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悪あがき

「うわぁぁぁぁ」また1人、黒服が仕掛けられた罠に右足を取られ、空中で宙ずりになった。

 ごんさんがロープで作った簡単な罠なのだが、地球のジャングルなら茶色のロープの色は目だたないのだが、ピンクの竹や赤や金色の植物があるこのジャングルではロープが目立つのではないかと色々と工夫を重ねた。

 大声を上げて地上から数メールの所まで吊り上げられた黒服の兵士は、声を上げたと同時に先を鋭利に尖らせて設置されていた枝に貫かれてジタバタと手足を動かしていたが、仲間の黒服たちが蔦を切って地上に卸した時には既にこと切れていた。


 ごんさんは、チッチがベッグ村で黒服たちがあっちこっちで捜索しており、ベッグ村にもそろそろ来るだろうという噂を聞きつけてからすぐ、ジャングルの中に罠を張った。

 まず、ロープを設置するのは茶系の植物の多いところに限った。

 そして罠と罠と間をランダムにした。

 ある場所では罠のすぐ隣に罠を仕掛けたり、1日以上歩かないと行けない距離に仕掛けたりと、どこに罠があるかを悟られる事をできるだけ避けた。

 ジャングルなどで罠を張る時、どうやって敵が仕掛けた罠を見つけるかというと、自分だったらどの辺に罠を張るかを考えるのだ。

 闇雲に目視だけで罠を見つけるのは、広いジャングルでは難しい。

 罠をはりやすく、見つけづらい場所というのがあるのだ。


 なので、自分だとここに罠を張ると思った所以外にも、ごんさんの罠の傾向に気づいた者を欺くために、敢えて普段なら選ばない様な場所にも罠を仕掛けている場所もある。

 まぁ、万が一、罠が一つくらい見つかったとしても他の罠にかかってくれればいいだけなので、そこはある程度の法則性を破る意味で仕掛けたのだ。




 ごんさんは王都から帰るなり、ザンダル村やグリュッグの全ての事業を辞める事を従業員らに伝えた。

 それまでの給料に加えて更に2か月分の給料を渡した。

 それらのお金は、グリュッグの各卸先からの集金で十分賄えた。

 めりるどんやももちゃんが事業利益として夏に4人で分ける様に貯めていてくれたお金は秘密の場所にあるのだが、りんご亭の中なので、今は回収に行けない。


「黒服にりんご亭を接収された。ここも接収される可能性が高い。俺たちが外国人だから接収しやすいと思っている節がある。ここも狙われると思うので、黒服に関りたくなければここを離れることを薦める。職探しの間、生活が苦しくない様に、2か月分の給料もプラスしてある」とそれぞれの工場で説明をして回った。


「この施設を使ってお前たちがそのまま事業をするのは許すが、王都の旅館をオーナーが外国人だという理由で接収されたから、十中八九、ここも黒服に接収されるので、その時、慌てない様にな。特に、若い女には容赦がないから、黒服にもてあそばれたくなかったら、速やかに他の仕事を探す事を薦める」

 ごんさんの説明に、頷く者多数。

 しかし、ドブレはぎりぎりまで水車小屋を続けるらしい。

 今やグリュックの多くのパン屋が水車小屋で挽く小麦粉で商売しているので、突然止めてしまうと迷惑が掛かってしまうからだ。


「黒服が隣町に来たら水車小屋を止めます。その意向も各顧客に伝えて、ぎりぎりまでやります」

「隣町だと遅いと思うぞ。2つ先の村くらいに奴らが来たら放棄くらいが安全だろう」とごんさんの最後のアドバイスがドブレに向けられた。

 ドブレはにっこり笑って同意する様に頷いた。


 ジャイブには船便で各工場への行き来をしてもらっていたが、4人以外ではベッグ村で作っていた天然酵母をしっている唯一の人物だ。まぁ、ベッグ村の者を除けばということだが・・・。

