コンテストやろうぜ!! その3
あの娘はりんご亭の斜め前にあるやまびこ亭の看板娘ね。
今、舞台で歌を歌っている3番目の出場者を見ながら思った。
歌はまぁまぁね。歌で言えば、最初の2人の方が断然うまいわ。
だけど、ジャギンナだっけ?彼女、あんなに妖艶だったかしら。
背が低くて、幼く見えるのに、目や唇がウルウル、艶々だ。
う~~ん。私ももう少し彼女くらい豊かで艶やかな髪なら、もっと着飾りがいがあったのに・・・。
それにしても宿屋の看板娘だけあって、大勢の人の前でもかなりしっかり受け答えしてるわね。
やっぱり普段から大勢の人と話したりする仕事だと、こんな風に物怖じしないで済むのかしら・
お針子って、工房の奥で作業するから、お客と直接やり取りすることってないのよね~。
だから、私は人との接し方が分からないよね~。
はぁ~、段々緊張してきた!
緊張するくらいなら、別の事を考えて平常心を保たないと!
平常心!平常心!
やっぱり平常心を保つなら、いつも扱っている服の事を考えるに限るわね。
ジャギンナの着てる服って、なんか背徳的よね~。
少女が大人の服を着てる感じがする。精一杯背伸びしてお洒落してる感じ。
でも、そこへ瞳と唇のウルウルだから、なんかわかんないけど、背徳的!
しかし、何で1番最初の人と同じ歌を歌うかなぁ?
最初の人、緊張で出だしは声が裏返ってたけど、ちょっと歌い出したらすんごく上手だったから、あれと比べられるのは不利よね~。
それでも、容姿はジャギンナの方が目を引くんだけどね。
私も、彼女みたいに妖艶さを前に押し出せば良かったかなぁ?
でもでも、今夜はお子様や主婦もたくさん来てるから、あんまり妖艶にしすぎると、女性からの反感を買いそうだし・・・。
「ロンドニさん。前の方がそろそろ終わりそうなので、こちらの扉の後ろにスタンバイして下さい」とりんご亭のウェイトレス、ルルが軽くロンドニの背中を押して、客室側の扉の前へ押す。
「スタンバイ?」
「ああ、この扉の後ろに立って待つって事です。前の方がそこの扉から入って来たら、入れ替わりでステージへ出て下さいね。ステージの上では、一度大きく円を描く様に歩いて下さいね」
「はい」
もう一度、自分の服を見下ろす。
今回は、態々服を新調した。
髪に刺した花はさっき摘んで来たものだから、まだ生き生きと咲いているはず。
この時期に咲くマグノリアの花は、今着ている白いドレスに合うと思うけど、マグノリアは髪に刺すのには大きすぎるから、白いマーガレットっぽい花にしたので、髪全体に散らばる様にたくさん刺したんだけど、似合うかしら・・・。
背が低いので、花で髪を飾ったのは子供っぽく見えるかも・・・。と、ロンドニの頭の中には今日の装いに対して、不安な気持ちが沸きあがってくる。
「ロンドニさん。では、前の人と入れ替わりでステージに出てください。」とルルが扉を開けた。
ジャギンナ、3番目の出場者が戸を潜って宿の方に入って来た。
ルルが柔らかくだけど、私の背中を押した。
舞台に足を踏み込むと、舞台の左端に位置している楽師4人が弾む様な曲を演奏している。
舞台を丸く一周。ゆっくり、歩くんだったよね。
大丈夫、今日のお昼に予行演習させてもらっているし。
ステージを一周している間、りんご亭のビアガーデンに来ている聴衆を見て、心底びっくりした。
宿の側の出口扉の横からだと、外の様子は少ししか見えないのだ。
一旦、舞台の方へ出てみると、テラスの床が抜けないのが不思議なくらい人でびっしりだ。
途端に、手のひらに汗が。
私、綺麗に見えてるかしら・・・?
「4番目は、ロンドニさんです。マリダさんの洋装店でお針子をされています。ロンドニさん、今おいくつですか?」とももさんが私をみんなに紹介してくれた。
どっと拍手が沸いた。途端に緊張してしまい、声が掠れてしまう。
「18歳です」
「今日の最年少出場者ですね。どうして歌をうたおうと思ったのですか?」
ももさんが舞台でする質問は大体前もって聞いているんだけど、舞台の流れによっては内容が追加されたり変更されることもあるって言われてたから、よく聞いていないと答えられなくなる。
「歌が好きで、よく縫物をしている時や、台所で後片付けをする時などに歌ったりして、お師匠様に叱られて・・・・あっ、そういう事ではなく、う・歌が好きなんです」と真っ赤になりながら、必死に歌が好きだと主張した。
「ありがとうございます。いつもはどんな歌を歌っているのですか?」
「特に決まった歌をうたうのではなくて、その時自然に口から出てくるメロディーをラララ~で歌っているだけなんです」
「今日もラララ~で歌われるのですか?」
「いえ、今日は『広場へ行こう』をちゃんと歌詞付きで歌います」
『広場へ行こう』も童謡で、お祭りが始まるよ~的な内容の歌だ。
りんご亭の女将さんの一人、ももさんがいろいろと話しかけて来たけど、何を聞かれたのか頭で理解できてないのに、自分が何かを言っているのは分かる。
もう一人の自分を右斜め上から見下ろしている様な、そんな感じ。
だから、自分が何をしゃべっているのか、全然分からない。
でも、変な事しゃべってないのかな?
ももさんが普通に話しかけてくれてるもの・・・。
あっ!『広場へ行こう』の前奏だ。
歌わなきゃ!
何とか曲の最初の所は、声が出た。
さっきまで自分の右斜め上から見下ろしていた感じだったのに、今は、目の前の聴衆、特に女性客の目が気になる感じで、正面から目を離せない。
ああ、もう!
どうして、私、こんな大それた大会に出ることにしたんだろう?
あの人上手だったなんて他の出場者の事を思い出しながら歌ってたら、曲が終わってしまった。
もう、自分が舞台で何をしたのか分からない。
半分泣きそうになった。
でも、アイドルだっけ?王都で歌手になってロビンとタチャみたいに有名になりたい。
だって、女性の殆どはタチャみたいな髪型にしたり、彼女が舞台で来ている服に似せた服が流行ってる。
そりゃあ食堂や飲み屋に私達女は入れないけど、お祭りの時の舞台で見たんだよね。
3日間続くお祭りの時、3日間とも、ロビンとタチャの舞台に通い続けたくらい、大好き!
私がアイドルになったら、王都中の人、いいえ、国中の女の人が私みたいになりたいって、私の髪型や、洋服を真似する様になるんだ。
はぁ~。コンテストに優勝したい・・・。
だって、アイドル?になればロビンとタチャに会わせてもらえるだろうし、少しでも裕福な男の所へ嫁に行きたし、それには、タチャみたいに有名になって、王都中の女の人が私の真似をするくらい有名になれば叶う気がする。
ロンドニの捕らぬ狸のなんたらは果たして実現するのだろうか。