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ドンパの屋台

 ドンパの売っていたポテトフライだが、油が劣化して、日を追うごとに美味しくなくなっていた。

 客も正直なもので、屋台を始めて1週間も経つと、美味しくなくなったという噂が流れ始めて、ドンパの屋台を利用する人数が減って来た。


 それでもポチポチではあるがポテトフライを購入する客もいたのだが、油の酸化がポテトフライの味にも影響を出し始めていたので、大人たちは一口、二口、口に入れると、これはダメだと捨ててしまっていた。


 問題はお小遣い片手にポテトフライを買いに来た子供たちだった。

 虎の子のお小遣いで買ったポテトフライ、遊び疲れてお腹も空いていたということで、仲良し5人組が2人前のポテトフライを最後まで食べてしまったのだ。


 ポテトフライを食べて2時間もしない内に、全員が体調を崩した。

 5人の中のガキ大将、トンマは、家のトイレに駆け込んだ。

 そしてなかなかトイレから出て来ない。

 心配になったトンマの母親が、「トンマ、大丈夫かい。」とトイレの戸をドンドンと叩くが、中からはトンマが嘔吐しているらしい音しか聞こえて来ない。

 無理やり戸を開けると、果たして便器の上におぶさる様にして嘔吐していたトンマがいた。

 

 トンマの母親はトンマを抱えて医者まで連れて行くのは無理と思い、急ぎ医者に家へ来てもらうべく、医者の元へ走った。

 トンマたち5人は近所同士なので一緒に遊んでいた幼馴染だ。

 トンマがこの状態なら、残りの4人も同様の症状が出ているはずだが、トンマの母親にそんな事は分からない。

 肝心のトンマが説明など出来る状態ではなく、何故こんなに酷い嘔吐を繰り返しているのか、原因を突き止める事は出来なかったのだ。


 実際、トンマの母親が医者の所に到着すると、医者は既にトンマの幼馴染のベルマの家に既に往診に出た後だった。

 医者の家族からそう伝え聞いた母親がベルマの家へ医者を探しに行こうとしていたところに、医者を探してもう一人の幼馴染マルの兄が駆け込んで来た。


 二人は一緒にすぐにベルマの家へ走った。

 ベルマの症状もトンマと全く同じで、このままトンマを家に放置できないと思った母親は、医者にベルマの次ぎに自分の家に来てもらう様往診を頼んで、家に帰った。


 医者が来た時には、トンマは胃の中身だけでなく、体中の水分とも思える量を嘔吐した後で、ぐったりしていた。

 この世界では、まだ体内に必要な水分量という考え方がなかった。

 医者は、嘔吐を止める薬を処方するのだが、何かを口に入れるとすぐに吐き出してしまうので、処方しても意味がない。


 結局、翌々日、5人の内、体力が比較的なかった年齢の低い2人の子供が帰らぬ人となった。

 医者がなんとか九死に一生を得て生き残ったトンマたち3人に確認したところ、ドンパの屋台で買ったポテトフライを食べてすぐに調子が悪くなったという情報を引き出した。


 揚げ物料理という調理法がないこの世界で、どの様な状態で調理をすれば危ないのかという知識は、ごんさん達4人と、彼らから調理法を教わったりんご亭の調理師たちしか持っていない。

 ドンパとボルゲ、ドンパの後に雇った調理人シンの3人は、古い油を使って料理してはいけないと散々聞かされていたが、実際に古い油を使ったらどうなるという事を本当には理解していなかった。


 もちろん医者も、揚げ物料理を知らない。

 だから未知の調理法を前に、どうしたら良いのかの判断もつかなかった。

 5人の親たちは役所にドンパへ対する訴えを申請した。

 

 「先生。原因は、ドンパの屋台で出している料理ってことで間違いないですか?」赤いお仕着せの制服を着た衛兵副長、ゴルミが医者の家まで来て、事情徴収を始めた。

 「5人があの日同じ物を口にしたのは、ポテトフライしかないんじゃよ。あ、パンがあるが、あれは不特定多数に売ってるから、パンが原因ならもっと患者がたくさん出ているはずだしのぉ。」

