芸能プロダクションのススメ その3
ビアガーデンは、美味しいお酒と美味しい肴、夏の間は涼しい屋上で、毎晩短いながらも何らかの出し物があるのだが、席数が決まっており、客は長っ尻が多く、席が空くのは稀だ。
とうとう1階でも音だけでいいので、舞台の様子を聞きたいという要望が多く出る様になった。
「伝声管でも付けるか?」というごんさんの一言で、伝声管を設置することになった。
舞台の真正面に床から1メートルちょっとの高さに収音するためのラッパ状の管が設置され、そのまま銅の配管を男性用の大部屋の天井や柱を這わせ1階まで下ろし、1階の食堂の天井からラッパの様な管がやや下向きになる様に取り付けられた。
もちろん、男性の大部屋で寝泊まりする人たちを騒音で悩ませる訳にはいかないので、大部屋部分の銅管は漆喰の壁材で覆っている。
マイク程はっきりは聞こえないが、それなりに音が1階でも聞こえる様になったので、夕食の時間が終わっても、1階ものんべぇたちが居座って飲んでくれるので、りんご亭のよい収入になっている。
最近では唐揚げも肴として出しているので、売り上げはうなぎ上りだ。
りんご亭は宿泊しなくても、夏に王都に来たら一度は寄れと言われる程の名所となっている。
もちろん清掃が行き届いた綺麗な宿としても名を馳せているので、宿泊客にも困っていない。
ドンパの事件後に、食材の仕入れ先、宿の掃除した時間、油の交換時間について知らせる黒板は、今も毎日記入はされているが、折角みんなが忘れてくれてるドンパ事件を思い出させない様、最近では調理場横の目立たない場所に掲示されている。
今や、ももちゃんの管理している台帳に登録されている人たちはエンターテイナーとして一角の人という扱いになり、多くの人が登録を希望してきた。
芸人たちにとっては、リンゴ亭の舞台を踏んでいるというのがステイタスであり、多少手数料を取られても、リンゴ亭のももちゃんがお墨付きを出した芸人として仕事を斡旋してくれるというのは旨味があるのだ。
一部の衣装の貸し出しもやっており、りんご亭の芸能部門は、ほぼほぼ芸能プロダクションの様になってきた。
「なぁ、アイドルってやらへんの?」
プロダクションの仕事で忙しそうにしているももちゃんに、横で手伝ってくれていたみぃ君が唐突に聞いてきた。
「アイドルぅ?」
「そや。」
「アイドルって、あのアイドルぅ?日本の様な?」
「そや、それや。」
う~~んと腕を組んで悩んでいるももちゃんは何かちょっとおっさんっぽく見えたが、妻への対応で女性の扱いに慣れているみぃ君は、懸命にも何か言わなかった。
「こっちって、日本みたいに若いというか、幼い子対象におじさんたちがキャアキャア言うかな?」とももちゃんはアイドルに懐疑的な様だった。
「う~~ん。若い子でなくてええんやないか?」
「え?おばさんでいいってこと?確か大阪にいたよね?おばさんだけのアイドルグループ・・・。」
「いや、そういう事やなくて・・・。」とみぃ君は右や左に目線を動かし、再びう~~んと唸っている。
「思うんやけどな、成人した若い女性3人くらいのグループで、こっちで用意した曲を歌いながら、アイドルっぽく踊るみたいな・・・。」
「う~~ん。みぃ君のアイデアは、なんとなくわかったけど、それって需要あるのかなぁ?みぃ君が言いたいのって解散した頃のキャ〇ディーズみたいな感じ?」
「そっちでもええんやけど、わてが考えてたのは海外の若い頃のT〇C的な大人な感じかなぁ。」
「若い頃のTL〇って見た目的には結構若い気がするけど・・・フリフリの服とかじゃなかったから・・・う~~ん・・・見た目がロリに走らないのなら、日本のアイドルよりはまだ可能性があるかも?」とももちゃんも少し乗り気になった様だった。
「わては、少女ユニットでもええ思うけど、まだこっちの世界には早いかもしれへんなぁ。」
「うん、だってアイドルなんて作ったら、客から性的な嫌がらせとかも普通に受けそうだから、ある程度年齢がいっている人たちじゃないと、危ないよぉ~。」
「まぁ、宿屋のウエイトレスが玄人の女性扱いやから、芸人も結構そういう対象として見られる可能性は否めへんなぁ。」と、二人はどんどんアイドル作戦について意見を交わす。
「とにかく今晩、夕食の後にでも、残りの二人の意見を聞いてみる事にするよ!みぃ君ありがとう。」と一旦はアイドル作戦についての話はお仕舞にして、二人はその日の仕事を続けた。
その日の夕食は、果実のジャムを使ったつけ汁に漬けてから炭火焼きした焼肉に付け合わせのサラダとパセリバターもどきを塗したお芋、汁物はいろんな野菜をミックスして作ったポタージュのスープだった。かぼちゃが甘味を、少量のだいこんが出汁的な役割を果たしていて、とっても美味しい一品だ。
最近4人は居間で食事をしている。
もう、少しの時間くらいなら、現地の社員だけで店を動かせる事が出来る様になったからだ。
最近、4人が食べているのはかなり良い食事で、調理人もいることから彼らに頼んで手の込んだ料理作ってもらい日常的に食べるている。
ただ、料理人に作ってもらっている目ぼしい料理は4人が調理人に教えたものが多い。
おいしい料理だけれど、手間や材料の事を考えると、りんご亭の客層には出せそうもない高級料理だ。
