コミュでの日常・非日常
==========<ももちゃん視点>===========
「おおおおおおお」
「来た来た!」
「みぃ君だぁ~」
「こんばんは」
コミュの入り口で固まった感じで立ち止まってるアバターは茶髪で目鼻立ちがはっきりしたみぃ君だ。鼻は少し大きい。
「こばは~」
「konnbannwa」
「おお!こんばんは」
みぃ君はこの有名なソーシャルゲームにインしてすぐにこのコミュに来たため、日本語入力への切り替えを忘れて挨拶がローマ字のままだった。あわてて日本語入力のキーを押す。「こんばんは~」と、日本語でもう一度挨拶する。
その間に、ここのコミュメンバーのめりるどんがソファ席から椅子席に移動して、みぃ君が座れるところを作る。
「そんなに気を使わなくていいのに・・・・」とみぃ君は言いながらも、折角自分のために空けてくれた席なので「ありがとう」とそこに座る。
めりるどんは女性キャラで、中身も女性だ。あ、みぃ君のキャラは男性で、中身も男性だ。
めりるどんは、アバターの髪型や化粧、服装などを頻繁に変えて楽しんでいるので、アバターの素の顔をみんなが知っていても、いつも見掛けるのは全くの別人に見えるキャラだ。ただ、とてもセンスが良いので、どんな着替えをしてもいつもばっちりばっちり決まっている。ドレスなどより普段着の様な服が好きらしく、仰々しくない自然なスタイルでおしゃれをするのがめりるどんの信条らしい。まぁ余談ではあるが、時々わざと変な恰好をして遊ぶ茶目っ気もある。どんな変な恰好かと言うと、変なおじさんのおばさん版とでも言える様な感じだ。ppp
ところで、このゲームでのコミュとは、同じ目的・興味を持った人たちが集まって、ゲーム内で一つ部屋を確保して、そこで思い思いの活動をするスペースや活動の事を指している。まぁ学校で言えば放課後のクラブ活動の様なものだ。もしかしたらその活動のふわふわ加減からすると、クラブというよりも同好会の方がしっくりくるかもしれない。少人数で一つのテーマの元に集まった人たちが、まったりもったりと一緒に時を過ごす、そんな場だ。
今彼らが集うこのコミュは日本の未来を憂う人たちで作られ、みんなが集まってワイワイガヤガヤと様々なテーマについて話し合ったり、ゲームをしてみたりと活動とも言えない活動をし、時にはディスカッションが煮詰まって、「この国はもうだめだ~」と暗くなって「もう、寝るかぁ~」で終わってしまうこともある。
こうやって集まって話したところで何かが変わることはないかもしれない。いや、ないだろう。
でも、このコミュに所属する数少ないメンバーたちは、現在日本を蝕んでいる病巣について話合う事は大事なことだと思っている。
例えば、日本の偏向報道の多さや、嘘の歴史を学校で教えていること。主義主張は右でも左でも構わないから日本の事を第一に考えることができる政治家の欠如、TVなどの報道だけを鵜呑みして今の日本の現状をちゃんと調べて知ろうとする人の少なさなどについて言葉を交わし、日々時事について意見を交わしている。
自分と似た考えを持った人と忌憚なく意見交換をしてみたいというそれだけの理由で少人数が集まってできているのがこのコミュなのだ。
「今ね~、政府がしっかりした審議もせずに外国人労働者受け入れ拡大を通しちゃったことについて話してたのよ~」と、このコミュの主催者である私、ももちゃんが言う。
誰かが会話の途中でコミュへ入室すると、いつも簡単に何ついての議論なのかを説明する様に心掛けているのだ。
「おおお!それそれ!とうとうやらかしてくれたね」とみぃ君も言う。
「そうそう、人手が足りないなら外国人を入れるんじゃなくって、日本人の給料を上げて欲しいよ」とは、めりるどんの言。
「デフレ脱却が今の政権のスローガンじゃなかったのか?なら物価も上げて、給料も上げろよ」と発言したのは、ごんさん。
「言ってることと、やってることに乖離があるよね」と、めりるどん。
ごんさんは、男性アバターで、スキンヘッドだ。リアルでもわざわざ毎日の様に頭を剃っていて「人工禿」と本人は笑う。ゲームではよく頭にかんざしとかいろんな物を突き立てていて、可愛いリボンなんかも結んでいる事が多い。つまり一見するととても可笑しな恰好なのだが、変な恰好フェチのめりるどんにはウケが良い。
「そうなんだよね~。だからまだ外国人を受け入れる土台ができてもいないのに無理やり受け入れないで欲しいよ。募集の給料を上げて日本人を働きやすくして、雇用数を上げてくれれば、内需も増えてデフレも緩和されるのにねぇ」と思いっきり自説をぶちまけてみる。
