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囚われた親友に  作者: tukimine
11/11

現在

「ただいま」

「お帰りなさい」

「お帰り、陵」


 家に帰ると、定年退職した義父と義母が迎えてくれた。

 ―――俺は小田切家の養子になった。

 柏木家の次男だった俺は、家を出ても問題ないと思った。その申し出は両方の両親が驚き戸惑っていた。でも、最初に認めてくれたのは、英二の父だ。『お願い致します』と、俺の両親に頭を下げて下さった。なんでどうしてと涙ながら疑問をぶつけてきたが、俺の決心は揺るがず、最後は皆が納得してくれた。

 俺は柏木家が嫌になったんじゃない。感謝している。俺を生んでくれたこと。小田切家にも感謝している。……英二を生んでくれたこと。

 英二がどんな環境で、どんな人達に育ててもらったのか。そんな人達に、英二に代わって感謝して生きたいと思った。

 それが“英二と生きること”だと思ったからだ。


「涼しくなってきたし、もうお彼岸ね」

「残暑でまだ暑いけど過ごしやすくなったな」

「俺、明日墓参りに行ってきます」

「私達は今日済ませてきたから、お饅頭とお花が飾ってあるわよ」

「毎年毎年……きっとアイツは喜んでるだろうな」


 義母、義父はとても良くしてくれている。義母とは、君、さん付けが取れないけれど、それはそれでいい。義父とはすっかり打ち解けて、二人で飲みに行ったりする。アイツが嫉妬していたりしてな。











 次の日。お参り道具一式を持って墓に向かった。先に柏木家の墓へ行き、線香を上げた。それから小田切家の墓へ。昨日義母達が来たと言うだけあって、墓石も周囲も綺麗になっている。


「良かったな……英二」


 此処に来ると、不思議と心が安らぐ。英二が見守っているような気がして。


「英二……見てくれ。少しは上達したんじゃないか?」


 墓参りには似合わないサッカーボールを持ってきていた。墓から少し離れて、リフティングをする。


「よっ……と……っ、……ぉ……あっ………!」


 3回目でおかしな所へボールを蹴ってしまった。転がっていったボールを追いかけて、また墓の前に戻る。


「やっぱり俺はスポーツ向かないな。………もっと、お前に教えてもらえば良かったな」


 呟きながら線香に火を灯す。煙が立ち込め、墓の前に置いて手を合わせる。ゆっくりと目を閉じて………そうすれば、20年近く過去の思い出が甦ってくる。出逢いから別れに至るまで、全てが鮮明に。


「……俺はずっと……お前と添い遂げる。見守っててくれ。今も……これからも……愛している」


 立ち上がり、準備していたアクエリアスを開けて飲む。半分以上残して、それらを墓の上からかけた。


「これ……毎日飲んでたよな。沢山飲め」


 ペットボトルが空になって、それから水をかけてやり、墓石を拭いたら墓参りは終いだ。道具一式を片付けて、帰るのが名残惜しくその場で墓を見つめる。


「………」


 夢に英二が出てきてからは、もう涙が出なくなった。それきりで20年は泣いてない。ふわり、と……暖かい風が体を包みこむように吹いてきた。


「―――――」

「……っ!?」


 これは幻聴か。一瞬聞こえた気がする。アイツの声が。彼岸だからだろうか……。

 全身を包み込む温かさに俺は無意識に涙を流していた。



 END

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