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村のお家貸してください

==========<めりるどん視点>===========


 なんとか夕暮れ前に漁村に着いた4人。

 今までは最初に村を発見し偵察した時以外は、午前か、午後でも早い時間にしか村へ来たことがなかったから、村の漁師たちが村に戻っている午後の遅い時間に来るのは初めてで、これほどの成人男性に囲まれたことはなかった。

 なんかちょっと暑苦しい・・・。

 今回も、みんなを抑えモリンタが前に出てきて4人の対応を始めた。


 未だに会話ができないため、4人側からはももちゃんが一歩前に出て「ニャック」「ムー」と現地の言葉で言った。

 「ニャック」は交換という言葉で、最初に彼らと対峙した時に覚えた言葉だった。

 その後の取引で、「リョ」というのがOK、「ムー」というのがNoという意味であることは既に知っていた。

 なので、今日は取引じゃないという意味で、「ニャック」「ムー」と言ったのだろう。


 まぁ、これから家を借りたいということなので、大きな意味で言えば取引ではあるのだが、物々交換という訳ではないので、交換ではないと言ったのだ。


 ももちゃんは、徐にこの村と自分たちの小屋があったところまでを含んだ地図を描き、自分たちの小屋があるとしている場所を棒でつつき強調した後、家の絵を描き、その上からバツ印をつけた。

 バツの意味が共通でない場合もあるので、その後に丁寧に家が崩れた絵を描いた。


 モリンタには意味が分かった様で、「それで?」というようなジェスチャーを返してきた。


 ももちゃんは、今度は地図の漁村の方に家を描き、4人がそこで眠る絵を描いた。

次いで太陽が昇るところ、真上に来てるところ、陽が沈むところを描き、朝から夜までを棒で指し、残りの3人に声を掛け両手を開いて前に出してもらう様にし、自分の両手も入れて、全部で40という数字を示した。

 念のため、ももちゃんは、4人全員の両手の立てられた指を差して、再度朝から夜までの絵を指した。


 そこですかさず今だとばかりに入れ物に入った液体石鹸を持ち出しももちゃんの横に立った。

 モリンタに渡そうとしたが、みぃ君がそれを遮った。


 「何の説明もせんと渡すと、食べもんやと思われたらヤバい。先に使いかたを説明した方がええと思うで」


 みぃ君の意見に全員が賛成し、まず、ももちゃんから使いかたを説明することにした。

 自分達が持って来た雑巾を取り出し、少量の石鹸を付ける。

 水を持ってきてもらって、少量の水を上から垂らしてもらい、両手でごしごしと揉む。

 最後に残りの水に雑巾を浸け、ちょっと時間を掛けて濯ぐ。

 とりだし、絞られた雑巾をみんなの前に広げると、雑巾の汚れが劇的に落ちていたので、内心ちゃんと石鹸になっていたことに安堵しつつ、誇示する様に雑巾をさらに前に突き出す様に掲げた。


 「みなさん。よくご覧ください。ここに取り出したる雑巾は、私たちがさんざん使い古した汚れた雑巾でぇぇす。これに、この魔法の液体をちょっとだけ垂らし、この様にごしごしと揉みますと、あぁら不思議!水で濯ぐだけで、こ~~~んなに綺麗になっちゃいました。わが社の自慢のこの一品!是非1本お買い求めくださ~い」とか言い出しそうなくらい、その姿は店頭販売のおばちゃんそのものだったが、店頭販売のおばさんを知らないこちらの世界の人には手品のショウを見せられている様に感じただろう。


 一瞬ぽか~~んとした後、村の女連中がわっとももちゃんに群がった。

 手に持っていた雑巾を取り上げ、自分たちで広げてみたり、触ってみたりワイワイと姦しい。

 

 その様子を見ていると、この世界、少なくともこの漁村には石鹸は普及していない様だ。

 上手くいく様にと4人は心の中で祈る思いで、彼女たちの様子を見守っていた。


 モリンタへ石鹸液の入った容器を手渡すと、成人男性の中でもひときわ体の大きな2人と、女性陣の中でも結構年をとっている1名と話しを始めた。

 ももちゃんの絵やジェスチャーで村に住みたいという意味がちゃんと伝わったのか、今回の話し合いはとても長かった。

 

 彼らがなんと言いだすか固唾をのんで見守っていたら、いよいよモリンタが振り返った。知らず知らずの内に唾を飲み込んだ。


 モリンタは雑巾を囲んで騒いでる女たちに声を掛け、着古した服を1着持ってこさせ、その服で同じことをやってみろと身振りで伝えて来た。


 誰がやっても効果が同じであることを示すため、今度は私が、同じ作業をして同じ効果があることを示した。


 モリンタが頷き、石鹸液の入った入れ物をじっと見て思案顔になっていたが、ついにはついて来いという様に4人を何度も振り返りながら村の中へ入っていった。

 私達もすぐにモリンタについていき、1軒の家の前に着いた。

 

 この家は村のはずれに建っており、他の家とほぼ同じ大きさだが、誰も住んでいないのが分かるくらいには荒んでいた。

 ただ、柱もしっかりしているし、草で葺いた屋根もちゃんとある。

 モリンタと一緒に中に入り、中がどうなっているかの確認を行った。

 

