環境づくり その1
==========<みぃくん視点>===========
「おはよう~」
朝になったわ。
ハンモックから降りて、朝食の準備に取り掛かるか。
普段から家で食事を作ったりしとったさかい食事当番も苦にならのうて、手際よく食事を作っていく。
「俺、ちょっと臭いの元を確認してくるわぁ」とごごんさんが朝食前に家の横へ様子を見に行ったわ。
わてが食事を用意しとる間に、食事を摂る場所だけでもと、めりるどんとももちゃんが埃が立てへん様に、拭き掃除を始める。
すぐに朝食が出来、ごんさんも戻って来たわ。
机も椅子もないが、板間は綺麗に拭き掃除がされとんので、そのまま床にバナナの葉を敷いて食べものやスープの入った皿を並べる。
食べながらごんさんの報告を聞き、今日の作業の分担を決めることになってん。
「臭いの元は、ごみ捨て場だけだった。前にゴミをチェックした時のままで、地表にそのままごみを投げ捨てていて、魚の残骸とかもあるから結構な匂いだった。これは、穴を掘ってその中にごみを捨てて、臭いが外に出づらくするしかないなぁ。ちなみに、土を少し掘り返してみたけど、砂地なので掘ること自体は比較的楽に掘れると思う。どっちかって言うと、穴を掘る事でその辺を歩くと崩れやすくなるんじゃないかって方が心配だな」
ごんさんの説明を聞ぃたももちゃんはしきりになんぞ考えとる様子。
「ゴミ捨て場の臭い対策も必要だけど、臭いといえばトイレがないのも問題だと思うんだよね。トイレを作りたいけど、臭いの兼ね合いもあるのでどこに作るか、そしてもし必要ならモリンタから作る許可を得たいと思ってるの」
そこで一息吐いて、さらにももちゃんはみんなの顔を順番に見たわ。
「夜中とかにジャングルまでトイレに行くとか嫌だしね。中南米でいうFosa sépticaっていう移動式のボットン便所か、平安時代の川を利用した水洗便所が作れたらいいんだけどね」
彼女は、数年間、下水処理の研修の通訳してきたさけ上下水道処理については素人ながらも多少の知識は持っとる様や。
「ごみの方は、家とごみ捨て場の間に臭いを吸収する植物か、ええ匂いを放つ植物を植えたらどうや?」と思いつきを言うてみた。
「金木犀だね!でも、ここにあるかどうかは知ないけど・・・・」とめりるどんがちょっと自嘲気味に言いもても、ジャングルの中でええ匂いのする木はなかったかと記憶を辿っとる様子。
とりあえず、ええ匂いのする木を見つけたり、思いだしたりしたら、即根っこごと引っこ抜いて来ることにし、今日の作業の分担についての確認が始まった。
ごみ捨て場の臭いを消すには、めっちゃ深く穴を掘らんならんので、男性が一人残った方がええちゅうことになってん。
前の日もごんさんは罠を仕掛けとったさかい、その成果の確認と、新たに罠を仕掛けんならん。
そうなると森へ行く男性一人はごんさんとなり、必然的にここに残って穴掘りするんはわてになる。
めりるどんとももちゃんも森へ行くが、食糧調達の後は、二人で村へ荷物を運び、昼食後一人は掃除の為に村に残り、もう一人はわての穴掘りの補強を手伝うちゅうことになってん。
小屋への移動前に、ももちゃんはモリンタと話してスコップの様な道具を借りる事にし、その間にわてがごんさんのお弁当を用意する事になったわ。女性陣二人は一旦は森へ行くが、お昼には村に戻っとる予定やから、3人の昼食は村に戻ってから女性陣のどちらかが作ることになったわ。
森へ出発する前の時間を有効活用するために、めりるどんは井戸へお水を汲みに行き、ごんさんはトイレ作りの材料確保に活用すべく、村近くの竹を鉈で切り倒しに行ったわ。
