開店セールの一週間
本年度もどうぞよろしくお願い致します。
今年が、みなさんにとって良い年でありますように。
開店二日目の朝、みぃ君は売れ残ったスープに具とお湯を足して、みんなの朝食を用意した。
女性陣はいつもの時間には起きてこず、寝坊している様だ。
昨夜は夜中まで立ったままの作業で、体力的にかなり堪えたはずだ。
もう少し寝かせてやろうかと思っていた時に、めりるどんが調理場に入って来た。
「おはよう~~~。」
「「おはよう!」」男性陣の挨拶と、チッチが無言で頭を下げた。
「あれ?ももちゃんは?」
「まだ寝ているみたいだね。」とごんさんが答えると、めりるどんは大きな欠伸をしながら、「そうなんだぁ~。」と間延びした返事をした。
「先に食べよか。」とみんなが朝食を食べ始めた時、ももちゃんが「おそよう~。」と言いながら入って来た。
みんなも「「「おそよう~。」」」と返し、チッチは相変わらず無言で頭を下げた。
「みんな昨日はお疲れ様。立ちっぱなしの仕事はキツイだろう?」とごんさんがみんなを労った。
みんな食べながら「うんうん。」と頭を縦に振る。
「そこで朝一番から申し訳ないんだけど、カウンター担当として相談があるんだ。」
「なぁに?」とももちゃん。
「猿酒の消費が半端ない。」
「あ、それ、わても思うた。」
「この前馬車2台分猿酒は運んで来たけど、今は、試飲もやってる分、考えていた量より多く消費してるんだ。だから、開店セールで忙しいけど、みぃ君か俺のどっちかがザンダル村に今日か明日にでも取りに行かんといけないと思う。」
ごんさんの提案にみんなしばし無言で食べながら考えていた。
「わてが行くでぇ。順番からいうても、わてやしなぁ。」
「今、人数が減るのは配膳とか調理の面で厳しいかもしれないけど、酒がなくなる方が厳しいかもしれない。昨日、一番売り上げたのは、まだ集計してないから大体の印象でだけど、やっぱり猿酒が一番捌けてた気がするんだよな。」
「じゃあ、配置を考えないといけないね。」とももちゃんが口の中の物を飲み込んで言った。
「問題は、スーラさんが帰った後の配置だよね?」とめりるどん。
「そうだね。彼がホールではあまり役に立ちそうにないので、カウンターをしてもらう様になると思うんだぁ。」とももちゃんは、目だけでチッチの方を示した。
4人は今、日本語で話しているので、そこへチッチだけ名前を出して話すと、チッチにしてみれば何を言われているか分からないのに自分の名前が出て来てしまい、気にしてしまうかもとの配慮だ。
外国人との付き合いが多いももちゃんならではの心遣いだ。
「そうだねぇ。料理するのが嫌でこの仕事に応募して来たくらいだから、調理は無理でしょうしねぇ。」
「とすると、カウンターで注文をさばくのと、飲み物をよそうのは彼に頼むとして、調理は昨日の二人で、配膳は俺が入るってことでいいか?」とごんさんがみんなの意見を纏めにかかった。
3人が賛成して、みぃ君は今日、まだ乗合馬車の時間に間に合いそうなので、これから移動してもらう事になった。
ももちゃんがチッチに各テーブルの箱と、料理などの札の見分けがつくか実地で練習し始めた。
めりるどんとごんさんは今夜の仕込みに入った。
みぃ君のいない開店2日目の夜は、昨日より更に多くの客が押し寄せた。
定食20%引きなので、お得感が強いのだ。
それと昨日食べに来てくれた人がリピーターとして来てくれてたり、昨日の客の感想を聞いて初めて来てくれた客も多い。
昨日の注文を午前中に集計し終えてたので、ポテトフライもよく出ていた事が実証され、営業中の作業量を軽減するためカットした芋もあらかじめ大量に用意していたし、スープも鍋3つ用意した。猿酒の樽も最初から2樽半、調理場に置いている。
これで、営業中に何度も倉庫へ行かなければならない事態は防げるはずだ。
問題は、昨日でも一人当たりの作業量はいっぱいいっぱいだったのに、今夜からは人手が一人分足りないのだ。
それと、チッチは札をテーブル別の箱へ入れたり、酒を注いだりは出来るのだが、清算が出来ない。
清算は都度、ごんさんが計算して対応する事にした。
みぃ君がいないしわ寄せは、主にごんさんがカバーする形になった。
それでも調理の下ごしらえ等を効率よくして、女性陣のどちらかが時々清算をしたりして、ごんさんを支えつつ、何とか地獄の1週間を乗り切る事が出来た。