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飛ばされちゃいました

==========<ごんさん視点>===========


 どのくらい気を失っていたのかは分からないが、目だけを動かし周りを確認する。サバイバル訓練や要人警護訓練などの経験があるからか、不用意に体を動かすことを無意識に避けていた。すると、自分の隣で誰かが起き上がった様で、こちらに向けて声を掛けてきた。


「!?ごんさん?」

 自信がなさげに語尾を上げつつ訪ねて来たのは日本人。

 背が低く、短い髪で胸部がとても豊かな中年女性だった。

「うわぁ、キャラそっくり!ごんさんだよね?私、めりるだよ!」と、上から覗き込んでくる。

 え?めりるどん?いや、さっきまでゲームで会話してたのに何でここに?と一瞬頭の中だけで考えた。


「えええ?めりるどんなの?」と思ってもみない方向から声がした。  

 足元の方だ。さっきの発言をしたのとは別の人間が立ち上がった。

 背も高く横幅も結構ある黒髪を長く伸ばした中年女性だった。

「うん。もしかして・・・・ももちゃん?」

「うん。わたしぃ~」とちょっとズレた答えを返してくるところは、間違いなくももちゃんだ。

 ゲームでのアバターは黒い肌に短い金髪。

 実物とエライ違うなぁ~。

 あのアバターを最初に見た時、ガングロかと思ったけど、本人曰く、黒人アバターでどれだけキャピキャピにできるか挑戦してみたとのこと・・・・。う~む。


 ゲームでしか会話したことがないけど、一応知人が周りにいるということで徐に上体を起こした。

 素早く周りに目をやりながら、「そう、ごんさんです」とニカっとある種の悪い笑みを浮かべてみた。


 ここはどう見てもジャングル。いや、植生を見ると、ジャングルと森が奇妙に混ざった感じだ。

 さっきまで自宅のPCの前に座っていたはずだが何故こんなジャングルに?

 しかも画面越しに会話していた人たちが生身でいるので、それが理解できない。


 違和感の塊でしかないのだが、ここのジャングルの植生は今までみたことない物だ。金色に輝く葉っぱや、ショッキングピンクの木、真っ赤な蔦。それなのに、幹の太い針葉樹もちらほら見える。

 周りの植生や地形を確認している間に女性二人は、ゲームのキャラと今の生身の人間の似てるところ、違うところに素早く目を向けていたみたいだが、「ねぇ、私たち3人がいるならみぃ君もいるのでは?」とももちゃんが言い出した。


 あの時コミュにいたのは4人。全員ここに飛ばされた可能性は否定できない。もしかしたら、あの時間あのゲームにインしていた人間全員が飛ばされてる可能性さえある。そうだとすれば何千人もの人が飛ばされてることになる。


 とにかく3人は近くに飛ばされていることから、もし、みぃ君も飛ばされているのならそれ程遠くない場所という可能性があるので、3人とも自分たちの周りを見回してみぃ君を探す。


 するとショッキングピンクの木の横に、靴下を履いた足が見えた。

「あそこ」と指を差すと後先を考えず女性二人はそっちへ駆け寄った。

『危ない』と一瞬心の中で冷っとしたが、何も起こらず「みぃ君ですか?」とももちゃんが訪ねた。

「だれ・・・・ですか?」と男性の声が答えた。

「ももちゃんとめりるどんです」と素直に答えるあたり、危機感が薄いなあと思いつつももちゃんの動きを見守る。


「え?何これ?どないしてこないなところへ?」とみぃ君と思われる男性は、まだ混乱から立ち直ってない様で質問には答えずつぶやいた。

 彼はコミュのみぃ君キャラと同じくはっきりした目鼻立ちで、鼻は大きめ、背は低め。キャラよりはちょっと暗めの茶髪が、彼は十中八九みぃ君だと思わせていた。当然、俺以外の2人もそう思っただろう。

 それでもはっきりと肯定してもらわないと、全然知らない人という可能性だってあるのだ。


「とりあえずあなたがみぃ君なら一緒に来て。みんなで状況の判断をしましょう」といつもの様にももちゃんが音頭を取る。

 危機感が薄いのか、物事の掌握能力が高いのか低いのか、彼女の言動には彼女らしい矛盾がたくさん散りばめられている。相手がまだ身分を明かしていないにも関わらず、『みぃ君』という名前を相手に与えて、自分たちが『ももちゃんとめりるどん』だということまで教えて、一緒に来るなら来いという選択肢を無条件で渡すなど、危険極まりない。

