ある冒険者パーティのとある一日 昼
「うへぇ、暑っついなぁ。直射日光避ける場所がないのはきっついなぁ。」
ここは王都周辺の森の中、材木伐採集積所なのだが、名前は立派でもその実切った木材を野ざらしにしているだけの森の中の空き地だ。
「バインドル、おまっ!声に出して言うなよ~。余計に暑くなるだろうが。」
「お前も今、暑くなるって言ったじゃないか。」
「おまっ!」と黒鷲組という冒険者パーティのメンバーである、バインドルとシルビオのいつもの掛け合い漫才の様な会話が発動した。
「お前ら、無駄口叩くなっ!ほら、運べ運べ。」とこのパーティのリーダーで筋肉隆々なのに背は低いガルバンが丸太を肩に担ぎ上げ、二人の横を通り過ぎ、馬車に繋がれた荷台へ歩いて行った。
「お前が余計な事言うから叱られたじゃんか。」
「おまっ!」
「何だよ。ちゃんとお前って言えよ。何でお前はいつも言葉の終わりまでしゃべれねぇの?」とバインドルが背の高いシルビオを見上げて揶揄する。
材木を肩から下して言い合う二人の後ろから、にょきっと拳骨が現れ、「ゴツ」という音がする程強く二人の頭を叩いた。
「無駄口叩かず、さっさと運べ!」と、ガルバンは先ほどより強い口調で叱った。
「うへぇぇ~。」
「ほい。」と二人は言い合う為に斜めにして地面で支えていた丸太を肩で支えやすい様に、少しずらして持ち上げた。
バインドルは中肉中背だが、しかるべきところに筋肉が付いている。
普段から肉体労働をしているのは、その体つきを見れば分かるくらいには逞しい。
それは背が高く痩せていると言えるシルビオも同じだ。つくべき所に筋肉がしっかりついている。
その横を背は一般的な高さだが、筋肉のないひょろひょろの男が直径の小さい材木を馬車へ運ぶために通り過ぎた。
「ちっ!」
自分たちより軽い材木ばかりを運ぶその男を見てバインドルが舌打ちした。
それを咎める様な目でシルビオは見たが、実はシルビオもその男が細目の材木だけを運ぶのを良しとしているわけではない。
その細身男は、先日彼らのパーティ、黒鷲組に加入してきたバンヤンという男だ。
彼ら4人組の中で唯一文字を読む事ができ、簡単な計算ができるので、前任者が故郷に帰る為にパーティを抜けた時、仲間にしたのだ。
前任者も文字が読めたので、力仕事で即戦力にならなくてもパーティ加入を許していたが、バンヤンは前任者に輪を掛けて体力がないのだ。
一日中、ほとんど休憩なしで力仕事を熟す3人に比べ、バンヤンは軽めの物しか運べないし、工事なんかの仕事の時も体力がないので頻繁に休憩をとる。
そんなお荷物を抱える事に対して、バインドルもシルビオも納得していないが、リーダーであるガルバンから冒険者ギルドに張り出される依頼を読むのも、仕事の報酬が約束された金額でちゃんと払われているのか確認する時も、また、それを決まった割合で配分するための計算をするのも、バンヤンでないとできないので、多少の事は大目に見ろと言われている。
まぁ、体力がないので3人の半分くらいの力仕事しかできないけど、何もしない訳ではないので、声に出して文句は言わないが、面白くはない。
「はぁ~。」と大きくため息をつき、バインドルは木材を荷台まで運ぶ。
「お前ら、後少しだから、ちゃっちゃとヤレよ!」とリーダーが材木を肩に、彼ら二人を追い越して行った。
「ガルバン!今夜はりんご亭にしてくれよぉ~。」とバインドルが情けない声をガルバンの背中に投げつけた。
これは、夕食はりんご亭のビアガーデンにしてくれという意味だ。
「おれもっ。りんご亭に1票。」とシルビオ。
「よし、これを後1時間で完了したら考えてやるよ。」つまり、材木運びの仕事を時間までに終了したらというガルバンの一言に、みんなの作業スピードが若干上がった。
黒鷲組は、商人などの護衛や森で狩りをするのではなく、王都横の森で材木運びや王都内での力仕事をして糊口をしのいでいる。
まぁ、いわゆる日雇い労働者と同じだ。
だた、パーティを組んでいるので、工数が多い仕事などの時は単身の冒険者に比べると良く声が掛かる。
今日は森の切り出された木材を馬車で王都まで運ぶのが仕事だ。
3往復、これが今日の契約だ。
森から王都まで、真夏の炎天下で日光を遮るものがない道を馬車で移動するのは馬もバテるし、馬車に歩きで付き従う彼らにも、決して簡単な仕事ではなかった。
馬車は御者役の一人しか乗れないのだ。馬車の荷台は木材でてんこ盛りだ。
しかし今は心なしか歩みが早い。
何故ならこれが3回目の復路なので、一旦木材を王都に下すと、馬車を王都内にある材木倉庫へ返しに行くだけで今日の仕事は終わりだ。
馬車を返すのは、御者役の1名と護衛役1人だけで良いので4人の内2人は、王都に着き次第、本日の仕事は終わりになる。
御者役は、計算が出来るバンヤンであるのは確定している。
残りの一人はシルビオかバインドルのどちらかになるのだが、二人とも自分ではないと思っているので、その足取りは少しだけ軽やかだ。
王都に着くとすぐガルバンが、「今日はシルビオ、お前がバンヤンと行け。」と言われ、ブツクサ不貞腐れながら倉庫へ向かったが、バインドルの方も、「ビアガーデンの席取りして来い。」と言われ、汗まみれのまま、りんご亭へ向かった。
出来るだけ早い時間に行かないと、舞台が良く見える良い席はすぐに客で埋まってしまうのだ。
リーダーのガルバンは一度宿に戻って体を拭いて来るつもりなのだろう、りんご亭には直行せず、宿屋の方向へ消えていった。
バインドルは羨ましいとは思うが、元々入浴などという習慣を持ち合わせていないので汗まみれのままりんご亭へ行く事にそこまで抵抗はない。
リーダーの気が変わる前にと、さっさとりんご亭へ向かった。