 ごんさんが、ずいっと前に出て、縦に頭を振り、この家を借りたいとジェスチャーで示した。

 モリンタがうなずいた。


 ももちゃんが「マイマイ」と言うと、モリンタがふっと笑って首を横に振り、「ターイ」と言って、ももちゃんを指差した。

 ピンときたももちゃんが「ターイ」と言うと、モリンタがにっこり笑って「マイマイ」と答えた。


 このやり取りで、以前お皿を余分に交換してくれた女性が言った「マイマイ」は「どういたしまして」で、「ありがとう」は「ターイ」だということが判明した。


 家を借りられると理解した4人は、強面ではなく比較的人当りの良いみぃ君に代表してもらい、借家の付近に集まった大人たちに向かって笑顔で軽く頭を傾げてもらった。

 それを機に、大人たちはこの家から出て行きそれぞれの家で夕食を作り始めたが、興奮した子供たちは遠慮なんてなんのその、4人が貸してもらった家の中に居座り、彼らが持って来た荷物を広げてみたり、恥ずかしそうに4人を見たりしていた。


 子供たちは、みんな靴を履いておらず、日本人的感覚から言えば薄汚れていた。

 風呂文化はないのか体臭がしたが、それは大人も同じ事なので、これはもう諦めるしかない。

 髪は短く切っており、どの子が男の子で、女の子なのかなかなか見分けがつかない。

 もしかしたら全員男の子なのかもしれない。


 無事この家を借りられたが、今度はこの家の掃除や、彼ら自身の夕食を作らなければならず、何はともあれ水が必要だということになった。


 みぃ君が小屋から持ってきた荷物の中の竹もどきで作ったバケツを持って、子供たちに何かを注ぐジェスチャーを見せると、キャラキャラと大きな笑い声をあげながら案内してくれたのは村はずれの井戸だったらしい。


 みぃ君が水を確保している間にごんさんは、小屋から持って来たハンモックを奥の部屋へ吊るし始めた。ハンモック設置後に寝室だけ虫よけの煙を焚くのまでがごんさんの担当になった。

 家全体の虫除けや掃除は明日になる予定だ。

 女性陣2人は、持って来た荷物を出して、足りないものはないかを確認した後、ももちゃんは料理をするための用意を始めた。

 DIYが趣味な私はどこに何を置くか、修理が必要な場所はあるかを確認して回りつつ、簡単に目についた汚れ等を水拭きしたりした。


 この家は村のはずれのごみ捨て場の近くに建てられでおり、風向きによってはごみの臭いがモロに家の中に入ってくるが、とりあえずしばらく寝泊りする場所は確保できた。

「臭いけど、もともとこの村の家には窓ガラスなんてないからどうしようもないし、何か対策を取るとしても明日の朝以降だな」というごんさんの意見に、誰も反対はしなかった。


 交換したものが石鹸液1本だけで済んだっていうのは、とてもありがたかった。

「砂糖シロップも必要かと思ったけど、石鹸の効能に女性陣たちが殊の外驚いてくれたので、石鹸液一本で40日間この家を使うことができるのは、本当に助かったね」というももちゃんに、みんなも同意しつつ夕食を終えた。


 この家は寝室1つと台所付きの居間が1つの2間しかないが、台所のすぐ横に小さなスペースがあり、食糧庫兼薪置き場に使われていたのが見て取れた。


「明日、小屋へ戻って、いろんなものを持って来ないといけないけど、同時にこの家の掃除と、悪臭対策をしないといけないね。ごんさん、これを全部やるとしたら、どんな作業が必要かな?」

「そうだなぁ・・・。分業した方が効率的だと思うから、ももちゃんが言う様に必要な作業を一度全部挙げて、誰が何をするか決めた方がいいな」


「家は、すぐに修理が必要な場所はなかったね。ただ、しばらく使ってない家の様なので、掃除は必要だね」とチェック結果の報告をした。

「分かった。大まかに必要なのは、家を住みやすくする作業と、もちろん日常の食事の用意と、壊れた小屋に置いておいた物をこちらに運ぶことだけど・・・・俺が思うに、今までやってきた作業は小屋の所でやった方がいいと思うんだ。ここでやっちゃうと、村人にも作り方とかを見られて、交換材料がなくなるってことも考えられるから、そういうリスクは避けたい」

 「わてもそう思うわぁ。交換できるものがなくなるのは避けたいなぁ」

 「じゃあ、ごんさん、またあそこに小屋を建てるとか?」

 「うん、最終的にはももちゃんが言う様に作業小屋を作る方がいいとは思う。だけど、小屋を建てるのは、ある程度いろんな作業が一段落してからでもいいと思うぞ」


 まず、家に残って掃除したり、臭い対策をする者が1名。残り3名は小屋へ行き、食糧採集をしながら、必要な物を小屋から運ぶということになった。

 明日することも決まったので、今夜はもう寝ようとなったが、その時点になって4人は気が付いた。

 この家にはトイレがないのである!


 今までも森の中で用を足していたが、家を借りても同じことをしないといけないとは思いもよらなかった。トイレがないくらいだからお風呂もない。

 この辺もどうにかしないといけないと話しながらいつの間にか全員眠りについていた。

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