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村での4人

==========<めりるどん視点>===========


 ここ最近のももちゃんは、トイレの幅広の暖簾と、シャワー室と脱着室の暖簾、そしてルンバの嫁さんの暖簾作成にと暖簾職人と化していた。


 ルンバの嫁さんの暖簾は、彼女の希望らしい緑を基調に、暖簾の上部と下部に黒と併せて市松模様をアクセントに入れたところ、とても喜んでくれ、ルンバの嫁さんがわざわざ4人の家にまでルンバと一緒にお礼を言いに来てくれたほどだ。

 交換の品は小さな袋に入った釘だった。やったー!これで結構な数のDIY出来るっ。

 そして交換品とは別に、お礼としてルンバが釣ったらしい大きな魚を一尾持ってきてくれた。ルンバが誇らしそうに胸をそらしていたのが印象的だった。


 4人の中ではごんさんが一番早く現地の友達を作ってくれたので、暖簾の注文はごんさん経由で入ることが多くなった。


 そして、暖簾についてはみぃ君が数珠玉に似たものをジャングルで見つけてくれたので、デザインの幅が広がった。この数珠玉は赤地に黒の斑点が浮いているのだが、それがまた良い色のアクセントになった。ただ、数珠玉は真ん中に穴など開いてないので、ルンバにもらった釘がとても役に立った。


 ももちゃんが暖簾づくりで忙しくしている間、みぃ君の手を借りて革での靴づくりを頑張ってみた。

 最初に作ったのが黄色い靴紐のみぃ君の靴で、次に同じ型紙で黒の靴紐のごんさんの靴、その後に赤の靴紐のももちゃんの靴が出来上がってきた。

 蓋を開けてみれば、三人とも同じサイズだったので、型紙づくりを割愛することができ、かなりの時間短縮に繋がった。


 三人のバナナの葉の靴はお蔵入りになり、汚れて体重を受け圧縮されたどてらの綿はそのまま活用して、布の室内靴の底にさせてもらった。

 革靴と同じ型紙だし、革の様にみぃ君に縫い針を通すための穴を開けてもらわなくても良いので比較的楽に出来た。


「おおお!めりるどんの靴より先に作ってくれたの?申し訳ないねぇ~」と言いつつもうれしさで顔がほころぶのを隠せていないももちゃんを見て、「ぷぷぷ」と笑いが零れてしまった。そして「いいよいいよ、だって私のはみんなのを作って慣れたころに作るから、一番履きやすい靴になっているはず!」とちょっと悪い笑みを浮かべた。


 ももちゃんは、「私、めりるどんのこういう相手を思いやる時の発言が好き。もともとめりるどんは相手の気持ちや受け取り方をかなり気にして会話をする方なので、嫌な思いをさせられた事はないが、こういう相手が負担に感じない言い回しがするっと出るところは流石だな~といつも思う」とみぃ君に言っていた事を前にたまたま耳にした事があった。だから、こういうちょっとしたいたずらっぽいコメントをしても悪くは取らないだろうと思っての発言だ。

 

 ごんさんは一人で作業小屋まで日参し、罠などを担当してくれている。その他の食糧も毎日の様に持ち帰ってくれる。そして、芋畑の水やりも担当してくれている。

 酒場を通して他の3人があまり接触の無い漁師たちと仲良くなっている。

 みぃ君は遊撃手の様に力仕事から細やかな作業まで、必要とされているところで手伝ってくれる。器用なみぃ君がいないと様々な作業が滞ってしまうほどだ。

 みぃ君は、村の子供たちとも仲良くなっていて、4人が村に居る時でも子供たちはたいていみぃ君の後ろをついて回っている。

 その姿を見て、ももちゃんが「あの子たち、誰に懐いているか知らないんだからねぇ~。あの子たちを殲滅するって言ってた人なのにね~」と言ってクスクス笑ったりしている。


 そんな中、4人がめずらしく昼間から家で作業している時トイレに入ろうとしてそっと家を出てゴミ捨て場の方へ歩き出した。残りの3人は家の中なのでノックをせずに暖簾をくぐると、そこには用を足していた村の子供がおり、思わず口がOの字になったまま固まってしまった。

 どうやら、みぃ君が使っているのを見ていて自分も使いたくなった様だ。


「びっくりしたなぁ~。もう・・・。暖簾をくぐったら人がいるんだもん!」と家に戻るなりみんなに話した。だって今後も似た様な事が起こるかもしれないからね。

「堪忍したってなぁ。興味があったんやろう」と、何故かみぃ君が謝る。

 みぃ君にとって、この村の子供たちとの触れ合いはかけがいのない時間なのかもしれない。なので、無意識にでも自分のやったことの様に謝ったのだろう。

 すっかり子供たちの擁護者になっているみぃ君を見て、ももちゃんと顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。



