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宿の開店

 開店セールの忙しい1週間が過ぎた。

 みぃ君は、後、数日は戻って来ない。

 通常営業になって、開店セールの時ほどではないにしても一人抜けたままでの営業は体力的に厳しいものだった。


 おかげ様で、定食が普通の値段になってもお客は減る事はなく、食堂としては大成功だ。

 めりるどんとごんさんで午前中続けていた、宿の部分のリフォームも無事終わった。

 もう、いつ宿屋の部分を開店しても問題はないのだが、一人不在中に開店して手が回らなかったらどうしようという危惧があり、3人ともなかなか宿も開店しようとは言えなかった。


 だが、今朝、ごんさんは何か踏ん切りがついた様だ。

 朝食の席で、「思ったんだけど、猿酒の消費がずっとこのペースだと、みぃ君が戻って来たら、今度は入れ違いで俺が村へ行かないといけないと思うんだ。だから、宿の開店はもうやっていいと思う。」と切り出した。


 「それはそうなんだけど・・・。」とももちゃんは不安そうだ。

 「だって、宿屋の部分って、朝や昼間に来た冒険者を部屋に案内して、料金を取るだけだろ?客室の掃除は従業員がやってくれるし。どのみち、今までも料理の仕込みは俺たちでやって来たんだから、そっちには影響ないし。どうかな?」


 「そう言われればそうね。」とめりるどんはごんさんに賛成の様だ。

 ももちゃんもしばらく無言で考えて、「そうだね。じゃあ、宿屋も開店しようか。」と漸く賛同してくれた。


 「じゃあ、俺が冒険者ギルドの広告に宿屋も始めたって紙を貼りつけてくる。冒険者に良い宿がないかって聞かれた時、選択肢の一つに入れてもらえる様、受付の女の子たちにも伝えておくよ。」

 「おお!それは冒険者ギルドに登録しているごんさんが適任だね。」とニカっと笑っためりるどんが、ごんさんの肩をバシバシと叩いた。


 スーラとミルが出社すると、ももちゃんが現地従業員3名を集めて、「急ですが、明日から宿屋も始めます。ミルは食堂を、スーラは宿屋の部分の掃除をお願いします。ベッドの藁を敷くのは、チッチにお願いします。でも、まず、チッチは先に料理の材料とお酒を倉庫から調理場に運んでくださいね。」チッチが頷くのを見て、「宿泊客が来たら、スーラかミル、どちらか手の空いている方が値段についての案内や、部屋への案内をお願いします。手が足りない時は、私たち4人に声を掛けて下さい。しばらくはこの形で仕事を進めますが、誰かに仕事が偏る様でしたら、報告して下さい。調整します。あ、それとチッチは明日から客が泊まる様なら、夜対応してもらう事が多くなる可能性があるので、明日から昼ごはんの後は、夕食材料の運び込みが終われば夜の営業まで寝ていてもらっていいです。」と締めくくった。

 3人はそれぞれの仕事をするべく、調理場を出て行った。


 ごんさんは、冒険者ギルドに貼ってあったりんご亭の広告に、『宿屋はじめます。』の文字の下に、部屋の料金表を書いた紙きれを上から張り付けた。

 もちろん、目立つカラーで書かれたりんごマークの部分は避けてだが。


 そして、カウンターの女の子たちにも明日から宿屋部分も開店することを告げた。

 女の子たちは4人ともかなり綺麗なので、直接話せる機会があると、ごんさんは普通に嬉しい。

 右から2番目の娘が好みだなどと、一人頭の中で考えてしまうのはやっぱり男ならしょうがないのかもしれない。

 料金表が貼ってあるので、もし冒険者から値段を聞かれたら、教えてやってくれと頼んで、リンゴ亭に戻った。


 調理場ではももちゃんとめりるどんが夜の分の仕込みをしながら、「明後日からは客の朝食も用意しないといけないんだよね?」「昼食のお弁当とかも作るの?」って話していた。

 「お弁当はまだ手を付けない方が良くないか?」とごんさんが調理場へ入りながら声を掛けたら、ごんさんが戻って来てるとは思ってなかった二人が驚いた様にごんさんの方を振り向いた。

 これはごんさんが足音を立てずに歩く事が原因だ。

 今までも、後ろにいると思わない時に、ごんさんから声が掛かり、驚いた事は何回もあった。


 「それと、考えたんだが、そろそろ料理人も雇ったらどうかな?」と二人の様子はスルーしたまま、ごんさんがナイフを手に取り、下ごしらえに加わった。


 「そうだね。このまま食堂でいっぱいいっぱいになってしまうと、いろんなことを見逃しちゃう可能性も大きいし、早めに探した方がいいかもね。」とめりるどん。

 「ヴィーヴォさんは調理人の知り合いはいないって言ってたから、今度はクレッシェンドさんに聞く様になるのかなぁ」とももちゃんが言うと、「そうだな。後、ヴィーヴォさんもそろそろお食事に呼んでお礼しないとだな。」とごんさん。

