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マグロ娘。Other hidden settings  作者: 山田響斗
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くだらないと笑う君の……

ここは小さな国、アルカー王国。

他のどの国よりも、平和で安全な国。




そんな日々を作り出しているアルカー王国の王様は、怪訝な顔をしていました。

ことの起こりは、三日前。とある報告のせいでした。

「2年後、イルキース王国が攻撃を仕掛けてきます。」

平和な国であるアルカーでは、平和であるが故に軍がないのです。

攻め込まれれば負けるのは必定です。

王様はそうなれば……国が滅んでしまう、と考えました。



早急に解決する必要があります。

王であるメリアが悩んだ末に出した答えは、「イルキースの王女と結ばれること」でした。

誰の命も奪うことなく解決する方法は、これしか思いつかなかったのです。

王様は誰よりも、国民を思っていました。

そして力も、規模も心許ないこの国を救うのはいつだって王様でした。


決意した四ヶ月後。

イルキース宮殿の王女の部屋の前にいたのは、清掃員姿のメリアでした。

四ヶ月の間、誇りもプライドも捨てコツコツと掃除してようやく王女と接する機会を得ました。

その模範的な姿から、王女の部屋の清掃を任されたのです。


一人で王女の部屋を掃除して、大きなクローゼットルームを掃除しようとした、その時です。

部屋に入ってきた王女が大きな声で叫びました。

「今すぐ、クローゼットから出て。中は私がするから。」

血の気の引いた王女を見て、驚きつつもメリアはクローゼットを出ました。


次の日からも、メリアは王女の部屋を掃除しましたがクローゼットには手を出しませんでした。

そのうち、王女と会話をする事も増えました。

しかし、メリアは王であり多忙だったので恋愛経験はほとんどありませんでした。

そのため、会話と言っても雑談くらいが限界でした。

それでも、ささやかな会話はお互いにとって少しずつ楽しい時間となり、二人はどんどん打ち解けて行きました。

王女もメリアも互いに心を許していたのです。

けれど、王女が笑顔を見せることはありませんでした。


そんなある日、王女が出張に行くことになりました。

王女はメリアに、クローゼットルームには絶対に入らないように言いました。

しかし、メリアはクローゼットの中に何があるのか気になって入ってしまいました。

クローゼットルームには、王女らしく綺麗な服が並んでいました。

しかし、入って直ぐは気づきませんでしたが、奥に行くと汚れた

服が多くなり、一番奥にはボロボロになって血の滲んだ服が、ありました。

あまりの、異様さにメリアは直ぐに部屋を出てしまいました。

この時ばかりは自分の好奇心を呪いました。


それから、王女が帰ってくるまでの間に様々な感情がうずまき始めました。


メリアは、王女に話しかける度あの時の記憶が蘇るようになり、話すのが嫌になってしまいました。

次第に雑談の回数も減り、やがて話すことはほとんど無くなりました。

メリアは、これではいけないと最後の手段を使うことにしました。

自分が王であること、戦争を止めるために王女との結婚を望んでいること。

全てを隠すことなく話しました。

王女は俯いて言いました。

「あなたは、好きでもない人を愛するんですか。それに私は、戦争の為に生きているわけじゃないんです。」

彼女の震える声に、メリアは自分のしたことがどれだけ彼女を傷つけたのかを、知りました。


王女を傷つけてしまったと知ったメリアは、

「すまない」

と言って、様々な思いの募る拳を握り、部屋を出ました。


彼は王女への気持ちに気づけないまま、国のために と、次の行動を起こしました。

それは、イルキースの王、マフロへ直接話をつけに行くことでした。


それから数日経って、他の清掃員とともにマフロの部屋の前の廊下を掃除していると、怒号が聞こえてきました。

ドアの隙間から覗くと、そこにはマフロと王女の姿があありました。

見ていると、突然マフロは自分の娘である王女を、持っていたステッキで殴りつけました。

鈍い音が響き、王女の目からは涙がこぼれました。

清掃員は言います。

「ここの所、毎日だ。可哀想にな…………」


メリアは怒りに似た焦りに満たされていました。

今まで感じたことの無い感情に操られるように、部屋の扉を勢いよく開けマフロに向かって泣きつくように言いました。

「もう……やめてくれ、ないか。」

マフロはメリアを睨みつけて言いました。

「誰だか知らんないが、見たのか?」

メリアは「あぁ」とだけ答えました。

マフロはメリアに向かって来て、ステッキで顔を殴りつけました。

衝撃で床に片膝を着いたメリアの体に幾度となくステッキを振り下ろしました。

「このことを話したらその日のうちに雑多の中に死ぬだろう。」

