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村への道

==========<めりるどん視点>===========


 朝が来た!

 ごんさんは昨夜何かを悩んでいて、遅くまで寝れなかった様だった。

 そのごんさんが、「ここで天然酵母って作れるかな」と朝食を食べている時にぽつりと言った。

 

「う~~ん、砂糖があれば、水とフルーツで作れるんだけどね・・・」と実際に作ったことがあるももちゃんが即答する。

「なら、今日作る砂糖シロップを、水と砂糖代わりとして作れるんじゃない?」

「あ!そうだね。めりるどん!いい案だと思う~」とももちゃん。

「だた、砂糖じゃないので、出来たとしても普通の酵母よりは力が弱かったり、安定してできないかもしれないよ」とふと作った事もない天然酵母を思って無意識の内に顎を人差し指でポンポンと軽くたたきいていた。横から余計な事を言って水を差しちゃったかな?


 すかさずごんさんが、「おおおお!なんでもいい。酵母ができるなら。申し訳ない!個人的なわがままなんだけど、是非作って欲しい」とせき込んで言った。

 ももちゃんは何かぴ~~~んと来たようで、にやりと笑った。「お酒を造るのね」


「あはははは!お見通しかぁ~」

「うん、全部全て〇っとお見通しよ!」と打てば響く様に返す。「じゃあ、今日は多めにフルーツを採って来てね。あ、糖度が高いフルーツの方が成功しやすいよ~」

「わかった、鳥の罠も確認したいので、朝の内に採ってくるよ」と言うなり、朝食をさっさとすませたごんさんは、仕掛けた罠を確認に行った。


「ももちゃん、天然酵母があるとお酒ができるのかい」とお酒は嫌いじゃないみぃ君が質問してきた。

「うんうん、原始的な方法なんだけどね、ドライイーストと100%フルーツのジュースを混ぜて寝かせるとね、お酒になるんだよ~。ただ、ここではドライイーストはないから、ごんさんは天然酵母って言ったんだと思うんだけど、天然酵母はドライイースト程発酵が安定していないから、多分、失敗作とかもできやすいと思うよ~」


「おおお!せやけど、成功すればお酒飲めるんやな。ほな、ジュース用のフルーツも採って来た方がええな。わて、採ってこような」

「いやいや、みぃ君。まずはサトウキビもどきを細かく切らないといけないので、これは3人でやりたい。その方が早くカットが終わるし、そうしたら次のステップへ進めやすいしね」

 「わかった、ももちゃん。ほな、先にサトウキビもどきをカットしてから、フルーツを採りに行くで」


「あ、みぃ君。ついでに燃料になる木も、また切ってきてもらえるとありがたい」と慌てて燃料となる木も忘れない様にお願いしてみた。

「ほい。わかった~」といいながら頷いて、みぃ君はそうそうに朝食の片づけに入った。


 薪は、切ったばっかりの木では水分保有量が多く煙ばっかり出てしまい火もつきづらいので、以前から、枯れ木以外にも少しづつ若い木切れも拾って纏めて屋根の下に置いている。本来は1か月くらい乾燥させるのが理想的だが、毎日拾ってくる枯れ木が足りない場合は、以前に採った薪を使うこともある。今回もみぃ君はかなりの量の薪を拾ってくることが期待されている。


 後、余談だが、火を点ける時は、まつぼっくりもどきを使うので、まつぼっくりもどきもかなりの数を拾ってストックしている。

 実は、ももちゃんがスペインに住んでいた時、3か月ばかりアビラ州の山の上にある村の別荘に住んだことがあるらしい。

 本人曰く、暖炉のある生活を一回はしてみたいと思い立ち、仕事のないプー太郎だった時に、友達と行先を確かめないでバスに乗り、ここだと思った村でバスを降り、村のバール(スペイン流の居酒屋)などで安く山小屋を貸してくれるところはないかと聞きまわった。その甲斐あって、安く別荘を借りることができ、念願の暖炉のある生活を満喫したのだそうだ。


 その時、暖炉に火を点けるのは、新聞紙などよりもまつぼっくりが良いと大家さんに教えてもらった。

 新聞紙だと灰の量が多く出てしまい掃除が大変なことと、あまりに燃えやすく、水分を多少含んだ若い薪が混じってるとちゃんと薪に火が付くまで新聞紙ではもたないというのが理由だった。


