旅立ちに向けて
男性陣が独立するということで、4人で立ち上げた会社の資産は一旦4等分に分配しなければならない。特にみぃ君は高利貸しをするのなら現金の確保は必須だ。
そこでももちゃんは次の夜、もう一度4人で話し合う事にした。
「みぃ君が高利貸しをするのなら、資金が必要だよね。もちろん、ごんさんも。で、やり方がいくつかあると思うから、それについてみんなで一緒に考えてみたいの」といつもの様にももちゃんが仕切る。
「会社はそのまま継続して、経費を取り除いた純利益だけを4等分し、運転資金を新たに4人が捻出して会社を継続するか、今ある事業を畳んで手元に残った資金を4等分するか。その場合は、4人優先でどれかの事業を他の3人から買い取るということも考えられるわね」
「ももちゃん、先に言っておくけど、私はももちゃんと一緒にいるね。だから資産の処分の仕方はどちらでもOKだよ。ももちゃんに合わせる」
ももちゃんはほっとした顔でめりるどんを見た。
「良かった。私も一人だと心細いし、男性陣がいないのに、考え方が似てて仲の良いめりるどんと離れるのは恐怖だったんだぁ」
これで女性陣二人は一緒にいる事が決まった。
「わては、純利益の分配だけでええ思うで。会社はそのまま維持して、今後そこから上がる利益も未来に渡って分配でええんやないの」
「うん。俺もそう思う」
「という事は、会社の経営を引き継ぐ私たち二人は、利益とは別に経営者としての給与を貰って、且つ純利益からはみぃ君やごんさんと同じ額だけ配当を貰うって事でいいのかな。もちろん当面の運転資金も4人が当分に出すってことも含まれるけど」
「うん。ええで」
「いいぞ」
男性陣からの了解を得る事ができたので、今度はももちゃんがまた独断で、ごんさんの方を向く。
「ごんさん、会社経営でザンダル村へ行ったりとかになると、男性の方が断然楽に行けると思うんだけど、ごんさんも経営者としての同額の給料を出せば、そういう業務は引き続き請けてもらえるのかな」
めりるどんもこれを聞いて大きく頭を縦に振り、ももちゃんの考えに同意を表した。
「うん。いいぞ。言われた日にすぐ出来るかどうかは分からんが、余裕を持ってスケジュールを組んでくれたらその部分はやるし、どうしても男手が必要な時は顔を出すし。ももちゃんやめりるどんと違って、毎日経営に携わる訳じゃないので、給料は半額でいいぞ」と同意してくれた。
「みぃ君も私たちが助けを求めたら助けて欲しいの。もちろん、みぃ君が病気になったり怪我をしたり、助けの欲しい時は迷わず私たちを頼って欲しいの。もちろん、ごんさんもよ」
「わかった。助けが必要な時は遠慮せず連絡する。それと、高利貸しをすることでみんなに迷惑は掛けん様に、普段は隣の町に住む様にしてみんなから離れて住むけど、ごんさんにも頼れん時は、わてを頼ってくれてええで。わては、自分の国を造りたいだけやねん。その為に資金が欲しいんや。喧嘩して別れるわけやないしぃ」とニコっと笑う。
「ありがとう、みぃ君。それじゃあ、みぃ君は株主みたいな立ち位置になるんだね」とももちゃんがみぃ君のコメントに頷いた後に念を押すと、「そうやな」とみぃ君から同意が返って来た。
「じゃあ、さぁ、提案なんだけど」とこれまで黙っていためりるどんが3人の注意を引いた。
「年に一回この宿で株主総会やろうよ。まぁ、株はないんだけどね。4人で集まるの。で、毎年の純利益の分配をするの。そして今後の運営方針なんかについて話し合ったりとかね。そうしたらみぃ君も資金繰りしやすいだろうし、自分だけでやってる事業が苦しくても最低限生活ができるくらいの収入が入って来て安心でしょ」
