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水車小屋にて

「どうした、チッチ」

 ごんさんは水車小屋でドブレと一緒にメインの軸受けのメンテナンスをしていた様だった。

 そんな所へ、本来王都から一歩も出て来なさそうなチッチが薄汚い恰好で水車小屋へ顔を出した。


「旦那様、驚かないで下さいっす。王都が黒服に征服されたっす」

「黒服?」

「りんご亭にも良く食べに来ていた帝国の兵士たちっす。今回はたぁ~くさん王都に来て、占領したっす」

「占領?」

「はいっす」

「え?占領?」

「そうっす」


 チッチの表情は真面目で、着たきりスズメ感が否めない程薄汚れていた。だが、その恰好のせいで、チッチの言っている事に信ぴょう性がある様に見えた。とりあえず何も持たずにここまで知らせに来てくれたという事が見て取れたのだ。

 

 ごんさんは長い間、外国で要人警護等の仕事に携わって来ていたので、他の人に比べまさかと思うこういった出来事をすんなりと受け入れる事が出来る。

 受け入れるといっても、その出来事に賛同したり容認したりするという意味ではなく、そういう出来事が起こる可能性はあるということを素直に受け入れられるという意味だ。


「めりるどんとももちゃんはっ?」

 二人ではなく、グリュッグの水車小屋の場所すら知らないチッチが1人でこんな有様になりながらも辿りついた所を見ると、二人は動けないのかもしれない。

「りんご亭は接収されったっす。その時、あっしはめりる様に言われて上の階のお客さまを逃がすために別の階にいたっす。実際には見てないんすが、1階にいた黒服たちの会話が聞こえてきて・・・多分・・・」と段々声が小さくなって最後には無言で下を向きながら首を横に振った。


 ごんさんの口から声は出てこなかったが、両目は見開き、口は大きく開いたままだった。


「遺体が消えた。魔女だって黒服たちが騒いでたっす・・・」


「遺体が消えた?何でだ?嘘だろう?何で?」

 ごんさんは別にチッチに向かって言ったのではなく、思わず言葉が唇から零れた様だった。


「外国人だからその国に干渉される前にとか言ってたっす・・・。でもどういう事なのかはあっしにもわからないっす」


 ごんさんはすぐさま何らかの行動を取らなければという思いから、体が水車小屋の戸口へ向かい、一歩足を出したが、次のチッチの言葉にピタっと立ち止まった。

「王都から出たり入ったりは出来ないっす。あっしも、高いお金を払ってスラム街から脱出用のトンネルを通って漸く王都の外に出れたっす」


「それは門を黒服たちが管理してて、出入りを見張ってるってことか」

「そうっす」

 今やごんさんの顔は、苦虫を潰した様な顔になり、黙って思考を開始した。


「あっしは旦那様に知らせる前に、料理人たちには状況を知らせることが出来たっすが、女連中には伝える事ができなかったっす。あっしがシンたちの家に行った時点で、恐らくっすが、女連中はりんご亭に出勤してたはずっす」

「・・・・・。そうか・・・・」


 古今東西、戦争が起きると、勝った方は敵の財産や女を自由にしてきた。

 それは現代の地球でも変わらない。


 ただ、大東亜戦争時の日本については、慰安婦はキャンプフォロアーだったので、力づくで無理矢理女性を自由にしたのではなく、そういう事例は世界でも数が少ないのだ。

 むやみやたらと日本兵が女性を犯したと言った嘘を吹聴する国がすぐ近くにあるが、あれは捏造だ。日本を貶めるためのディスカウントジャパンという某国の陰謀で、幼い少女の像を世界各国に建て、日本が非道な国だと喧伝して回っていた。

 最近になって、その像をそっと撤去する動きがあるが、撤去するならするで、今まで日本について嘘を吐いていました。そのお詫びにこの様な不埒な像は撤去しますくらい言ってから撤去すればまだ可愛げがあるが、無言での撤去は自分たちの嘘を包み隠そうとしている様にしか見えない。


 当時の日本軍くらいだろう、婦女子を暴行する者が出ない様、プロの女性たちを数か所に集め、性病の管理すらしていたのは。兵士たちは決まった料金で彼女たちのサービスを受けていたのだ。

 もちろん、中にはそんな仕事は嫌だと思いつつも、親に売られたり、他人に騙されてそういう道に入らざるを得なかった女性もいただろう。

 でもそれは、日本政府が力ずくで彼女たちに売春をさせていた訳ではないのだ。

 そのプロの女性たちは、当時の日本政府が雇ったのではなく、そういう業者が取り仕切っており、日本政府は女性たちの健康状態、いわゆる性病の対策のため、それはひいては兵士たちの健康状態を良好に保つために女性たちの健康管理に関与をしていたのだ。その業者も某国の女衒が大いに幅を利かしていたらしい。


 恐らく、この世界でも戦争が起これば、勝者は敗者の国の女性たちを好きな様に扱うだろう。

 地球ですら、大東亜戦争当時の日本兵の様に大人しい事例は殆どないのだから・・・。


 ごんさんは、自分の意識がちょっと横にズレてしまった事を感じ、りんご亭の女性社員たちに思いを馳せた。

 ただ、恐らくは彼女たちを守る者のいなくなったりんご亭では、彼女たちは守られる事はなかっただろうと予測している。


「今すぐは行けなくても、後数週間くらいしたら王都へ入れるのじゃないか?」

「そうかもしれねぇっす。ただ、それは半分賭けみたいになるっすね」

「そうだな・・・」



 ごんさんがベッグ村の外れにあった廃墟を購入し、チッチにジャイブと舟を使ってグリュッグの酒蔵からその廃墟へ出来るだけ多くの猿酒を運ぶ様指示を出し、自分は王都へ向かって移動を始めたのは、チッチがごんさんと再会して2週間後の事だった。


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