 ももちゃん曰く刺激的な生活だったそうで、当時、村で仲良くなった羊飼いのおじいさんに小さ目の斧を借りて、定期的に後ろ山に登り、薪とまつぼっくりを拾いに行っていた。雪が降った時も山に登って、振りかぶった斧をおろした時、20代にも関わらず『ごきっ』とぎっくり腰になり、雪山を這う様に降りて、なんとか別荘に戻った。もしあの時、なんとか山を降りる事ができなかったら、今ここにももちゃんは居なかっただろう・・・。



 みぃ君は早速、サトウキビに取り掛かった。

 地球のサトウキビならとても固くてカットするだけで何時間もかかるが、こちらのサトウキビもどきは確かに力を入れないと切れないが、地球のそれよりは比較的簡単に切る事ができる。女性二人は石で作ったナイフを使ってカットしているので、スピードが非常に遅い。ほとんどみぃ君一人でカットしているのと変わらない速さだ。


 それでも、女性二人のアシストもあり、昨日も追加で採集してきた分も合わせて、すべてのサトウキビもどきのカットが午前中の早い時間に終わった。

「みぃ君!採集に行く前に、サトウキビチップを布で包んで絞ってぇぇ。こういうのは男性の方が力があるからね」とうまい具合にみぃ君を使ったった。

 そんな私の横で密かに「ナイス!」と私を讃えるももちゃんがいた。


 みぃ君がサトウキビチップを絞って鍋にあまい汁が少量溜まった。サトウキビチップに少しの水を混ぜ、2番絞り、3番絞りと絞って漸く結構な量の汁がとれた。


「じゃあ、わては採集に行くで、煮炊きは任せたでぇ~」とみぃ君はすぐにジャングルの中に分け入って行った。


 沖縄土産にサトウキビをもらったことがあり、砂糖の作り方を検索したことがあるももちゃんの指示に従って、その鍋を直火に掛ける。

 ただしももちゃんの記憶は結構あいまいで、本人もその事はみんなに伝えている。

 昨日の夜、寝る前に手順については話したが、まずはももちゃんの薄っすらとした記憶の通りに作ってみて、それをたたき台にして改良しようということになったのだ。


 鍋の中身を常にくるくると混ぜる。

 この暑さの中、火の前に長時間立つと言うのは結構な重労働だが、女二人で交代しつつ何とか焦がさない事に腐心していた。 

 かなりの時間火にかけていると、ようやく液が少し粘ってきた。

 そこからまだまだ直火に掛けていたら、もっと粘度が上がって来た。


「そろそろ湯煎にしないと焦げちゃいそうだね」という声を掛けたら、ももちゃんが湯煎に切り替えた。


「ここから先、どれくらい時間がかかるか分からないけど、砂糖を入れずに作ればなかなか結晶化しないから、濃いシロップになったら火を止めて乾燥させる方がいいかもしれない。上手く乾燥できたら石で潰して粉にできるかも~」と、思いつきを言ってみた。

「うん、いいね。でも、万が一失敗したら全部ぱぁになるのが怖いから、少しはシロップのままで保管しておいた方が良くない?」とももちゃんが安全策を取ろうと呼びかけた。

 ももちゃんは、村で交換した入れ物を早速煮沸消毒し、少しシロップを詰める。

 残りは平皿に入れ、乾燥させることにした。


 煮詰めたシロップを詰め終わって、鍋を洗おうと鍋を持って川に近づいた途端、2人の背後でバリバリっという音が聞こえ、小屋が倒れてきた。


「うおおおおおお!なんだぁぁ?」と薪とフルーツを抱えて近くで採集作業を行っていた来たみぃ君が、慌てて戻って来て大きな声を出した。

 対照的に女性陣はとっさに何もできず、声も上げずに固まっていた。


 倒壊した小屋は3人のいた所までは届かず怪我人は出なかったが、小屋の柱となっていた木の内、手前側の2本が、ほぼ根本から折れていて半壊状態に近い。


「鉈もナイフもない時になんとか作った小屋だから、もろくてもしょうがないけど・・・」とショックに口をつぐむももちゃん。


 驚愕のあまり、私は言葉も無かった。その一瞬後にはもちろんショックではあったが、実は頭の中でこれからどうするのかという考えに集中していたため、無言となっていた。しかし、2人は私がショックで固まっていると思っているんだろうなぁ。