「めりるどん、その案いいね!で、毎年ちゃんと一度はお互いの無事を確かめられるんなら安心だぁ」とももちゃん。
男性陣にも反対はない様で、毎年ここのビアガーデンが開かれる7の月の真ん中の週に集まる事になった。
女性陣2人は頼る事のできる男性が身近に居なくなるというだけで、かなり不安を感じている様だが、それぞれがやりたい事をやって良いというのなら、男性陣にはそれぞれやりたいことがあったという事だ。それに、年に一度は必ず4人揃うと分かっていれば、多少気分が違う。それだけで感じる安心感は全然違うのだ。
次の日から、ももちゃんは帳簿を引っ張りだして、今現在の純利益を算出した。
ももちゃんは商業高校出身で商業簿記なら2級。長年通訳を主体に仕事してきたので、昔取った何とかという感じで一生懸命計算したり、今後の運転資金の算出を行ったりしている。
事業別に細かく複式簿記で帳簿を付けていたので、計算は早かった。
この数年でかなりの利益を得ていたので、4等分してもみぃ君が小規模の高利貸しをする分には遜色のない金額になりそうだった。
今後の事業展開に変更を加えたり、新しい事業を始めたり、大きな損失が出る場合を考えて、ある程度の運転資金を確保し、その残りを4等分することになった。
大金貨の入った袋を4つ用意したももちゃんが、再び3人に召集を掛けた。
「それぞれの袋には大金貨が110枚入ってる。だいたい5千万円ちょっとくらいの金額に相当するはず」と言って、みんな自分の袋の中の確認をこの場でする様にお願いし、確認し終えたら、その袋を右隣の人に渡す様にお願いした。自分が貰う大金貨を他の人が確認した形だ。
全員、きっちり大金貨が110枚入ってた。
「純利益は全部の事業を足して計算したところ、大金貨581枚だった。そこからそれぞれの取り分が110枚で、残りは141枚。こちらは来年度の従業員に係る人頭税や給料、舟の運用に係る税などの税金と内部留保としてめりるどんと私が保管するね。もちろん、都度ちゃんと帳簿は付けるから」とももちゃんが説明をするとみぃ君とごんさんは無言で頷いた。
「でも、大金貨141枚で足りるんか?」
「うん、そこは私自身の配当金から事業主借として資金を融通するから大丈夫」
「良く分からないけど、私の資金も融通はできるよ~」とめりるどんが付け加えてくれた。
「ありがとう。めりるどんは絶対そう言ってくれると思ったから、最初からあてにしる~」とももちゃんが悪い笑顔をめりるどんに向けると、「にゃははは」といった表情でめりるどんも答えた。
「これでみぃ君もごんさんも本当にやりたいことをやれるね」とめりるどんが言うと、男性陣は黙って頷いた。
「二人ともいつ出発するの?」とももちゃんが聞くと、みぃ君は「来週の頭に移動するつもりや。住むところも決めたから、後で新しい住所教えるわぁ。で、わてが行こう思うとんのは、王都の隣町のウィルズって町にするつもりや。そこなら、王都から歩いて半日の所やし、みんなには迷惑は掛けんで済む思うし、そこそこ近いからお互い何かあったら連絡取りやすいしな」とやはり女性陣を心配しての事だろう、移動にそれ程時間の掛からないところを選択してくれた様だ。
「俺は、みぃ君が出発してしばらくはここの様子を見て、大丈夫となったら出発するから早くてもその1週間後くらいを考えてる」と、やっぱりごんさんも残していく女性陣を心配してくれている様だ。
「二人ともありがとう」とめりるどんが少し赤くなった目をしてみぃ君とごんさんに向かって頭を下げた。
ももちゃんも「うん、本当にありがとう。二人ともちょくちょく帰って来てね」と同じ様に頭を下げた。
そして言葉通り男性陣2人は予定していた時期に王都を出発した。