「ごちそうさまぁ~。最近、日本程じゃないけど、いろんなバリエーションの料理が増えて楽しいね。」とめりるどん。
「わてらにとって、日本料理はおいしいと感じるけど、調味料も含めて日本の食材は安全やないのが多いからなぁ。」
「ああ、日本に来る外国人もそういう風な事言ってる人結構多かったなぁ」と、みぃ君のコメントにポツリと返すももちゃん。
「食品添加物とか他の国では使用が禁止されとるものもつこぉてるケースがあるしね。」
「そう言えば前にももちゃんが日本のお酢は嫌いで偶に食べれないとか言ってなかった?」とめりるどんがももちゃんを見た。
「うんうん、メーカーにもよるんだけど、醸造とかを自然にやってなくって、機械的?って言うのかな?無理やり早く醸造させてるお酢とかが苦手で・・・。そういうお酢を使って作った料理って口に入れると口の中を何かで刺されてる気がするんだよね。」
「へぇ・・・。やっぱ、ももちゃん敏感なんだね。」
「え?そうかなぁ・・・これって敏感ってことなのかなぁ・・・。」
「日本政府って、結構危険な食材とか取り締まりしてないよな。」とごんさん。
「だって、お隣の国の魚介類って人糞が混じってる事が何回かあって、ほとんどの国が輸入禁止にしているのに、日本だけは一度も輸入禁止にした事ないって聞いた事があるぞ。」と続けてどうして危険なのかについて解説を始めた。
「あっ、それ、私も聞いた事がある。しかし、それって本当なのかな?」
「う~~ん。本当かどうかは分からないけど、昔、ア〇リカからオレンジやレモンを輸入するのに、アメ〇カ国内では発がん性があるので禁止されていた防腐剤系の薬品をたっぷり振りかけてから日本に輸出しているっていうTV番組を見た事があって、TVが言ってた事が本当かどうか分からないけど、私はその国のものは買わなくなっちゃったなぁ。」とももちゃんが締めくくりつつ、バンと軽くテーブルを叩いた。
「こういう話も大事だけど、実はみんなにエンタメの事で相談したいの。」
「なになに?」とめりるどんが体を乗り出して爛々と輝く目でももちゃんを見つめた。
「今日、みぃ君からの提案があって、アイドルグループを作ってみたらどうかって。」
「うん、TL〇みたいな成人女性の3人組の様なそういうアイドルグループってどうかなって思うて。衣装や曲もこっちで用意しぃ、ダンスの振り付けもしてって。」
「〇LCって良く知らないけど、こっちの人に少女アイドルってうけるのかなぁ。」とめりるどんはこの案に懐疑的な様だ。
「そうやのうて、二十歳過ぎた様な成人した女性のグループな。せやけど、あんまりお色気路線やない方がいいかなって。」
「お色気路線だと、ほら、セクハラとかの被害が酷そうだしね。」とももちゃんが横から口を挟む。
「ああ、そうだな。お色気路線は家の店ではちょっとまずいな。」と、ごんさんは鼻の頭を指でかきながらポツリと言った。
「う~~ん。確かにユニットみたいなの形成したらお客はもっと喜ぶかもしれないねぇ。」とめりるどんは何か考えている様で、彼女の視線は右斜め上を向いたままだ。
「それでね、この世界でもアイドルって成立するかどうか。成立するならどんな感じならうけると思うかっていう意見を聞かせてもらいたいのね。」とももちゃんはごんさんとめりるどんの方を向いてもの問いたげに頭を少し傾けた。
「いいんじゃないか?お色気路線だと荒くれものたちに玄人のお姉さんたちと間違えられていろいろ危ないかもしれないが、歌って踊るだけで、清潔そうなイメージを前面に出せばいけるかもなぁ。」とごんさん。
めりるどんはまだ意見を言ってないので、ももちゃんはじっとめりるどんを見ているのだが、めりるどんはまだ右斜め上を見ている。
「う~~~ん。」両腕を交差して組んでいためりるどんが、しばし唸った後で、バンと軽くテーブルの上を叩いた。
「ねぇねぇ、そのアイドルグループの娘たちはどうやって探すの?」とニヤリと笑ってももちゃんを見る。
「う~~~ん。そんなところも考えないとだねぇ。」とももちゃんが言うと、わが意を得たりという感じのしたり顔でめりるどんは自分の席から立った。
残りの3人が食後のテーブルに着いている中なので、ちょっと異質な感じだ。
「アイデアがあるのっ!」
3人がめりるどんのアイデアを聞きたくて座ったまま身を乗り出す。
「アイドルコンテストを開催するの!」
「「「おおおおーーー!!!」」」
「もちろん、私たちが審査員長なんだけど、お客さんにも審査員になってもらって投票してもらうの。そしたら、お客さんたちがどんなアイドルを求めているかも分かるしね。それにデビュー前から知名度上がるじゃん?」
「「「おおおおーーー!!!」」」
「それいいっ!!!」ももちゃんも席を立って、無意識に握りこぶしを作り体の前で縦に振っていた。
「しかもね、私のアイデアはそれだけじゃないよぉ~。」
「「「おおおおお~~。」」」
「ふふふふ」と指を一本立てて横に振る。「女性だけじゃなくって男性ユニットも結成するために、2回に分けてコンテストすれば、女性客もここに来る様になると思う~。」
「「「うぉおおおおおーーーー!!!」」」
3人の上げた声がとてもでかく、チッチが様子を見に来た。