「これ、どうする?小屋を立て直すの?」とももちゃんが大きく肩を落として呟く様に言った。

「うわぁ、小屋がつぶれるとか、きっついなぁ~。しかし、また建てても掘っ立て小屋だと倒れんっちゅう保証はないし、かと言って漁村で家を貸してもらえるかどうか、いや、それ以前に貸してもらえる家があるかどうかすらわからんし・・・・。どないしたらええんやろう・・・」とみぃ君が自分の考えを思わず口に出して頭を抱えた。


 ももちゃんはまだ固まったまま、何も考えられないみたい。この世界に来て、この小屋が家だったのだ。どんなに粗末な小屋でも、この小屋の中では安心して眠れた。たとえ、虫よけの煙がけむたくても。この小屋が壊れたことで、安定感を根こそぎ持っていかれた気分だ。


 周りがパニックだと不思議と自分が落ち着いて来た。「みぃ君の意見ももっともだね。ここは作業場としてはいいけど、住むにはいろんな動物に襲われる危険性だってあるんだし、やっぱり何が何でも漁村へ行って、どこかに住まわせてもらった方がいいと思う。漁村の近くにもジャングルはあるんだから、もし家がなくても小屋を建てる建材は、ここで新しい小屋を作るのと同じ条件で集められると思う」と提案した。もう絶対野宿は避けたいのだ。その為には驚きに固まってなどいられない。


「うんうん、めりるどんの言う通りだね」と一旦同意したももちゃんだが、すぐに「はぁ・・・」と大きなため息を吐いた。小屋を失った事が相当にショックだったのだ。それでも、この提案以上の案はないということは分かっているので、「モリンタと交渉するための材料を探さないとね。今、私たちが持っていて品物として完成しているのは、塩とラードだね。砂糖シロップはあるけど、交換してもらえる量かどうかそこら辺が不安だね。ラードで家を借りれないだろうか」と続けた。


「ももちゃんが言う通りだね。ラードはいいと私も思うよ」

「う~~~ん。ラードかぁ・・・。漁村では、ココナッツオイルとか作ってへんのかなぁ。なんか交渉材料としては、弱い気がすんねんけどな。わての予想が外れるとええねんけど」

「彼らの食生活はいままで見てないからはっきりとは分からないけど、最初に捨ててある骨を見るためにごみ捨て場へ行った時は、油っぽいものは見なかったけどねぇ」とももちゃんが、みぃ君に答えた。

 

 3人でう~~んう~~んとうなっていたところに急にある物が頭をよぎった。

「あ!石鹸!昨日作った石鹸!」と声を挙げた。


「え?でも1か月は寝かせないとダメって言ってなかった?」とももちゃん。

 とりあえず見てみようということになり、小屋の近くの暗所に保管していた竹に入れた石鹸を3人で確認したところ、上半分は固形になりつつあり、一番下の層はクリームが、その中間の層にはドロっとした液体状の石鹸ができていた。


「ねぇ、この真ん中の液状の石鹸を、砂糖シロップを入れるつもりだった入れ物にいれて持って行けばどうかな?もし彼らが石鹸を持っていなかったらすごく評価してもらえると思うんだけど」と空き瓶ならぬ空き入れ物が倒壊した小屋の下敷きになって壊れていないかどうかを確かめに走った。


「うわぁ、1つ割れてる。お皿も2枚割れてる・・・。でも、シロップの空の器、1つは割れてないよ。助かった~」

 小屋の中に保管していた食器類と違って、既に砂糖シロップを入れていた器は小屋から離れた作業場に置いていたため無事だった。一方、乾燥の為に入れていたお皿は小屋の前に置いておいたので、小屋の手前側の倒木の下敷きになって割れていた。


「うわぁ~。あれだけ大変な思いをして作った砂糖シロップがぁ・・・半分台無しに・・・」とももちゃんが肩をがっくりと落として嘆いた。

「ううん、ももちゃん、違うよ。砂糖も半分は無事だったんだから不幸中の幸いだよ。石鹸がダメなら、砂糖って手も残ってるね」と敢えてポシティブシンキングを体現させてもらうよ。こんな緊急時にはポシティブ大事だからねっ。

