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ごんさんの嬉しい日

==========<ごんさん視点>===========


 煤けたスウィング扉の木造の建物が村で唯一の酒場だ。

 ちょっとウェスタンな感じだ。

 暖簾を片手にごんさんが扉を開け、その後ろからみぃ君が酒場へ足を踏み入れた。

 蝶番があるのか・・・とみぃ君は早速新発見をした。

 

 店の中にはカウンターとテーブルが4つあり、その内テーブル2つが漁師風の男たちに占領されていた。

 カウンターには中年のオヤジが飲み物の用意をしており、店の奥には多分そのオヤジの奥さんと思われる恰幅のいいおばさんが料理を作ったりしていた。酒は、客がカウンターまで取りに行くか、オヤジがテーブルまで運んだりしていた。


 店の中年夫婦が俺たち二人を見て何か言った。おそらく「いらっしゃい」か「こんばんは」だとは思うが、言葉が分からないので確かではない。


 しょうがないので軽く頭をうなづく様に振り、カウンターでも店の奥側の椅子にどかっと座り、ももちゃんが作った暖簾をおばさんに渡す。

 みぃ君が左横にちょこんと座る。

 自分とみぃ君を指差し、日本のお酒を飲むジェスチャーをした。


 おばちゃんはちゃんと分かってくれた様で、すぐにエールの様なものが木のコップに並々と注がれて出てきた。


 久しぶりのお酒である。

 ももちゃんが猿酒を仕込んでくれている様だが、成功するとしてもまだまだ時間が係る。

 今、この時、お酒を飲もうと思ったら、この店以外の選択肢はない。


 ビールとはちがって、室温のエール。一気に飲み干し、空のコップをカウンターに置く。

 アルコール度は低く、味も雑味が強い。

 でも、酒は酒だ。

 飲めて心の底から嬉しい。酒ならなんでもいい。


 酒に飲まれる事は少ないが、日本ではほぼ毎晩飲んでいたために、こんなに長い間お酒を飲めないというのは、辛かった。

 異様に長い休肝日だったな・・・と自嘲気味に笑う。

 しかもいつもより体がちょっと軽く感じるので、休肝日も悪くはないのだろうが・・・と自嘲的に口の端が上がる。


 女っ気も飾りっ気もない酒場だが、カウンターに並べてある料理はおいしそうだ。

 女将は、渡した暖簾を嬉々として居住区との境にぶら下げていた。

 カウンターまで戻ると、お代わりを用意しながら、頼んでもいないのにつまみを用意してくれた。

 

 海の魚らしくシンプルに塩焼きしてある。その上からオリーブオイルだろうか、ちょっと香りのきつい油が申し訳程度に掛かっている。


 食べてみると塩味が薄い。でもそれを補う様に油の香りと魚肉のしっとり感が後から口に広がる。

 

「意外とうまいな・・」と横でみぃ君が小声でつぶやく。


 女将は、客から暖簾の事でからかわれているらしく、暖簾に近寄ろうとした客を手で「しっし」という様に追っ払っている。

 それがおかしいのか、数人がわざと暖簾を見る程を装い、暖簾に近づいていき、また女将が反応する。

 何度かしたら飽きたのか、客たちはまた仲間内で話ながら飲み始めた。


 木造の酒場は暗めの色の木でできており、カウンターの裏側には大き目の樽が4つほどあり、居住区との境辺りにおつまみを作るための簡単な炊事場がついている。

 入口に近いカウンターには、パンや釣り道具の様な物や、穀物などが置かれている。雑貨屋としても機能しているのだろう。そういえばこの村には鍛冶屋とこの飲み屋しか店がないので、自然と雑貨屋としても機能する様になったのかもしれないなどとみぃ君が自分の推理を披露し、それを肴にエールを飲む。

 皿洗いはオヤジの分担らしく、洗った皿を布巾で拭いている。


 みぃ君はお酒よりも、現地の料理に興味がある様で、カウンターに並べてあったきのこと野菜の煮物を頼んだ。

「う~~ん、なんで海辺の村なのに、塩味が薄いんかなぁ・・・」とか言いながら、食べきった。


 5杯飲んだところでみぃ君が、「今日はこれくらいにしとくかな~。ほんのり酔っ払ったよ」と少し赤い顔で話しかけて来た。

「おう。後もう1杯飲んだら帰ろうか」と7杯飲んでいるので後もう一杯くらいは飲ませて欲しい。

「明日も来るから、一晩で酔っ払うまで飲む必要もないしな。明日の朝にはジャングルまで罠を見に行かないといけないしな~」と普段より饒舌になっているのが自分でも分かっている。身振りでもう1杯お代わりを頼む。


 本当はぐでんぐでんになるまで飲みたいのだが、エールではあんまり酔えない。

 それよりは、毎日飲みに来られる様に、ほどほどで切り上げてエールと物々交換できる物を作った方が良い。

 

 みぃ君はもういらんでぇと断った最後の1杯を、それなら俺がと言う事で最後に2杯をきゅーーと飲み干して席を立つと女将が硬貨を数枚渡して来た。

 どうやら暖簾1つはエール14杯とおつまみ3つよりも高いみたいだ。

 この硬貨で明日も飲めるなと懐に仕舞った。


 カウンターやテーブルで飲んでいる村の男たちに軽く頭を下げ、そのまま店を出た。


 家に戻ると、女性陣は既に寝ていた。足音を消しながら寝る仕度をする。みぃ君もハンモックによじ登って横になった途端軽いいびきをかいている。


 今夜はいい夢が見れそうだ・・・。

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