ももちゃんがモリンタに家を貸してくれたことに対する感謝を表し、村人のトイレ事情を確認し、村人が穴掘りにつことった先のするどく尖った短めの戸板の様なもんを借りてきた。ゴミ捨て場の改善については、なかなか意思を伝えることができず、結局モリンタの許可を得ぇへんまま作業することになったわ。トイレについてはどないなもんなのかうまく伝える事はできなんだが、小さな建物を建てることは通じた様で、それについては許可が下りた。
家に戻るなりももちゃんは、「ここの村の人は汚物入れを家に置いて、その中身を朝、畑に撒いてるらしいよ」と報告した。
それを聞ぃためりるどんは、家族ならまだしも、そうでない異性たちの前で扉もなにもない状況で用を足すとか考えられんと、みんなが思とることを口にした。もちろん言い方はもっとソフトやったけどね。
めりるどんの意見に賛成なももちゃんはうんうんと頭を縦に振った。
「そうだよねぇ。やっぱりトイレは必要だよね。川の水を引き込んでもよいかどうか、時間に余裕のある時・・・・今日の夕方にでもモリンタに聞いてみるよ・・・・。まだ言葉が通じないからねぇ、説明するのにめっちゃ時間が掛かっちゃうんだよね。しかしこの村には畑とかないと思ってたけど、ちょっと内陸に入ったところにあるらしいよ~。どんな物作ってるんだろうねぇ」とどないして川のことをモリンタに伝えようか考えながらももちゃんは夕方までの算段をした様やった。
ごんさんの弁当が出来たら三人は早足で村を出発して行ってん。
「ふぁあ~。この暑さでの穴掘りはきっついでぇ・・。臭いも昇ってくるし・・・・」とあまりの辛さにぼやきながらも、せっせと体を動かし穴を掘っていく。
救いは、疲れたら家に戻り、水を飲んだり、少しだけ寝たりと体力の回復が見込めることや。
穴掘りがスコップやのうて、戸板っちゅうのも問題で、スコップなら柄の部分を握るだけでいいが、戸板は持つこと自体がややこしい。
頭の中ではスコップみたいなもんを作ってみようかとも思うてんけど、今回の穴掘りの他は、トイレを作る時に必要なだけやし、わざわざ作るのも難儀だちゅうことと、穴を掘れるほどの強度がある道具を簡単に作れるかっちゅう心配もあったさかい、今回は道具作りを見送ることにした。
作業を進めながら、臭いによる疲労もめっちゃ溜まっとるなと自覚する。今は少々の臭いは気にならへんくらい、鼻がバカになってはいるが・・・・。
村の子供たちが遠巻きにこちらを見て、楽しそうに声を上げとる。ほんでも近くまで来ぇへんのは、恥ずかしがり屋ちゅうことやのうて、ごみ捨て場の臭いに辟易して近寄らへんのやろ。だって昨日、人の家の中にずかずかと入り込み居座り、人の荷物を興味深そうにいろてたりしとった子たちやねんから・・・・人見知りやないのは確実や。
はぁ、子供たちでさえ近寄らんこの悪臭の真っただ中、しかも、このごみは自分たちが出したごみでもないのに、何故自分が滝の様な汗を流しもって穴掘りなんかしとるんやろ・・・・と自嘲的な笑みを浮かべてんけど、悪臭に悩まされんと寝るためには必要不可欠な作業だと自分に言い聞かしてまた作業に戻る。
あんまり穴掘りばかりでもえらいので、穴掘りを一旦中止して、以前フルーツを採集してきた時に拾ぉた木の葉っぱや、棒を蔦で括り付けた簡単な箒を作ったりして、うんざり感をごまかしごまかし穴掘り作業を進めていった。箒は家の掃除につこてもらえればいいしな。
まぁ、あれや。試験勉強の時、普段はやらへん掃除をする感覚で、穴堀りと関係ない作業を間にちりばめてしまうのは、しゃあないと思う・・・・。
深さ1mを超える穴を一辺が1.5メートルくらいになる様に掘り進めて行ってん。
浜辺に近いだけあって、水を吸うていて重たいが掘りやすい土やった。
やけど、やらかい土ちゅうのは崩れやすいもんでもあるので、ごんさんが朝、トイレ建設用の建材としてカットしてきた竹を拝借して、穴の内側を補強した。つまりマッチクイズの様な骨組みだけの補強や。