「そうなんだよね~。世界各国が移民にNOって言ってるこのご時世に、何で周回遅れでこんな悪手を日本に導入しようとしてるのかわからんな。やっぱり経〇連とかとの関係で無理やり導入してるんだろうか?」とみぃ君のアバターが激しいモーションをしながら叫ぶ。
この様な会話がこのコミュでは何度となく繰り返される。
話題は都度変わっていくが、日本の政治や未来、文化、教育、経済そして皇室などについて幅広く意見交換をしている。
ごんさんは、一時期アメリカに住んでいて、警護の様な職についていたらしい。
らしいというのは、個人の情報に関することは本人が言うまでは、みんな聞かない様にお互いに気を配っているからだ。
ごんさんのキャラはスキンヘッドというだけでなく、髭を生やしてる。
いかにも強面な外見だが、コミュに来ると高確率でいてくれるこのコミュの影の立役者だ。
みんな、ごんさんがいてくれるので少人数のメンバー登録しかないコミュでも安心して顔をのぞかせることができる。
ごんさんもリアルが忙しいので、キャラがいても中身がいるとは限らないのだが、みんなが来やすい様にそこにいてくれることがごんさんの思いやりだ。
個人情報に関する事はお互いに聞かない様にしているとはいっても、いろんな話をしている内に各自のおよその年齢はぼんやりと分かるのが不思議だ。
みぃ君は40代前半の男性で、既婚者。ごんさんは30代の半ば、めりるどんは大体40代の半ばというのが、みんなの見解だ。
まぁ、私の年齢もみんなとあまり変わりがないと思われているみたい。
このコミュには4名の他にも、ユッカどんや、イッシーさんなど大体似たような年代のメンバーもいる。
みぃ君は、気になる政治家がいるとインタビューをしに行ったり、選挙活動で街頭演説していたら少々遠くでも奥さんと一緒に現場に行って、その政治家の主張を聞くとともに、画面を通してでは知り得ないその政治家が発する生の雰囲気を感じ取ろうと日々努力している。これも、少しでもまともな政治家に一票を投じ、日本の未来にとってよい選挙を実施するために行っているみぃ君の努力だ。
めりるどんは主婦でありならが、おとうちゃんの(本人が言うには「おとうちゃん」と言うのが一番しっくりくるから、ご主人とか言うのはやめて~だそうだ。)仕事の事務もしている。
小さな時からお転婆を通り越してガキ大将だったらしい。
火傷や怪我もかなりの頻度で受傷していて、現在も体のあっちこっちに痛い部分があるそうだ。
日本の将来についてもいろいろ悩んでいて、いろんな記事や動画を毎日チェックしているかなりの事情通でもある。よくももちゃんから「このコミュのはらたいらだからね」と揶揄されるくらい様々な事に対する知識を持っている。
本人は「いや、篠沢教授と言って」とやり返しているが、ごんさんは何のことかわからずキョトンとしている。
これは昭和のTVクイズ番組を元に会話をしているのだが、実はその放送を知っているかどうかでメンバーの年齢を推し量っていたりする。
ももちゃんと言うキャラでコミュの主催者をしている私は、独身で、通訳・翻訳を長年やってきたが、最近は仕事が少なくなってきたというので、語学を少しだけ使う事務の仕事もやっている。
通訳ということで、様々な分野のテーマを広く浅く取り扱って来ているのだが、その仕事が終わるとその仕事のために得た知識を一旦白紙に戻して新しい仕事の情報を覚え直すという作業を長年続けてきたので、各テーマに関する知識は断片的にしか頭に残ってない。
通訳と言っても専門は英語ではないので英語はからっきしなんだけれど、世間で通訳と言えば、専門言語が別の言語であっても一律英語が出来ると思われているのが私的には不思議なんだよねぇ。
ももちゃんのキャラもくりくりおめめだが、口は横に一本線があるだけ。このコミュの内装も私のせいでコロコロ変わるが、キャラの外見も毎日の様にコロコロ変えてるのが特徴といえば特徴だ。アバターの外見を変える頻度は、めりるどんと同じくらい。つまりほぼ毎日!
コミュには時間の都合で先ほど挙げたユッカどんやイッシーさんは時々しか来れない。なので、平日や週末の夜に集まってるのは、だいたいこの4人だ。
今夜も今夜とて平日の夜なのに4人で集まって外国人労働者の受け入れ拡大について日付が変わるまで話し合ってている。
と、その時、画面が揺らいだ。砂嵐の様な一昔前のTV放送終了後の画面の様になった。
「えっ!?」とPCの画面を凝視したとたん、視界が真っ暗になって意識が途切れた。