「そうだね・・・・」と一応は同意したももちゃんだが、その表情はやはり暗い。

「よし、なら液体石鹸をこの容器に詰めよう」とみぃ君の音頭で三人はすぐに動き始めた。


 みぃ君は小屋の残骸を横に除けて、私は液体せっけんを容器に詰め、ももちゃんは小屋の中にあったものを建物の残骸の下から拾う作業を続けた。



==========<ごんさん視点>===========


 昨日は罠にかかった鳥はいなかったので、今日も取れていないかもと思い、鳥の罠のところへ行く前に糖度の高いフルーツを採取していた。


 今までここで食べた中で一番糖度が高かったフルーツは、バナナの様な実で、房ではなく一本一本が枝から分かれたかの様に成っていた。

 葉っぱならともかく、実は地上から手が届かない高さにあり、この実を採取するのはいつも俺の役目だった。


 慎重に完熟に近いものを選んで採取していく。

 ももちゃんたちが作った買い物籠に採れたものを入れていく。

 かなり溜まったので罠の方へ移動する。果たして一羽の鳥が網の紐の部分に掴まり、羽を休めていた。


『やった!』と心の中で喝采を叫んだ。

 網に鳥がとまると、飛び立とうとする時、固定されている部分がないことから足場が不安定になり、飛び立つことができないのだ。つまり足に力が入らず踏ん張れないのだ。


 万が一鳥が羽ばたこうと大きく羽を動かしても、今度は周辺の網に絡めとられ、結局罠からは逃げられない。

 網は、鳥からしてみれば悪辣な罠と言える。


 さっそくその一羽を捕まえ、解体はキャンプに帰ってからと思い、とりあえず血抜き用に鳥の側頭部に切り目を入れ、木からぶら下げ血抜きをしてからキャンプへと向かった。



「これはどうしたんだ?」

 キャンプに戻るなり残骸となった小屋と、割れた陶器のいくつかが目に入った。

 折角乾きかけていた海藻も土やほこりに塗れた状態だ。これだと、石鹸の灰としてしか使えず、スープなどの具には出来そうもない。

「あ、ごんさん。小屋が突然倒れたの」と、ももちゃんが状況を説明し、石鹸などを手土産に、漁村へ家を借りる方向でこれから交渉したいと言い出した。


「交渉できるだけの価値があると認識してもらえるかどうかわからんが、今までの付き合いで、自分たちが悪い奴でないことは分かってもらえてるとは思う。石鹸がもしあの村に普及されていなければ十分交渉材料となると思うし、もしだめでも砂糖シロップがあるからそっちでもいけるんじゃないか?」と、驚愕から少し回復して地面を睨みながら自分の頭の中を整理するかのごとく独り言に近い言葉を小声で発した。


「うんうん。ごんさん。私たちもそうだといいねって、今話してたところなのよ。日が暮れる前に村に行って、とにかく家か土地を借りれないか交渉しようと思ってるんだけど、いいかな?」


「うん、ももちゃんの言うとおりだね。じゃあ、交渉材料とハンモックを持って移動するか。じゃあ、運べない物を動物が悪さしないようにどこかに隠さないと・・・」と言いつつ周りを見回す。


 残骸を置いておく場所を目で探しながら「しかし、よく三人とも無事だったな。一人でも小屋の中にいたらと思うと、ぞっとするよ」とコメントすると、残りの三人も嘆くだけではなく、仲間が一人も怪我をしなかった幸運に気づいたみたいだ。


 「じゃあ、あそこに保管しよう。あそこならほぼ一日中日陰だったから」と、川魚の干物や海藻を乾燥する場所を組み立てたみぃ君が、小屋のあった付近の日陰になっている場所を指さした。

 みぃ君の指示に従い、やっつけ仕事で簡単な竹骨組の残骸とヤシの葉や泥で70センチ四方の物置を作ってみた。

 みんなで手分けして、今日持って行く物、ここに保管しておくものを分け、保管するものは足跡の物置に格納した。


 寝床を失って少し暗い気分になりながらも、4人は日が暮れるまでに着きたいと急ぎ足で漁村へ向かった。

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