コンテストやろうぜ!! その1
コンテストはやろうと思えばすぐにでも出来る。
場所は屋上でやればいいのだし、コンテストの日は、入場料を取って、お酒は売っても、おつまみは無しでぎゅうぎゅうに人を詰めてもいい。
問題は出場者を募る事だ。
コンテストが出来る程、希望者が集まるかどうかが全てだ。
「賞金を付けるのはどや?」
「そんなに大金は用意できないよ~」とももちゃん。
「そこは、芸能人になれるんだから、賞金は副賞的な額でいいんじゃないか?」とごんさん。
「でも、賞金を付けると、賞金目当てで、優勝してもアイドルになるのは嫌って人出てくるのでは?」とめりるどんが心配そうな顔で聞く。
4人で「う~~ん」と唸っていたが、現地の人の意見を聞いてみようということになり、掃除で忙しくしていたスーラやミルに意見を聞いてみた。
「そうですねぇ。グループっていうのがあまり想像できませんが、男女のペアで歌っているロビンとタチャみたいな感じですかねぇ」と今もりんご亭の舞台に時々上がっているペアの名前を挙げたスーラは「う~む」と唸っている。
「もし、りんご亭の舞台に立てて、その後ももも様に面倒を見てもらえるなら、なりたいっていう女性は多いと思いますよ」とミルはすぐにももちゃんたちが言いたい事を理解したらしく、4人が望んでいた意見を言ってくれた。
「あ、それと、男性のグループっていうのはどんな感じなんですか?」と続けた。
「スタイルが良かったり、顔が良い男性を3~4人集めて、お揃いの服を着てもらって歌ったり踊ったりしてもらうの」とももちゃんが説明すると「ええええ!ハンサムな男の人をそんなに集めるんですか?」とかなり食い気味だ。
「まぁ、スタイルの良い男性がたくさんコンテストに参加してくれればですけどね」とめりるどん。
スーラは年の功で、「特に男性で冒険者なんかは、いつも命のやり取りをしている事に危機感を抱いている人も結構いると思うんですよね。それがみんなの前で歌って踊れば生活ができるだけの収入を得る事ができるなら、アイドルっていうんですか?そういうのになってみたいって思う人はいるんじゃないですかねぇ」とコンテストの参加者になり得る人についての考察を述べてくれた。
「ねぇ、スーラさん。女性の方はどうかな?」とみぃ君。
「そうですねぇ。アイドルっていうのになれれば、みんなから綺麗とか可愛いと認められた事になるんですよねぇ?」スーラの問いに4人が無言で頷く。「なら、若い娘は結構コンテストに参加して来るんじゃないですかねぇ。認められれば良い旦那さんにもめぐり逢い易くなるしねぇ」
この後、調理場でボルゲとシンに聞いてみたところ、そこそこ参加者は集まるのではないかと言っていた。たとえ参加者が少なくても毎年とか二年ごとに開催すれば徐々に認知度が上がるので、やらないって手はないというのが二人の共通した意見だった。
「分かった!ポスター作るよ」とお絵描き担当のももちゃんが自分の胸をドンと叩いた。
「どこに貼るんだい?」とゴンさん。
「冒険者ギルドとりんご亭内は確定やな」
「後は、近くの商店とかにも貼らせてもらったらどうかな?」とめりるどん。「お肉屋さんとか洋服屋さんとか。あ、それとももちゃんが芸人さんを斡旋してあげている食堂とか飲み屋さんにも貼らせてもらえるのでは?」
「そうだね!じゃあ、いつ開催したらいいと思う?」というももちゃんの質問に対して、「あっしには良くわかりませんが、今年のビアガーデン最後の日ってのはどうですかい?」とシンがアイデアを出してくれた。
今年のビアガーデン閉店まで後10日前後の予定だ。
声掛けには少し短い期間だとは思うが、広さから考えて店内よりもテラスの方が広いので、屋上で開催するしかないということになり、ももちゃんは大急ぎでポスターを描きに部屋へ戻った。
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今夜はいつものビアガーデンとは全然違う雰囲気だ。
何よりも客の半分は女性なのだ。
もちろん子供も結構いる。
テーブルは取っ払って1階や4人の自室の椅子など全部テラスに持ってきているが、椅子が全然足りていない。
舞台の全面にあるだけの椅子を数列並べ、女子供を中心に座ってもらい、男性はその後ろに立見席として立ってもらっている。
今日は売上に関してはあまり望めない。
入場料に飲み物一杯分だけ含めており、入口で飲み物を配っている。
つまみもお代わりも注文できない。
なぜなら、お代わりが欲しくても人でいっぱいで身動きできないからだ。
今夜は今年ビアガーデン最後の日だ。
予定通りアイドルコンテストを開催することとなった。
参加者は短い募集期間からしたら思ったより集まったが、それでもコンテストができる程の人数ではなかったので、男性・女性で日を変えず、同じ日に第1部・第2部として男女を分けて開催することにした。
女性の参加者は4名、男性は3名だ。
「こんばんは、みなさん!」ももちゃんが舞台に上がって聴衆に向かって大声で話しかける。
拍手は起こったが、挨拶の返事がなかったので、「こんばんは、みなさん!」ともう一度言い、耳に片手を当てて大げさな身振りで、みんなの挨拶を待ってるのよ~という雰囲気を醸し出す。
「「「「こんばんはーーー!」」」」と特に舞台の真ん前にいる子供たちが中心になって挨拶を返してくれた。
満足そうな笑顔を浮かべ「今日は、この王都でも見目麗しい人、歌の上手い人などにその実力を競ってもらうコンテストというイベントを開催します」とももちゃんが言うと、また聴衆から拍手が沸いた。
「みなさん、お手元に赤と白の玉を持っていますね?」と自分の手を広げて赤と白の玉をみんなに見える様にする。
入口で飲み物を貰う時に同時に渡された紅白の玉を手で持ったまま、大きく頷くジェスチャーをしている人が大勢いる。
「今夜は、まず女性の候補者に競ってもらって、その後に男性の候補者に競ってもらいます。全員の紹介が終わったら、みなさんには自分が良いと思った候補者の前にある箱に、その玉を入れてもらいます。女性の候補者へは赤の玉を、男性の候補者へは白の玉を入れてください。最後に箱を開けて数を数えます。一番数の多い人が優勝です」
聴衆が自分の説明を理解しているかどうか心配で聴衆の顔を見回すももちゃんは、理解してもらえていると判断し、説明を続けた。
「りんご亭の主人、私たち4人は審査員長として、一人で4つの玉を持ちます。もちろん、私たちも投票します。優勝された候補者には賞金として金貨1枚とりんご亭のスターとしてデビューできる権利を差し上げます。では、第1回アイドルコンテストを開始します。最後まで楽しんで下さいね」
ももちゃんの説明が終わると、客席から歓声が上がった。
コンテストが始まる前から、観客の期待値は高まっている様だった。
夏の終わりのかなり涼しくなってきた夜ではあるが、客席からの熱気で今宵のりんご亭のテラスは夏に逆戻りした様だった。