ドンパ事件 その4
衛兵3名がりんご亭を後にした直後、「すごい!めりるどん。よく衛兵をここに連れて来て調理法を説明する事を思いついたね。」とももちゃんが弾んだ声で言った。
「せやな。」とみぃ君が頷く。
「私も、何か手はないかと思ってて、これが裁判の証人として発言させてもらえることに繋がるとは思ってもみなかったのよね。ただただ、日本で言う警察にあたる人たちに、家の料理は安全で、ドンパの事件とは無関係だって知って欲しかったのよ。」と若干顔を赤らめて早口言うめりるどん。
「いやぁ、衆人環視の前で自分たちの言い分をぶちまけるチャンスがあるっていうのは、一歩も二歩も前進したと思うよ。」とももちゃんも破顔を隠しもせず言う。
しかし、めりるどんは「チャンスはもらえたけど、群衆に何を言うかで全ては決まると思う。」とまだ口調が硬かった。
「うん。めりるどんの言う通り、何を言うかが大事だな。」とごんさんもまだ硬い口調のままだった。
「ただね、焼きそばの有名メーカーの虫混入事件の時、紆余曲折はあったけど、最後には乗り切った事例があったから、それを参考にしようかなと思ったの。」
「え?どういうこと。めりるどん。」と、ももちゃんはその事件を知らなかった様だ。
「ほら、食中毒って言えば、日本では乳製品とかカイワレとかがあったじゃん?で、そういう事例からも大会社ではなく小さい企業の場合、つまり企業そのものに体力がない場合には、店とか会社は潰れちゃうんだけど、焼きそばの時は、まぁ、食中毒じゃなくて虫混入だけだったからかもしれないけど、そこまで大ごとにはならなかったのよ。」
「あ、それ、わても覚えてるでぇ。」
「うん、私も乳製品なんかのは覚えてる。」とももちゃん。
「それでね、焼きそばメーカーは最初ラインに虫が混入する余地がないって突っぱねて大炎上したんだけど、その後もう一度ラインを見直して混入する可能性は皆無ではなかったことを発表したのね。で、謝罪して、原因を突き止めて、再発防止を誓ったのね。」
「そやな。」とみぃ君
「つまりね、食中毒っていうのは、特に今回の様に人死が出てる場合は、企業は立ち直れないくらいの大ダメージを食らっちゃうんだけど、一つ大事な事は、今回の事件は私たちが起こしたんじゃないってことなのよ。」
「「「うんうん。」」」
「なのでまず、群衆に油を使った調理は別の国ではポピュラーで、芋料理と同じく、気を付けなければいけない点にさえ注意して調理すれば安全だという事、次に、この事件を起こしたのは私たちではない事。それでも事件のキッカケは、無責任に家を辞めて私たちに内緒で調理する様な者を雇って技術を教えた事に対する事なので、それに対して謝罪したいこと。再発防止の為に何をするかを伝えなければいけないと思ったのね。」と話しながら指を一つずつ折って、群衆に伝えたい事が全部で4つの点である事を3人に伝えた。
「うんうん。それで再発防止の為にどんな事するの?人を雇う時はもっと気を付けるってこと?」とやっぱりももちゃんが聞いて来た。
「本来、再発防止はそういうことになると思うんだけど、今回の事件はそこを問うているものではないと思うの。つまり、外国人が外国の調理法で調理した胡散臭い料理っていう偏見を払拭しなければ、いつまで経ってもお客は戻って来ないと思うの。で、うさん臭さはどこから来るかが問題なのよ。」
「え?原因はわてらが外国人だってことやないか。」
「うん。それはそうなんだけど、その事実は私たちには変えられないじゃない。」
「そうやな。」
「思うに、揚げ物料理は芋の料理と同じで気を付けなければいけない点はあるけれど安全な料理である事を広める事や、油の交換をいつ誰がやったかを可視化すれば少しは良くなる気がしたの。」
「?」とごんさんが理解していない顔付きでめりるどんを見た。
「つまりね、裁判の日に、油さえ定期的に交換すれば安全な食べ物だって強調して、いつ油を変えたかを自分たちの目で確認して、安心して食べに来てもらうってことなのよ。」
「ん?可視化ってどないするん?」
「チェックリストを作って、表の看板に貼るの。」とめりるどん。
「チェックリストを作るのかぁ。」とごんさん。
「そう。チェックリスト。ただ油の交換日時だけじゃなくって、宿の方の掃除、ベッドの干し草の天日干し、野菜などの生産者名、油の生産者名なんかをね、ほら、よく日本でもハンバーガー屋さんの入り口に椅子なんかに立て掛けてあったやつ、あんな感じにお洒落に情報を発信するの。」
「「「ほぉぉぉ。」」」と3人が感心した様な声を出した。
「そうすれば、そのチェックリストがお客の安心を呼べると思うのよ。だってさぁ、私たちが王都の宿屋に連泊した時だって、いつお掃除が入ったか分からなかったじゃん。実際に掃除されたのかどうかすら不明だったし。だから、この宿はちゃんと毎日お掃除しています。ベッドの干し草も天気が良ければ干していますって。」
「いいね、いいね!それっていいよ。安心感が増すと思う。りんご亭のセールスポイントにもなると思う。」とももちゃんはヤケに乗り気だ。
「ただなぁ、こっちの人は字、読めない人多いんちゃうん?」
「そっかぁ・・・。」とめりるどんは俯いた。
「だったら、イラスト入りにすれば?某ハンバーガー屋さんの黒板にもイラストは入ってたしね。イラストなら私描くよ~。」
「うん!それいい案やね、ももちゃん。ナイスや。」
「それもこれも、ポテトフライが如何に安全な食べ物かを群衆に分かってもらえなければ難しいかもしれん。」とごんさんは冷静に判断した。
「そこなんだよね。それでね、油で揚げる料理が日本ではポピュラーって事を示すために、唐揚げとか別の料理も群衆の前で調理させてもらうってのはどうかな?」と前から考えていたのだろう、めりるどんがスラスラと案を出した。
「からあげかぁ・・・。」とごんさんがつぶやいた。
「天ぷらや、唐揚げ、ポテトフライなんかの油で揚げる料理はこんなにありますってね。」
「う~む。」とごんさんはまだこれだけだと群衆の気持ちを変える事はできないんじゃないかと思っている様だ。
「で、さっき、衛兵の所に行った時に、料理教室に参加してもらう交換条件として、私たちもドンパの被害者で、これまで一度も食あたりを出していないのに、こんなめにあってるって群衆の前で言ってもらう約束をしてもらったの。」
「「「おおおお!!!」」」と3人から声が上がった。
「そこまで話を詰めてもらってるなら、大分話は変わってくるな。」と漸くごんさんも納得してくれた様だった。
4人は早速、従業員を全員呼び、衛兵副長と話したことを情報共有した。
ボルゲなどは、4人がしつこくドンパに古い油で調理してはいけないと言っていた事を群衆の前で証言しても良いとまで言ってくれた。
その夜4人は、群衆の前で何を発信するか、演説原稿を作る事にした。