コンテストしようぜ!! その2
今夜は時々演奏で出演してくれている王室お抱えの楽師たち数人を雇っている。
コンテスト開始と同時に弾む様な曲を演奏してもらっている。
ももちゃんが楽師たちに身振りで合図し、音量を絞ってもらった。
これは事前に、ももちゃんや出演者が話す時は、音量を絞ってもらう様に指示済だからだ。
「では、第一回アイドルコンテスト 女子の部を開催しますー」とももちゃんが開催を宣言した。
「最初の候補者は、大通りの金物店、看板娘のランリンスさんです。ランリンスさん、どうぞ~」とももちゃんが促すと、宿側の扉を開けて、まっすぐな腰までの金髪のかわいらしい顔をした女性が登場した。
成人しており、目が猫の目の様に少しアーモンド形で、鼻筋が通っている。
この世界ではたっぷり布を使った服はぜいたく品だが、布たっぷりの若草色のワンピースで打ち合わせ通り舞台の上で大きな円を描く様にぐるりと回ってくれた。
舞台の真ん中に戻ると、「ラ、ラ、ランリンスです」というか細い声が出た。
「ランリンスさん、最初なので緊張しちゃいますよね。ところでランリンスさんの今日のお召し物はとても素敵ですが、若草色にされたのは、やはりご自身の肌の色に合わせてですか?」と緊張している彼女を見て、とっさにももちゃんがコンテストとは全然関係な質問を投げかけた。
顔を真っ赤にしながらも、「はい」と何とか答えてくれた。
「とても色白でいらっしゃるので、明るい色は何でも合うと思いますが、クリーム色やピンク色にされずに、若草色にされた理由は何ですか?」と更にランリンスの緊張を解すため、ももちゃんが質問を続ける。
「はい、母がこの色が私に合うと言ってくれまして・・・」
「いいですね。さすがお母さまですね。ご自分の娘さんに似合う色をちゃんと知っていらっしゃるんですね。たっぷり襞のある素敵なデザインですが、ご自分で縫われたのですか?」
「半分、自分で縫いましたが、半分は母と妹が手伝ってくれました」
ランリンスの顔付きが落ち着いてきたのを見計らって、「家族仲が良いのですね。素敵です。それではそんなお洒落なお洋服を着たランリンスさん、今夜はどんな歌を歌ってくれるんですか?」とコンテストの方へ軌道修正を図った。
「『マグノリアの花が咲く頃』です」とまだ少し硬くなりながら答えるランリンス。
もともとの顔が良いので、恥ずかしそうにモジモジしていても、目の保養にはなっている。
「『マグノリアの花が咲く頃』は、家の舞台にも出演しているロビンとタチャの歌ですよね?ロビンとタチャは好きですか?」と聞くと、「はいっ!大好きです」と答えが返ってくる。
なかなか女性の客はビアガーデンには来てくれないのだけれど、りんご亭の芸人は、祭りなどの舞台に出演することもあり、店に来ない家庭の主婦などにもロビンとタチャの知名度はそこそこある。
「『マグノリアの花が咲く頃』は、二人で歌う歌ですが、今日はコンテストなので一人で歌われるということで、どんなところを工夫しましたか?」とももちゃん。
「はい、男性パートの低い声は出ないので、女性パートの高さのまま歌っても聞き苦しくない様に練習して来ました」とランリンスは答えた。
好きな歌手の話で、だいぶん緊張も解れてきた様だ。
「それでは、ランリンスさん、『マグノリアの花が咲く頃』をお願いします」というももちゃんの合図でミニ楽団が『マグノリアの花が咲く頃』のイントロを演奏しだした。
ランリンスはところどころ少し音を外しながらも、高い澄んだ声で立派に1番手を務めた。
それに対し観客は大きな拍手を送った。
この世界では女性はボンキュッパで、メリハリのあるボディが美人の条件で、全ての女性の髪は長い。
今日のランリンスは編み込みで凝った髪型などにせず、ウェブのないまっすぐの髪を強調する様に、後ろに流しているだけだ。それが、彼女に清潔感を与えており、淡い色の服と相まって可愛らしさを演出していた。
目がぱっちりとか、鼻筋が通ったとか、日本での美人に望まれるものはここではあまり重要ではなく、顔よりは体形の方が重要視される。
次に肌というか、肌の質感だ。しっとりときめ細かい肌が美人の条件でもある。
男性は、がっしりとした体形が好まれ、眉がくっきりした顔が好まれる。
女性と同じでスタイルが重視されるが、足は長い方が良いらしい。
少女漫画のヒーローの様な半分女性的な男性ではなく、筋肉がきっちりついていて、胸毛のある男性が人気だ。
まぁ、男性の場合はまず何よりも財力が重要視されるのは、地球と同じだ・・・。
世知辛い・・・。
ランリンスの次は、バルドナという女性が舞台に上がった。
スラっとした長い脚が印象的だ。背も高い。しかも、ボンキュッパだ。
舞台に上がった時、その背の高さから他の人より目立つだろうことは明白だった。
栗色のウェーブがかった髪を色鮮やかなリボンで括ったキリっとした印象の女性だ。
彼女も緊張していた様だが、背筋をすっと伸ばして、低音が魅力的な声で昔からあるパン屋の一日をうたった童謡を歌った。
ランリンスとハモらせたら、高音と低音でとても綺麗なアンサンブルになりそうだった。
3番目の女性は、背が低く、遠目に見たら本当に成人女性なのか?という感じだが、りんご亭の斜め前にある食堂の看板娘で、成人である事は王都に住む大抵の人が知ってる。
シャギンナという名前だが、量の多い金髪を複雑な編み込みにして自然の花を髪に差し込んでとってもおしゃれだ。
シャギンナが自己紹介の後、舞台の床を見つめると、そこから楽師たちが前奏を始めた。
徐に顔を上げて行き、シャギンナの少し厚めの唇が開くと、か細い声で「♪雨に濡れた石畳、馬車が横を駆け抜けていく~♪」と歌い始めた。
シャギンナも今流行っている『マグノリアの花が咲く頃』を歌った。
今日雇っている楽師たちにとっては、同じ曲を演奏するのは、練習する曲がその分少なくなるのでありがたいのだが、コンテストで同じ曲を歌うのは、候補者同士を比べ易くなるので候補者にはあまりお勧めできないのだが、やはり『マグノリア~』は今流行っている曲なので、みんな歌いたいらしい。
ランリンスの高い澄んだ声に比べ、シャギンナの声は少々か細く聞こえる。
歌の技術はどう見てもランリンスの方が上だった。
ただ、シャギンナは背が低いのに、官能的な見た目なので、容姿の部分で目をひいてしまう。
スタイルの良さは、シャギンナもランリンスも抜群に良いのだが、シャギンナの方は、その緑色の瞳がいつも濡れている様に見えたり、唇が若干肉感的だったりと、雰囲気が女性的なのだ。
同性であるももちゃんの目から見ても妖艶に見えた。
普段、実家の食堂で働いている時はそこまでではないのだが、今日の様に特別にお洒落をしている時は、それが顕著に表れている。
実際、会場の男性客など固唾をのんでシャギンナを見守っていた。