 「明日、ごんさんとももちゃんで、クレッシェンドさんの所に聞きに行ったら?その帰りにヴィーヴォさんに声掛けて、ここに食べに来てもらったらどう?」

 「そうだな。ただ、明日は宿の開店だから、明後日の方がいいかもな。」ということで、明後日二人でクレッシェンドさんの所へ、相談へ行く事にした。


◇◆◇◆◇◆


 スーラの後ろに大柄な女性冒険者2名がついて階段を登っている。

 2階の突き当り、中庭側の扉を開けて、冒険者2人に中が良く見える様に、少し横に寄って、右手で部屋の中を示す。

 「こちらが大部屋です。部屋にあるテーブルは共同使用、棚はベッドの頭のところにあるマークと同じマークの部分が使える棚です。」


 大部屋は廊下の扉を開けたら向かいの壁には窓がなくめりるどんの自慢のエアープランツの額が取り外しが出来ない様嵌め込みで飾られており、その下にベッドが4台並び、扉側の壁にも4台並んでいる。左手の壁には窓があり、外壁側のスペースに食堂と同じテーブルが1卓と椅子が4脚置いてある。

 扉を開けてすぐ右側の壁に細長い木板で作られた二段の棚が設置されていて、ペンキでステンシルした草と花をモチーフにしたお洒落な絵柄でスペース区分けされ、ベッドのヘッドボードにステンシルで記された絵柄と同じ絵柄が同じ色でステンシルされている。

 このステンシルはももちゃんが型をデザインしてくれた。

 もちろん8つのベッドで同じ模様は一つとしてない。それどころか、絵柄はわざわざ別の色でステンシルされているので、間違え様がない。


 テーブルと棚のお陰で、奥側の壁のベッドと廊下側の壁のベッドの位置は少しズラして配置されている。

 各ベッド間の頭付近には背の低い木製の屏風が置いてある。

 これはお客がベッドに横になったら、隣のベッドの人の顔が見えなくなる高さまでしかない。

 木製だけに部屋に圧迫感を与えるが、背の高い屏風だと、横になった時の頭の位置なら問題ない。

 ましてや屏風なので、邪魔になれば部屋の隅に置けばいいだけの話だ。

 他の安宿ではない心遣いに、女性冒険者たちは部屋を見るなり「「わぁ~。」」と声を上げた。


 4人は食堂の仕込みや、食材の調達・管理などで忙しいので、宿泊客に部屋について説明するのは、スーラやミラの仕事だ。

 スーラもミラも貴族が集まる王都での生活が長いせいか、丁寧な表現で話す事が出来るので安心だ。

 4人が顔を出すのは1階での支払いの時くらいのものだ。


 宿屋を開店した日、新しい宿ということもあり、部屋は綺麗だろうと何人か部屋を見に来てくれた。


 「うわぁ。綺麗な部屋~。ねぇねぇ、ヴィスタ、この部屋にしようよ。」

 「うんうん。そうしよう。」

 女性客はこの部屋や二人部屋を見て、値段が折り合えば大抵一も二もなく宿泊すると決めてくれる。

 男性客は、他の安宿よりちょっぴり高い値段設定に半分に近い客が泊まるのを躊躇するのに比べると、対照的だ。


 それでも、2階の二人部屋が3部屋塞がり、大部屋に11人が宿泊することになった。

 大部屋は調理場と食堂のすぐ上になるのだが、男性の部屋と女性の部屋に各1部屋づつしかない。

 りんご亭は女性の冒険者が多く、大部屋客の内8人は女性だ。大部屋は8人で満員なのだ。

 大部屋に入れなかった何人かは、2人部屋に泊まった様だ。


 貸シーツを希望した人はゼロだった。

 しかし、これだけの人数が明日の朝、朝食を摂る事になる。

 昼寝に入る前に、チッチにパン屋へ行ってもらい、多めにパンを買って来てもらった。


 客は全員、夜の定食と朝ごはんを希望したので、その分の量は絶対確保しなければならない。

 食材管理もちゃんとやらなきゃねとめりるどんとももちゃんは話し合った。


 「明日の朝食は、スープとパン、エールとカットフルーツでいいかな?」とめりるどん。

 「そうだねぇ。家は部屋代を少し高めに設定してるから、朝食にカットフルーツを付けるのでお得感が出るかもねぇ。」

 旬のフルーツなら王都内に大量に出回るので、そんなに高くならないし、設定原価率を超えない様に、カットしたフルーツを出す事で、量の調整が簡単にできる。

 丸のままフルーツ提供だと、こうはいかない。


 夜、店を閉める前に、翌朝の料理の支度をしておくことにした。

 朝、早めに出る人にはチッチが対応することにしているので、皿によそえば良い様にして寝ないと、チッチが困る事になる。

 フルーツをカットするぐらいなら、チッチも困らないから、これが現状ではベストな方法だ。


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