 今までのやり取りを見るかぎり彼女はももちゃんというキャラの中身の人であることは間違いなさそうだ。


 その男性はゆっくり起き上がり周りを見ながらも、こっちに向かって移動しはじめた女性二人の後をついて来る。

 自分たち3人が倒れていた所は、木が生えておらず、小さな広場みたいになっているので、4人で向き合ってそこに立った。


 ももちゃんが座ろうとしたが、「どんな毒虫がいるのかわからないから直に座るのは辞めた方がいい」と俺が注意するとすぐに立ち上がった。残りの二人もそれを見て立ったままだ。

 さっきまではその地面に皆横たわっていたのだが、それでも意識が戻ったのだから危険があると思われることは避けるに限る。


「ねぇ、みぃ君なの?もし、みぃ君ならあなたが既婚者なのか未婚者なのか教えて」とももちゃんの足りないところをめりるどんが補っていく。

 めりるどんはコミュでも、他の人の言葉足らずな所を補ってくれることが多く、それに助けられることも多い。


==========<みぃ君視点>===========


「あ」と今更ながらに自分を囲む3人が自分に対して不信感を向けとることに気ぃついた。

「みぃ君です。既婚者です。住んでるところは関西です」と聞かれとらんことまで情報開示して、自分がみぃ君であることの証を立とった。

「よかったぁ、みぃ君だったのね」とめりるどんがほっとした様に言うた。


 まずは何が起こったのかを確認しようとももちゃんが言い出した。

 彼女はコミュでも、いつも「〇〇しよか~」と音頭を取る事が多い。

 その部分が今発揮されとんのやろ。


「ついさっきまで、みんなでPCでゲームをしてて、コミュでお話してたよね?」とももちゃんが言うとみんなうなずく。

「私の場合は、会話の途中でPCの画面が砂嵐みたいになって、ええ?ってびっくりしている内に気を失って、気づいたらここにいたの」と先陣を切ってももちゃんが会話を主導していく。

「俺も自宅でPCの画面に向かいながら会話しつつ夕食を摂っていて、デザートのりんごを丸齧りしてたらももちゃんが言う様に砂嵐の様な画面になったんだ。気づいたらここにいた」と左手に持った食べさしの林檎っちゅうか、ほぼほぼ芯しか残ってへん林檎をごんさんはみんなに見した。

 みんなは、ごんさんが一日に一食しか食事を摂らず、それも仕事が終わった後に料理し、ほぼほぼ夜中に夕食を摂っとるのを知っとんので、こないな時間にデザートと聞いても驚かなんだ。


「私も私の部屋でPCに向かってたら砂嵐?の画面になって、どんな故障?っていろいろ故障の種類を考えている間に気を失ったみたいで、気づいたらごんさんの隣にいたんだよね~。びっくりしちゃった・・・・」

 めりるどんは普段からPCやネットに関する事は結構調べとんので、多少の機器の不良とかは自分で治す事もするらしいで。

 実はDIYやカバンだけやけどミシンをつこた裁縫なんかも好きで、家の中の家具もいくつかは手作りやし、いつもリアルで持っとるカバンはほとんどが手作りのもんだと以前言うとった。

 要するに色んなもんを作ったり修理したり調整するのが好きなのやろ。

 やさけ、PCの不調。ほな、直さへんとってなったらしい。


「わても寝る前の一時、みんなと話そう思うてコミュにインしたら、砂嵐になったな。昔のTVみたいに・・・・」と締めくくると、安心したのか自分のイントネーションが関西弁になっとる事に気ぃ付いた。普段は関西人以外と話す時は東京弁で話す様に心掛けとるが、関西弁で話す人と一緒の時は自然と大阪弁になる。器用な人だと良ぉ言われるが、今は驚きすぎて関西弁に戻っとったみたいや。


 何が起こったのかについて確認が一通り済むと、みんな自然と周りを見回した。

 今、己がどの様な場所にいて、どの様な状況なのかを無意識に確認しようとしたんや。少なくともわてはそうや。

 今度もまたももちゃんが「ここってジャングルやんな?しかも金色の葉っぱとか、ド派手なピンクの木がある・・・。地球やないやんな?なんぞ変やんな?これって異世界?」とみんなの同意を得ようと少し早口で話す。


