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マネージャーって必要?

 チョコミントというのは、りんご亭で開催したアイドルコンテストの女性出場者の内、3人の女性で組んだアイドルグループだ。

 シルバー・ソードと同様に、すぐにファンがたくさんできたが、その中心は男性だ。


 男性ファンの中には、気の荒い人が多く、毎回、彼女たちに纏わりつくファンの中には、ストーカーや、セクハラまがいの事をする人も多く、最初から予想されていたとは言え、そのことがりんご亭の4人を悩ましていた。


 そんな時、ももちゃんを尋ねて来た男が一人いた。


「こんにちは。今日はお時間を取って頂き、ありがとうございます」と頭を下げてきた男は、腰が低く、冒険者の様な少し汗くさそうな、着古した格好でりんご亭を尋ねてきた。

「いえいえ。今日は何かご提案があるとのことでしたが、何についてのご提案ですか」とももちゃんが丁寧に対応した。


「私は冒険者パーティ黒鷲組に所属しているバンヤンと申します。実は、家のパーティのバインドルって奴が、チョコミントのジャギンナさんの追っかけをしておりまして、先日、ジャギンナさんに失礼な事を言って、申し訳ございませんでした。」

「ああ、あのおじさんが所属しているパーティなのですね」と、自分もおばさんなのに、相手の事はズバっとおじさんと言ってしまう辺りがももちゃんらしい。

「はい。その節はすみませんでした」と再度、軽く頭を下げる。そしてそのまま「それに対する解決策も兼ねて、護衛として雇って頂きたくて提案に参りました」と続けた。


「え?護衛は確かに必要だけど、一度家のアイドルと因縁が出来た人を雇うのはちょっと・・・」とももちゃんは口を濁した。

「ご懸念は分かります。ただ、常に好きなアイドルの横にいられて、他のファンから彼女とその仲間を守る事ができると思ったら、バインドルもめったな事はしないと思います。それと」

「それと?」

「アイドルのいろいろな準備や時間調整など、今はももさんがお一人でされていらっしゃると聞いています。僕は読み書きもできますし、計算もできます。事務も含めてアイドルの管理を任して頂けたらと思っています。で、同じパーティの力自慢の3人が警護というのはバランスが良いと思うんですよね~。」とバンヤンが自信ありげにプレゼンをする。


 正直言って、警護は冒険者ギルドを通じて手配すればそれ程手間ではないが、タレントのマネージャーの様な仕事のできる人ができたら、ももちゃんの仕事は大分軽減される。

「バンヤンさんのご提案、確かに気になります。私一人では決めかねますので、2~3日お時間を頂いてよろしいでしょうか」

「もちろんです」


 ももちゃんはまず冒険者ギルドで黒鷲組についての評判を職員に聞いて回った。

 特出した所はない、一般的なパーティで、特に信用度が高い訳でもないが、低い訳でもないとの回答が殆どだった。


 その情報も含めて残りの3人に相談したところ、下手にストーカーされて、卑猥な事を呟かれるより、他のファンより一段高い所にいて、常に好きなジャギンナを守るという地位を与えれば治まるのではないか、もし治まらなければ、その時首にすればよいということと、マネージャー業を分担してもらえることから、ももちゃんの負担が減るという事で、黒鷲組を雇う事にした。

 でも、何よりもジャギンナに付きまといすぎて、最終的にジャギンナを泣かした経歴のある男を警備として雇っても大丈夫かどうか、アイドルたちに聞かなければならない。


 こういうのをタレントに直に確認するのはいつもももちゃんの仕事だ。

 その代わり、ももちゃんの宿の仕事は既に他の3人が分担してくれてるところも多く、最近では芸能プロダクションの様な仕事が主になってしまっていた。


「ねぇ、ジャギンナ。聞きたい事があるんだけど」

「なんですか?ももさん」

「この前さぁ、公演が終わった時、いつもしつこく言い寄ってくる男性の中で、ジャギンナの肩を掴もうとしたおじさん、覚えてる?ほらいつも卑猥な感じの誘い文句ばっかり言う冒険者の・・・」

「はい、覚えてます。私が泣いた時の話ですね」

「そうそう。それでね、その人の所属する冒険者パーティに護衛してもらうとなると、ジャギンナはどう?」

「え?どうって?」

「実は、こういう風に、あなたたちに言い寄ってくる客が多いでしょ?そういう人たちからあなたたちを守る人を数人雇おうと思うんだけど、そのポストの一人にこの前のセクハラおやじが一人入りそうなのね」

「えっ!?」

「実は、そのおやじが所属している冒険者パーティを丸々雇おうと思ってて、内一人をマネージャーっていう役職なんだけど、あなたたちや、シルバー・ソードとかの仕事の調整をする仕事に就けようかと思ってて、でも、そうなると例のおやじが警備員の一人になっちゃうんだよね~」


ジャギンナはしばらく俯いて悩んでいたけれど「ももさんは何でそんな人を私達の警護につけようと思ったんですか?」と聞いて来た。

「彼はあなたの事が好きだから、他の同じ様なファンからあなたを誰よりも守ってくれるんじゃないかと思っているの」

「え?そういうものかな?」

「そこら辺は雇ってみて様子を見なくちゃ、実のところは分からないんだけどね、やっぱりやばいとなったらその時首にするってことで、しばらく様子みれたらいいなぁっていうのがりんご亭の考えなのね。でも、あなたが常に嫌な思いをするくらいなら、最初からこの話はなしにするつもりなんだけど、さっき説明したマネージャーという仕事をその冒険者パーティのメンバーの一人は考え付いたって事で、私たちにしてみたら喉から手が出る程に雇ってみたいのよね」


 ももちゃんの説明に眉間に建て筋を入れて悩むジャギンナ。

「私が今、とてもズルい言い方をしているのは自覚があるのよ。でも、それくらいマネージャーは欲しいの」

 ジャギンナはしばらく下を見ていたが、やがて思い聞いた様に顔を上げ、ももちゃんを見た。

「わかりました。もし、こないだのおやじがまた何かしたら、すぐに首にしてくれるんですよね?」

「もちろん!」

「じゃあ、様子見しながらですが、いいですよ」とジャギンナが折れてくれた。

「ありがとう!!!例のおやじが何かしたらどんな小さな事でも私やりんご亭の他の3人に知らせてね」

「はいっ」という経緯を経て、黒鷲組はりんご亭に雇われる事となった。


 これにより、バインドルのバンヤンへの態度が180度変わったのはまた別の話。

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