地表にほかされとったごみは穴よりももっと広範囲にほかされとったさかい、戸板をあんばいようつこて、ごみを砂ごと穴に落としていった。しかし、ゴミだけではなく砂も一緒に運ぶことになるために、これが結構体力を奪われる作業になってん。
そうこうしとる内に、女性陣が家に戻った様で、家の方向から煮炊きの煙が上がった。
このまま家に入ると臭いについてうるさく言われそうやから、井戸で水を被ってから戻る事にした。
=====<めりるどん目線>==========
朝からキャンプに戻って、村へ持って帰るものの判別を行っている間に、ごんさんは罠のところへ、ももちゃんは芋を採りに行っていた。
なんとか使える状態のものを村まで運ぶため、ももちゃん印の買い物籠をせっせと編みながら持って帰る物の判別をしていた。
今回は装飾など考えず、多少雑でもいいので、とにかく大き目の籠を最低でも2つ作るのが目的だ。
もし作る時間が足りなければももちゃんが戻って来たら手伝ってくれるはず。
そうこうする内に二人ともキャンプに戻ってきて、ごんさんの取って来たお肉と、川に仕掛けていた罠から川魚と、ももちゃんが採って来た芋と、フルーツ、小屋倒壊の影響を受けなかったラード、残っていた皿などを持って帰ることにした。
石鹸を作るための鍋は村まで運ぶ必要はないし、荷物は少ない方が良いので、小屋で保管することにした。
ごんさんはここに残って、小屋の建て替えの為の建材を集めてから、夕方、重たい荷物を村まで運んでくれるとのこと。
芋は重いので、お昼分以外は、ごんさんに任せる形だ。
皿は比較的軽装な女性陣で大切に運ぶことにした。
村まで徒歩1時間、物を持って歩くには適さない獣道をももちゃんと二人でとぼとぼと沢山の荷物を持って歩く。
歩きながら、良い匂いの木はないかと、時折気になる木を見掛けるとちょこっと脇道に寄ったりしながら漁村までの道を歩く。結局、普段は1時間の道のりを1時間半かけて村へ戻った。
今や、洗剤と塩と、砂糖シロップが手にあり、かなり所持品が充実してきたな~と思うと同時、昨日の朝話していたお酒作りが気になった。
「ねぇ、ごんさんがお酒欲しいみたいなこと言ってたじゃん?あれ、村に住む事が出来たのに、それでも作るの?」
「うん、めりるどんも知ってる通り、ごんさんの主食はお酒だから、今までよく我慢してくれたなぁ~って思うよ~」
「でも、村には酒場が1軒あったから、作らなくていいんじゃない?」
「それもそうなんだけど、お酒の価格もよく分からないし、もしかしたら高くて毎晩は飲めないかもしれないし、余ったらそれこそ売ればいいので、作ってみるだけ作ってみようかなぁ~って」
「ももちゃんはお酒作ったことあるの?」
「実はないんだけどね、酒蔵には何度も通訳に行ってるのよ。最近の酒蔵って近代化されてて、昔ながらの作り方は知らないけど、専門用語を調べるために、いろんなお酒の造り方は調べたの。それとね、スペインに住んでた時、スペイン人の友達にサングリアの作り方を教えてもらったんだ~。あれってね、ウィスキーやブランデーにフルーツと炭酸飲料を入れて作るから、猿酒と作り方がちょっと似てると思うんだよね~」
などと他愛のない話をしながら村に着いた。
みぃ君はまだごみ捨て場なのか、家にはいなかった。
でも、たっぷりの水を汲んでくれていたみたいで、竹で作った浄水フィルターの下の竹タンクは水が並々と溜まっておりすぐ料理に使えそうだし、掃除用の竹バケツにもたっぷり水が入っていた。
「みぃ君に感謝だね!」と今朝井戸で水を汲み、家まで運ぶ辛さを知ったので素直ににっこりと笑って感謝した。
水桶の横にみぃ君手作りの箒を見つけたももちゃんが感嘆の声を上げたのはそれとほぼ同時だった。