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次の一手

 結局、その日の最後の案件が終わって、ももちゃんがポテトフライを食べて2時間以上経ってもピンピンしているのを確かめた上で、王様は揚げ物が安全な食べ物であること、ドンパが古い油が危険であると知っていたのにそれを守らず調理し、人死まで出したこと。その人死の被害者がまだ幼くか弱い幼子で、その両親をはじめ親族に多大なる悲しみを与えた事。そして古い油についての情報を知らなかったと嘘を吐いて他者に罪を被せようとしたこと。今回の事件で、りんご亭の営業を妨害した事などを声高らかに宣言し、ドンパへは舌に穴をあけ、嘘つきの仮面を2か月被ったままで生活し、寝る時も含め取る事を禁じる罰を言い渡した。


 2人の子供の親たちはドンパに極刑を望んでいたのだが、ドンパが古い油で調理してはいけないと言われていたとしても、それが人の死を招く程酷い事になるとは認識していなかったと判断した王は、今後調理人として働けない様に、舌に穴をあける罪が妥当だと思った様だった。


 子供たちの母親たちは悔しくて泣き崩れてしまったが、王様の判決に不服を申し立てているとみなされると平民である彼らにはとてつもない問題になってしまうので、夫たちが慌てて妻たちを抱えて舞台から捌けて行った。


 ドンパの方は、これ以上料理人として働けない様、舌に大きな穴を開けられた。それ以外にも嘘つきの仮面は、あっちこっち出っ張った形になっており、被ったまま横になることは難しい。つまり、仮面を被っている2か月間はベッドで寝る事は無理なのだ。椅子に座ったまま寝るか、他の何等かの方法を見つけなければ寝る事すら大変である。

 仮面には、舌に開けられた穴に通すために、太い管の様な物があるのだ。つまり、舌が常に口の外に出された形となり口を閉める事ができず、食事を摂る事すら難しい。

 

 仮面を被ったままで長期間生活せよというのは、睡眠と食事を摂りづらくし徐々にドンパを弱体化し、自ずと亡くなる事を狙っているという意味合いもあるらしい。

 調理人のボルゲが言うには、こういう仮面系の罰は、せいぜいが1週間、どんなに長くても2週間が普通であるのに、ドンパに関しては2か月なのだ。そこに王様の狙いがある様に解釈されるということらしい。

 2か月間その状態でありながらも生き延びれば、禊が済んだとして普通に生活できるのだが、睡眠や食事が満足にできなければ2か月間という期間は相当に長いので、恐らくだが、生き延びるのは難しく、すぐに処刑されるより残酷なのだそうだ。


 判決が下された後、リンゴ亭の面々は舞台から降りていた犠牲者の肉親に再度お悔やみを言った。

 それと同時に自分たちが発信したかったことを群衆に無事発信でき満足し、その機会を与えてくれたゴルミ副長の元にお礼に行った。

 「ゴルミ衛兵副長、この度はありがとうございました。りんご亭が安全な食堂だとこれだけの群衆の前で繰り返しおっしゃって頂き、本当に助かりました。」とごんさんが代表して礼を言った。


 「いや、なに。この前の調理教室の時、味見したポテトフライが美味しかったからな。」と照れた様に頭をかきながら軽く会釈をし、部下たちがいる方へ歩き去った。


 4人は深くゴルミの背中に頭を下げた。



 裁判の後、中央広場からりんご亭に戻って来た面々は、それぞれの仕事を始めた。

 ボルゲとシンは調理の下準備を。スーラたち女性3人は掃除などを。

 めりるどんはももちゃんが前日にステンシルしてくれた70センチ×1メートルの黒板と椅子一脚を持って食堂の表に出た。

 黒板には表とりんご亭のマーク、文字が読めない人たちのために何について書かれているか分かる様にイラストがステンシルされていた。            


 表は、上下2部に分かれており、上部は『油交換』『客室掃除』『ベッドの干し草天日干し』と3行あり、それぞれ『日時』と『担当者』を書くマスがある。

 表の下半分は《本日の生産者》というサブタイトルがあり、その下に『じゃがいも』『にんじん』『玉ねぎ』『肉』の文字とイラスト、更にはそのすぐ下に複数行の空白の欄があり、右半分には生産者の名前を書くマスがある。

 『肉』の行から下は日替わりのメニューによって使う野菜が違うので、自由に書き込める様にしてある。

 自由に書き込める野菜などの欄も生産者の名前を記入できる様にしている。

 そして、この黒板はあちこちに野菜の絵などが書き込まれ、可愛い仕上がりにしてある。


 この黒板には、今日の情報が既にきっちりと記入されていた。

 表の定食メニューの看板の横に、椅子の上に乗せてその存在をアピールする様に配置された。


 嬉しい事に、裁判のすぐ後から、女性客を中心に僅かだが宿泊客が戻って来た。

 まぁ、以前の半分以下ではあるのだが、たった二人までに落ち込んだ客数の状態から、十数人戻って来てくれたのだ。ありがたい限りだ。

 ヴィスタとオイード2人の女冒険者は、今回戻って来た他の冒険者に、「だから私たちが言ったじゃん。この宿は清潔なんだから食べ物も安全だって。」等と言っているのを見かけて、思わず4人の頬が緩んだ。