 黒服たちがザンダル村のジュース工場を抑えたところで、天然酵母がなければ猿酒は造れない。

「ここにお前の1年分の給料が入っている。黒服は遅かれ早かれお前の所へ来るだろう。家族を人質に取られたら知っている事を全部話さなくてはいけなくなる。その前にガクジンリンくらい大きな街に移ってくれ。生まれ育った村から離れてもらうのは心苦しいが、お前とお前の家族を守るためでもある」

 ジャイブは真剣な顔をして頷いた。

「今の騒ぎが落ち着いたらザンダル村に戻ってくればいいさ」というごんさんに、やはりジャイブは無言で頷いた。


 ジャイブの甥の12か月分の給料も渡して、やはりザンダル村から1年くらいは離れている様にアドバイスし、ごんさんはベッグ村に戻った。

先日買ったばかりの民家に積み上げられた猿酒の樽を、ベッグ村からはかなり離れたザンダル村から続くジャングルの端まで運んだ。

そのジャングルの端までは陸路で移動だが、家畜に牽かせた馬車の移動で1日以上かかる。

 チッチと二人で簡単な山小屋をジャングルの中に建て、その横に数か月かけて地下貯蔵庫を作り、その中に猿酒を保管した。


 地下貯蔵庫が出来て2か月は黒服の陰さえ見えなかったが、とうとう奴らがごんさんの隠れ住むジャングルにも足を踏み入れ始めた。

 猿酒も探しているのだが、どっちかというと外国人狩りや逃げたボルズリー貴族などのあぶり出しが目的だった様だ。

 貴族などは他国に逃げた者も多いが、未だ行方の知れない者も数人おり、貴族が相手では想像しづらいが、ジャングルや森の中に逃げ込んでいる者もいるかもしれないと様々な場所を捜査している様だった。


 ごんさんの小屋はジャングルの中で、場所を知らなければこの広いジャングルの中、行き当る事はないだろうが、見つかる可能性はゼロではない。

 罠を仕掛けると相手に誰かがこのジャングルに住んでいる事が高い確率でバレるが、ごんさんとしては、めりるどんやももちゃんの敵も討ちたい気持ちが強かった。

 順調だった事業も理不尽に摂取されたという恨みもある。

 なので、ジャングルのあっちこっちに罠をはったのだ。

 1日あたり4~6人くらいの黒服が罠に引っかかるが、それも8日目くらいから誰もジャングルに入らなくなった。


 罠にかかった奴らの内数名は怪我をおっただけだが、かなりの数を屠る事ができた。

 ごんさん的にはこれでめりるどんとももちゃんの敵を討ったつもりだ。

 まぁボルズリー国に駐屯している黒服全体の数から言えば微々たる人数だが、それでも1人だけで仕掛けたにしては上々の結果だ。


 惜しむらくはみぃ君と連絡が取れなくなった事だ。

 元気にしているのかどうか、黒服の魔の手から逃れる事が出来たのかどうかも分からない。

 前に住んでいた町にそのまま住んでいるのかも定かではない。

 4人でこの世界へ飛ばされたのに、今や独りになってしまった。

 ももちゃんやめりるどんには4人がバラバラになってしまい、結果として女だけで王都に住む事になり申し訳ない事をしたと思ったが、当日自分がりんご亭にいたら、多勢に無勢で何もできなかった可能性が高い。

 二人を助けたいと思っても助けられたかどうかは甚だ疑問だ。

 寂しくはなってしまったが、生ある者、生き続けなければならない。


 ごんさんとしては黒服にある程度報復し、なにより猿酒を黒服の手に渡らない様にできただけでもある程度の留飲を下げる事はできたので良しとし、報復に関しても一旦は区切りをつけた。


 黒服はジャングルに誰かいる事は分かったのだが、実際にはどの辺にいるのかがはっきりしない事と、これ以上死人を出してまで追いかける価値のある相手なのかが分からない事、ごんさんの仕掛けている罠が対人なのか、対動物なのかがはっきりしないという3点をもってして、一旦捜索は中止となった。


 今や黒服からの追手もなくなり、ジャングルの小屋で、ごんさんは狩りをして、村への買い出しは現地人のチッチが担当するというごんさんの新しい生活のリズムが出来上がっていた。

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