 3日前から、ももちゃんは隣の家へ言葉の勉強に通っている。

 隣の家も作りは同じで、二間の様だ。やっぱり奥の部屋が寝室で、木で囲った枠の中に、干し草の様なものが盛ってあり、それがベッドとなっているそうだ。ベッドの横には、長持ち風の箱があり、おそらくだが、それがクローゼットの役をしているのだろうとももちゃんは思っているみたい。

 私はまだお隣さんの家にはお呼ばれしていないので、どんなインテリアをどんな配置で置いているのかは知らないんだよね。


 授業は台所兼居間で行われるが、教師はダンガさんという隣の奥さんだ。ダンガさんには漁師の旦那さんと子供が一人いる。

 ダンガさんは、栗色の髪をした、かなり恰幅の良いおばさんだが、いつもにこやかな笑みを浮かべている感じでとっつきやすい。

 ももちゃんは毎日夕食を作り始める1時間前くらいにお邪魔して、ダンガさんに教えてもらうのだ。


 ももちゃんはまだ10代だった頃スペインへ留学していた。スペインの有名な大学町のサラマンカという町の語学学校へ通ったのだが、一番最初の授業がとても衝撃的だったらしい。

 先生は20代後半、というか30代前半かもしれないテレサという女性。

 

 小柄な彼女は生命力の塊の様な人で、様々な国から来た生徒たちを見まわし徐に自分のノートを持ち上げ足元に落としたらしい。 

「Aquí」と言い、今度は少し離れたところに投げノートを指さし「Allí」、更に遠くに飛ばし「Allá」と言い、生徒たちに同じ単語を言わせたの今でも鮮明に覚えていると言っていた。

 意味は、「ここ」、「そこ」、「あっち」だ。

 この暴力的までにプリミティブな授業にももちゃんは衝撃を受けたのだが、それが彼女の語学学習の根本を成しているとのこと。


 しかし、さもありなん。生徒は全員外国人でスペイン語をほとんど話せない人ばかりなのだ、言葉で説明しても理解などできない。なぜならその言葉ができないから習いに来ているのだから。他に方法等ないのである。


 最初の授業の日、ダンガさんの授業はどうなるだろうと、半ばテレサ先生の授業の様になるのではないかと期待してももちゃんはダンガさんの家へ向かった。

 果たしてダンガさんはいろんな物を手に取り、それが何なのかを発音することを繰り返したらしい。

 ももちゃんは彼女に文字も教えてもらいたくて、ダンガさんが発音した時、書くジェスチャーをしたが、彼女は悲しそうに首を横に振った。


 そういえば、この村の子供たちは親の手伝いをしているか遊んでいるかで、学校らしい建物もこの村にはなかった。学校へ通っている様子は見受けられなかったのだ。

 つまりは、この村で読み書きができる人はいないか、いても本当にごく少数なのだろう。


 どっちにしても書かないと覚えられないももちゃんは、日本語を使って発音と意味を板に書き連ねて行った。イントネーションを覚えるために、強く発音する語の上に、点を打っていった。

 ももちゃん曰く、通訳をしていて思ったのが、話を聞く時人は単語を全部聞き取ることに力を入れているのではなく、文章の最初の単語を聞き取り、残りはイントネーションを聞いている部分が多いのではないかと言っていた。


 もちろん全部の単語も耳に入ってきているが、自然なイントネーションで話されれば多少舌っ足らずになっていようと、一つ単語を間違えても意外とさらっと流して聞かれてしまう傾向があるのではないかと常々思っていたとのこと。


 偉い学者先生の意見は知らないが、これはももちゃんが通訳の現場で感じたことなので、正しいかどうかはももちゃんにも分からないらしい。

 後、スムーズに通訳するには、ボキャブラリーの多さが物を言うことも経験から知っていたので、ダンガさんがどんな物について名称を教えてくれても、一つ残らず全部メモを取っているそうだ。


 早くこちらの言葉を覚えないと生活そのものに支障をきたすので、ももちゃんの語学習得は急務である。ももちゃんも毎日ダンガさんに教えてもらい、教えてもらった単語は片言でも出来るだけ何度も繰り返し使い話しかける様にして努力をしている。

 単語を覚えるコツは、覚えたばかりの単語はできるだけ会話の中に盛り込む様にすることだ。たとえそれが無理やり感満載であっても、口に出せば脳の中で単語と映像が結び付き覚えやすくなるし、相手の反応を気にしながら発した言葉は後々記憶に残るものだと言うのがももちゃんの考え方だ。


 ももちゃんはほとんどスペイン語を知らない状態でスペインへ行って、3か月で自分の言いたい事はスペイン語で言える様になった。相手の言うことがなんとなくではなく、ちゃんと理解できる様になるには1年かかったとのこと。夜、寝ている時にスペイン語で夢を見る様になるには6年かかった。辞書と日本語の文法書があってこれなので、辞書も本もないこの村でどのくらいの期間で言葉を習得できるかは未知数だと零していた。

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