「きたーーーー!異世界!」とももちゃんと同じく、ラノベに抵抗のないわてが少し興奮気味に同意する。


「え?異世界って何?他の人は知ってるのかもしれないけど、私は異世界って字面の意味しか想像がつかない・・・・」とめりるどんはちょっと引き気味や。


「えっとね、ラノベとかだと、そうねぇ・・・・。太陽系ではないどこかって一括りにくくっちゃっていいのかな?あ、でも太陽系でもいいのかも?時空すら違ったりする場合もあって・・・・。ファンタジーで魔法が使えちゃったりとか・・・・。転生するのに自分が生きていた時代より前の時代にとかってのもあるしね・・・・定義が難しいよねぇ~」

「え?魔法?」とももちゃんの説明に怪訝そうな顔になるるめりるどん。


 まぁ、常識で考えたら物語の中でなら異世界っちゅうのもありかもしれへんが、今自分たちがおる場所が異世界かどうかなんて現時点ではわかならへん。

 異世界かどうかなんてももちゃんも分かれへん中、説明らしい説明がでけへんことに困っとるらしい彼女はいつものノリで「まぁ、とにかく私たちが生きていた時代の地球ではないと思うよ。どっちにしても植生が地球だとは考えられないからねぇ」とぶった切って異世界とは何ぞやっちゅうテーマを終わらせた。

 そこでみんなちょっと途方にくれた顔になったわ。


 途方に暮れながらもずっとここにいた方がいいのか、どこか安全なところへ移動した方がいいのか、そもそも安全な場所なんてあるのかなんてことを各々が頭の中で考えとったためにできた短い沈黙をももちゃんが破った。

「ごんさん!ごんさんは、アメリカでサバイバル訓練したことあるって言ってたよね。こんな時どうすればいいか教えて欲しいんだけど。今はまだ昼間だからいいけど、このままだと、夜には危険な動物とかに襲われる可能性だって出てくるよね?」となんしかこのままではあかんと思うたらしいももちゃんがごんさんに質問する形でずんずん話を進める。


「まずは、このままここに残るか、移動するかをみんなで決めない?」とめりるどんがももちゃんの言葉足らずなところをフォローしてくれはった。


「うん、すぐに戻れる保証がないし、水も何もないところでただ時間が経過するのを待つのはかなりリスキーだな」


「うんうん、ごんさんの言う通りだね。私は飲み水のある場所、川とか?できれば集落があるとすれば、そこまで移動する方がいいと思うんだけど・・・・」とももちゃんがまだ発言しとらんわての表情を伺いながら提案して来てん。


「ここから動くと、元に戻れない可能性があるかもしれんけど、わては、移動がエエかなぁ~」

「めりるどんは?」

「私もみぃ君が言う通り、動くのもリスキーな面があるかもしれないけれど、水がある所を探すのは大事だと思う」


「じゃあ、全員移動でいいのね。それじゃあ、ごんさん、この中でサバイバルの知識があって、経験があるのはごんさんだけだから、必然的にごんさんにいろいろ質問しちゃうことになるけど、どっちの方向へ行けば水か集落がありそうに思う?」とももちゃんが絶大な信頼を込めた目でごんさんを見つめた。


「まず、水云々の前に、ここがどこかの球体の星と仮定して、最初に見極めたいのは自分たちが今いるのは北半球なのか、南半球なのかということなんだけど・・・・この星が球体で地球と同じ方向に自転していると仮定して、太陽がどっちの方向へ移動するのかを見定める必要がある」


「太陽の動きだけでは、観測者がどっち向きに立って太陽を観測しているかどうかで、北半球・南半球関係なしに左へ動いたか、右に動いたかしか分からないんじゃないの?」とめりるどんが不思議そうな顔をした。


「えっと・・・・。太陽の動きを観測するために、目印となる大きな枝とかを決めて、そして周りの木などの影の向きとか、切り株があればどっちの面の年輪の幅が狭くなっているかとかを総合して考えて、太陽の動きで北半球か南半球かわかるよ」