メリアはよく理解できなかったが頷きました。



メリアと王女は部屋を出された後、中庭の噴水の縁に座っていました。

「大丈夫?」

「何とか。」

「そっか。」

二人の会話はたどたどしく、話が上手く続きません。

そんな中、王女は言いました。

「もしかして、クローゼット。見たの?」

「………」

「出張の日から、なんかいつもと違って苦しそうだったから。」

メリアは、あの日のことを話しました。

「やっぱり………そう。」

「悪気はなかった……って、言い訳かな。」

メリアの心には気付けなかった悔しさが込み上げてきました。

「悲しかった。」

と、王女は話し始めました。

「雑談を聞いてる時だけは忘れられたの、色んなこと。」

メリアの方を向かずに彼女は続けました。

「だから、そのくだらない話が聞けなくなって悲しかった。」

「くだらない……」

メリアは少しショックを受けていました。

それと同じように、泣いている王女が不憫に見えました。

「でも、今日来てくれた、それが嬉しかった。」

泣いている王女が、メリアの方を向いたことで彼女が初めて笑顔を見せてくれていることに気づいたのです。

メリアは自分がそんなかけがえのない王女の仄かな光になれたのかもしれないと思えました。

王女の笑顔を側で見ていたいと、思ってしまいました。

この気持ちは……


「そこの男。」

急に声をかけられたメリアは驚きつつ振り返りました。

そこに居たのは、

「お父さま………」

消え入るような声をこぼした王女は不安そうに見ていました。

「やはり、何故ここにいるのかは知らないが……」

メリアは、はっとしました。

「メリア:スマイル王だな。」

「うっ。」

「地下牢にでも入れておけ。」

そういうと、メリアは数人の男に捕まってしまいました。

「お父さまっ!!」

「黙っていろ!」

マフロのステッキは持ち上がりませんでした。

かろうじてメリアがステッキを掴んでいたのです。

「気持ちの悪いっ!」

そう言ってマフロは腕を振り払い、ステッキでメリアの顔を殴りつけました。

その時にメリアは目を怪我してしまいました。

「ふっ、負け犬が……」

見えなくなった目を閉じたまま、メリアは呻きました。

「私は、愛する人も守れず、おまけに泣かせるような阿呆だ、だが負け犬じゃない。」

二回目の攻撃を受けてメリアの意識は遠のきました。

どんどん、王女が名前を呼ぶ声が遠ざかっていきます。

結局、メリアは男たちに地下牢へと連れていかれました。


地下牢へ連れて行かれたあとメリアは自分の無力さを嘆きました。

何も出来ない無力さを。

落ち込むこと数十分、足音が聞こえてきました。

メリアは、暗い地下牢で目を凝らしました。

そこに居たのは、廊下掃除時の清掃員でした。

「助けに来た。」

そう言って清掃員は、牢の鍵を開けました。

「どうして……」

状況が掴めていないメリアに清掃員は言います。

「あんたの恋路は、なんだかさ、応援したくなって……」

彼は老い先短い命だからかな。と言う。

「それに、嫌気がさしてたんだ。給料安いのに休み無しだぜ」

しかも、仕事は辞められないらしい。

結構ブラックな匂いがします。

「行こう。王子様役はあんただ。」

そう言って走り出した清掃員の後にメリアはついて行きました。

途中で様々な部屋を見て回り、ロープやハサミ、プラカード、マジックを手に入れました。

果たして役に立つのか分からないのは否めませんでした。



啖呵を切って早々に、マフロの部屋へと着きました。

慣れない隻眼に、驚きながらメリアは再び扉を開けました。

すると、そこでは使用人であろう2人がマフロを抑えていて、近くには、右腕が血だらけの王女が倒れていました。

メリアは、王女に駆け寄った。

「大丈夫か!?」

「何とか……」

嘘であることはわかっていました、メリアは甘えることはできないことはわかっていましたが、王女を清掃員に任せてマフロの所へ向かいました。


メリアは持っていたロープで抑えられているマフロを体型が分からなくなるほどぐるぐる巻きにしました。

「なんか足りないなぁ」

そこで、プラカードにマジックでloser(負け犬)と書きました。

そして、王女の元に駆け寄ると抱きしめて言いました。

「愛してる」

と、はっきりとそして優しく。

王女は赤らむ顔を見せないために動く左手だけで彼を抱きしめました。

「これからは王女ではなく、女王ですね。」

彼女は言いました。

失った左目の代償はマフロの王位剥奪となったのです



それから、数ヶ月後。

ここは小さな国、アルカー王国。

他のどの国よりも、平和で安全な国。

今日は、国王様の結婚式です。

お相手は笑顔の素敵な女性だそう。

この平和が続きますようにと、王国全体が祝福していました。

その日、メリア:スマイル王は誓いました。

この贈り物は二度と離さないと。

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