 「芋を油で揚げて塩を振りかけただけだとドンパは言うんですが、そんな調理方法は今まで聞いたこともないんです。この調理方法は危ないんですか。」

 「いやぁ。わしもこんな調理方法は初めて聞いたから、危ない調理方法かどうかは分からん。分からんが、原因はそのドンパ何某が作った料理である事はほぼ間違いないじゃろうよ。」


 ドンパはそのまま王都の監獄へ入れられた。

 これから数日に渡って取り調べが行われるのだ。

 「おい、出ろ。」牢獄に赤いお仕着せの衛兵が来た。ドンパを牢から小突く様に出す。

 「こっちだ。」と言って、取調室へ誘導する。


 「ポテトフライの作り方を言ってみろ。」

 「旦那、もう何度も言ってますが、作り方は変わりませんぜ。」

 「いいから言ってみろ。」


 ドンパは渋々作り方を説明する。既に10回近くは説明をしているのだ。

 「まず、芋を細く切ります。温めた油に小麦粉をパラパラと落として、泡が出て広がる様なら、切った芋を入れます。芋が浮いて来て色が付いたら、取り出します。熱い内に塩を振ります。」

 「で、その調理法はお前が考え出したのか。」

 「いえ、違います。りんご亭で働いてた時に教えてもらったんでさぁ。」

 事前の事情徴収でりんご亭が冒険者ギルドの裏あたりにある食堂兼宿であることは既に調べがついている。


 これについてもドンパは何度も説明している。

 何で同じ事を何回も聞かれるのかドンパには分からなかった。

 だが、何回も同じ事を聞かれればいい加減嫌になってくる。

 「本当にポテトフライが原因ですかい?りんご亭では毎晩大量にポテトフライが売れてますが、今まで死人など出た事もないですよ。」と、自分のせいじゃないという主張を繰り返している。


 ドンパは取り調べが終わると、また牢屋に入れられた。


 「おい。りんご亭へ行って来て、奴にポテトフライの作り方を教えた奴をしょっ引いて来い。」

 「はいっ。」

 赤いお仕着せの衛兵が、部下をリンゴ亭に派遣した。



 「お前がりんご亭のオーナーか。」赤いお仕着せがりんご亭の食堂で仁王立ちして言う。

 「オーナーの1人だな。」

 取り調べと聞いて、荒事担当のごんさんが自分から名乗りを上げた。とりあえず宿の営業もあるので、取り調べはごんさんだけが受けることになった。


 「何人で所有しるのか。」

 「俺を入れて4人。」

 「全員、お前みたいな外国人か。」

 「そうだ。」

 「どこの国から来た。」

 「日本という国だ。」等と取り調べは進んで行く。


 結局、ごんさんは、ドンパに油で揚げる料理の仕方を教えたが、その際、油は酸化するので常に新しい油を継ぎ足して油の鮮度を保つ事や、油が粘っこくなったり、揚げ物を投入した時大きな泡が出て一向に消えない場合は酸化しているから、その際は油を全部新しい物と取り換える様、指導していた事を伝えた。

 しかも、ドンパは勤めはじめて1か月ちょっとで無断でりんご亭を辞めており、免許皆伝で暖簾分けした訳ではない事も伝えた。


 その日の取り調べはごんさんだけで済んだが、翌日はみぃ君、翌々日は女性陣2名にまで事情徴収は及んだ。

 4人全員が同じ事を言っているし、チッチも取り調べを受けた時、4人がドンパにその様に指導していたと証言したので、4人の責任は不問にされた。


 だが、しかし、問題はここではない。

 りんご亭の客がガタっと減った事だ。

 ポテトフライで死人が出た。他の料理も危ないかもしれない。もともと王都にはない調理法で、外国人がやっている店等、客の方からしてみたら「あそこの店は行かない方がいいよ。」とお互いに声を掛け合ってる状態になっていた。


 食堂だけでなく、宿屋の方の客もガタっと減り、今では元々大部屋にいたヴィスタとオイードという女性冒険者2名だけしか宿泊客がいない状態である。


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