「え?そうなの?わかった。ごんさん、じゃあ、まずは太陽の動きの観察だけど、観察は一人が担当すれば事足りるよね?」とごんさんの説明に打ったら響く様に反応しためりるどん。

「そうだな」

 ごんさんが肯定したさけ安心したみたいで、次の段取りの確認をしたいみたいや。

「だとすると、一人が観察している間に、残りの三人は、迷子にならない範囲で食べ物、飲み物になるものを探しておけば多少安心できるし、移動の道中も食事に関しては安心できるよね?」

 めりるどんがあれしよか、これしようちゅうのは珍しいのやけど、兎に角効率的に動かんとと思うたのやろ、4人が全員で同じ事をせんでも分業すればええと考えた様や。


「そうだね。じゃあ、手分けして作業にあたろう」と次の行動指針が提示され、ももちゃんの目がちょっとランランとしてきた。

「そうだなぁ。あと、飲み物、食べ物以外に、武器になりそうなものがあったら、それも採集した方がいいな」

 誰も武器の必要性に思い至っていなかった中、ごんさんだけが武器の必要性について認識しとった。

 サバイバル経験者であるか、そうでないかの差が虚実に出た形や。

 同じ男としてわてもちょっと焦るなぁ。


「で、誰が太陽の観察をする?やっぱり今肩に痛みのあるめりるどんにここに残ってもらって観察してもらうのが一番かな?」


 コミュでの会話で数日前から肩と膝に痛みを感じとると話しとっためりるどんに収集作業をしてもらうのはできるだけ避けたいと思うたのやろ、皆に相談することなくももちゃんはめりるどんに太陽の観測の役を振った。

 男手が二人もあることもあり、女性の特権っちゅう意味でも、軽作業は女性に振りたいと思うたのも理由の一つや。


「えええ、私も採集がしたい」と抗議するめりるどんを横にしつつも、ももちゃんは「食べ物とかを採取するとして誰かナイフとか包丁とかは持って来てないよね?」とめりるどんの意見は余所にどんどん話を進めていく。


 誰も何も持っていなかったさかい、みんな残念そうな顔で首を横に振った。

「武器がなくても作ればいいよ」

「え?ごんさん、作れるの?」

「うん、作れるよ?あそこに蔦があるだろ?蔦を切れば、蔦が武器になるし、動物を狩っても解体する時も使えるし、火を点ける時の道具としても使えるし、それにみんな自宅でくつろいでいた時に飛ばされたみたいだから靴を履いてないしね」と全員の足元に目をやったごんさん。続けて、「靴なしでジャングルの中を歩くのはとってもリスキーだしな。日本は冬だったけど、ここは暑いから上着はいらんから、上着を靴にして移動するのが安全だと思うんだ。その上着を足に括り付けるにも蔦は必要だと思うぞ」と蔦の有用性について滔々と語ってくれはった。


 そうなんや、みんな寝る前の一時を一緒に過ごそうとほぼほぼ寝間着に近い服装でゲームをしとったさかい、靴を履いとらへんかった。

 ありがたいことにももちゃんとめりるどんの女性陣は上にどてらを着とったさかい、いろいろと加工しやすく、全員の靴もどきが作れるかもしれへん。


「でも、蔦って手ではなかなか切れないと思うけど?」とももちゃんが怪訝そうに聞いてくる。

「石で切れるよ」

「そっかぁ。じゃあ、食糧に関してはごんさんの方がいろいろと見つけやすいと思うからごんさんに頼んでいいかな?蔦を切るのは石を使うとはいえ力がないと時間がかかりそうだから、みぃ君にお願いしていいかな?私は、ごんさんとは反対の方向へ食べ物を探しに行くね。めりるどんは、太陽を観察しながら、靴を作るためにどうしたらいいかごんさんに聞いて、やれることがあればやってもらって、もし、作業ができなさそうなら太陽観察だけでいいかな?」とももちゃんが半ばごんさんの方を見ながらみんなの同意を仰いだ。


 いつも思うけど、彼女は決断が速い。

 あんまり考えてへんのかもしれへんけど、こないな何をしたらええんかわからへん時は、まちごていても正しくてもある程度の簡単な行動指標をみんなに提示できる人がおると集団で分業をする時はありがたい。

 ごんさんの肯定のジェスチャーを見て、みんなが動き出した。

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