 本当にヴィスタとオイードには、この事件の間中りんご亭に泊まり続けてくれて、応援の言葉も掛けてもらって感謝しかない。

 今夜にでも感謝の気持ちでメニューにない料理を提供する事にした。

 唐揚げである。


 「んんんん!何、これ。おいしいんですけどぉ。」

 「肉が柔らかいし、ジューシー。」と、二人が大きな声で感想を言ってくれる。

 今夜は食堂にも事件前程ではないにしろ、ぼちぼちお客が入ってくれているので、二人の感想は良い宣伝になっている。


 赤い制服でなく、黒い制服の軍人も相当数客として来てくれ、美味しそうに猿酒を何度もお代わりしていた。

 実は、この黒い制服の軍人はこの国の兵ではないのだが、4人はこの国の軍事や国防についての知識はないので、何とも思わず接客をしていた。

 黒い制服の方は、赤い制服よりも銀髪の人が多いなくらいの感想しかなかった。


 反対に赤服を着た人はこの日は誰も来ていなかった。

 私服で来ているから4人には分からないが、実は衛兵の人たちもかなりの数来てくれており、今夜のりんご亭は息を吹き返した様だった。


 「ポテトフライ1つ!」

 「はい、ポテトフライ1丁!」

 「定食をくれ。」

 「はい、定食1丁!」

 りんご亭の食堂の中でオーダーの声が聞こえたのは本当に久方ぶりだった。


 食堂の端っこの方に座っていた男性3人は、赤い制服を脱いだ衛兵たちだった。

 「おい、なんでゴルミ副長はりんご亭にあんなに尽力したんだ?」

 一番横幅のある、茶髪の男が聞くと、「あれっすよ。副長の妹さんが、例の料理人をここに紹介した人の奥さんと親友なんっすよ。」と、小柄な男が答えた。

 「へぇ、副長の妹がねぇ。世の中ってどこでどう繋がっているのか分からんもんやなぁ。」と一番背の高い男が猿酒の入ったコップを煽った。

 「まぁ、どっちにしてもここの猿酒がまた飲める様になって嬉しいっす。」

 丸顔の男が嬉しそうに言い、猿酒のコップを飲み干した。


 事件前ほどの客はまだ戻って来ていないが、それでもかなりの数のテーブルが客で埋まっているのを見て、ごんさんはまた誰かがザンダル村に猿酒を取りに行かないとなぁと思った。

 

 みんなよりも早めに仕事の時間が終わってしまうスーラ等は帰宅する時間になっても店再開が嬉しいあまり、かなりの時間までサービス残業をしたりしていた。


 店じまいをする前、4人は自然と居間に集まった。

 「解決して本当に良かったね~。」とももちゃん。

 「そうだな。」とごんさんが頷く。

 「めりるどんのお陰やな。」

 「そんなことないよ。みんなで頑張ったからだよ。」と謙遜するめりるどん。


 「本当に今回の事では、めりるどんに感謝や。」

 「「うんうん。」」

 めりるどんの顔は若干赤い。照れている様だ。


 「そこで、皆さん!」とももちゃんが立ち上がる。

 3人の耳目を集めながら「ここでもう一押ししないと、りんご亭は元の賑わいを取り戻せるかどうか分からないんじゃないかと思うんだ。あれだけ安全って言われても、一度ついた悪い印象は払拭する事は難しいんじゃないかと思うの。」と、みんながホッとしているにもかかわらず、爆弾を落とす様な事を言う。


 「え?ももちゃん、やめて。何フラグ立ててるの?」とめりるどんが慌てて言うが、ももちゃんは片手を前に突き出し、ちょっと待ったのポーズをする。


 「私、考えたの。これから夏じゃん?」

 3人が頷頭する。

 「それでね、屋上でビアガーデンやるの。ステージも作って、音楽みたいな?そんな催し物もするの!それで今回の事件のイメージを払拭して、新しい流行を作るのよ!」と言い出した。


 元々ビアガーデンについてはめりるどんのアイデアだったし、それには男性陣も賛成していた。

 ももちゃんが今回提案したかったのは、ただビアガーデンを始めることではなく、エンターテイメントも同時に提供するということなのだ。

 果たして劇場さえないこの世界に、ももちゃんたちは芸能・娯楽を根付かせる事は出来るのか。


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