に、ごんさん、ドブレ、パソの3人で座った。
「まず、もう一度ありがとうと言わせてくれ。」とごんさんが、ドブレとパソに感謝の念を述べた。
「いえ・・・。接収を止められず・・・本当に申し訳けございません。」とドブレの顔は一向に晴れない。
「偉い人に言われて歯向かうのは難しい。」とごんさんはドブレの肩をポンポンと優しく叩きながら慰める。
「どっちにしても、水車小屋は取り返す。その為にお前の協力がいる。」
「旦那様。もちろんです。なんでも言って下さい。」
「まず、今どんな状態なのか詳しく教えて欲しい。」
ドブレによると、領主の息子はごんさんたちが戻ってきて、水車小屋を奪還することを懸念しており、領兵を1名常に水車小屋の前に立たせているらしい。
夜の間も見張りはいるとのこと。
小麦の搬入は2~3日に1度、領主の城から1名下働きが舟で行うことに決められているとのこと。
搬入の時間は朝一番。昨日の朝が初めての搬入だったが、下働きの者は挨拶もせず、ドブレとは一度も口を利くこともなく、城に帰って行ったそうだ。
ドブレの給与に関しては、払うと言われたが、料金についてはまだ何も言われていない。
作業中は特に見張られることもないが、小屋の外には1名の監視が常にいる。
ドブレも夜、水車小屋に居るわけではないので、2勤交代なのか3勤交代なのかは分からないらしい。
ただ、朝、水車小屋へ来る時と、帰宅する時に見かける見張りは違う人だったらしい。
昼食を食べに外へ出た時や、午後にトイレを借りに近くの飲み屋へ行った時には、朝に見かけた見張りと同じ人だったので、おそらく監視の交代は夕方に行っていると思われるが、正確な時間は分からず仕舞いだった。
「すみません。明日、行った時に交代の時間を調べてみます。」と、ドブレが言ってくれたので、情報の収集はドブレに任すことになった。
パソが舟の中で聞いた3人の立てた計画を、ドブレに話してくれた。
ごんさんが説明しても良いのだが、まだ流ちょうには話せないので、パソから説明してもらった方が時間の短縮できるし、パソがちゃんとこちらの作戦を理解しているかどうかの確認にもなるのだ。
「お前のアリバイを作って、からくりを壊してもお前に疑惑の目が向かない様にしたいと旦那様たちは言っている。」
「アリバイかぁ・・・。」
「それで、それについては俺が考えてみた。」とパソが言い出した。
「マンボ兄にも協力してもらって、俺と2人でお前を飲みに誘うことにして、からくりのところで待ち合わせをしよう。その時、俺は早めにお前のところへ行くが、マンボ兄にはかなり遅れて来てもらおう。それで、マンボ兄がくるまで、見張りの兵士と一緒に話しながら待てばいい。」
その話を聞いたごんさんが、少し考えて「その時は、まず、パソがドブレに頼んで、水車が動いているのを見る。その後、マンボを待つ方が良い。」
「おお!そうか、その晩まではからくりが動いているところを兵士にも見せる、または動いている音を聞かせる必要があってことですね。」とドブレが頷いた。
「そうだ。次の日の朝には、水車は止まっているから、ドブレは安全だ。」
ドブレもパソも納得した顔で、そろって頷いている。
「旦那様、いつ決行するんですか?」とドブレが真剣な顔でごんさんに聞いた。
「ドブレはいつが良いと思う?やるとしたら夜中になるけどな。」
「夜中ならいつでもいいと思います。」
「そうか。できたら、明日。雨が降る日が良い。ただ、いつ雨が降るかわからない。それなら早い方が良い。」
「この時期はよく雨が降るので、もしかしたら明日の夜、雨が降るかもしれません。」とパソが言ってくれたが、この世界にはまだ天気予報などない様で、雨が降るかどうかは運に頼るしかないらしい。
細かな事を打ち合わせたごんさんは、ドブレとパソだけでなく、ドブレたちの親にも挨拶をして、一人ルンバの舟まで歩いて戻った。




